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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

復興・新生への提言
岩手県大槌町民の健康状況把握のための訪問調査をとおして

鈴木るり子

はじめに

大槌町は、3.11東日本大震災で壊滅的な被害を受けた。市街地の52%を失い、人口の10%以上の人命を失った。公共施設は福祉施設を除きすべて被害を受けた。この大槌町の健康状況把握のため保健師による全戸訪問調査を実施し、それを基に復興への提言をしたので述べる。

1 大槌町民の健康状況把握のための訪問調査概要

1 調査目的

保健師による家庭訪問を実施し、1.安否確認により住民基本台帳を整備する、2.大槌町民の生活や心身の状況を把握し健康問題を明確にする、3.早急に支援・対応が必要な場合は速やかに行動するとともに町の保健師につなげる、4.これらの調査結果を基に、町の復興に向けて提言する、5.将来的に、町の保健福祉計画等の策定に生かしていただく。

2 実施方法

(1)調査A:保健師による全戸家庭訪問(避難所を含む)

全国から集まった保健師(協力団体:NPO法人公衆衛生看護研究所、全国保健師活動研究会、一般社団法人全国保健師教育機関協議会)による全戸家庭訪問。

1.訪問調査から判明した町民の安否情報を住民基本台帳に入力し、町の人口ピラミッドを作成した。

2.健康生活調査票の記載内容から特徴的な事項を分類・集計した。統計的に分析し、町の保健福祉計画の策定に生かせるようにした。

3.障害児(者)の実態把握:「きょうされん」(共同作業所全国連絡会)の依頼に協力した。

(2)調査B:フォーカスグループインタビュー

大槌町の復興を担う住民として、婦人会・青年団OB・消防団のメンバーに依頼し「がれきからの復興―私たちができること、そのために必要なこと」のテーマで、フォーカスグループインタビューを実施した。

(3)調査C:保健福祉関係の社会資源に重点を置いた地区診断

保健福祉関係の社会資源を調査。今回は、特に、福祉避難所となった施設を重点的に調査し、その実態や課題を把握した。

(4)統合(まとめ):以上をまとめて、町への提言(第一報)を行った。

3 実施日程

平成23年4月23日(土)~平成23年5月8日(日)

2 調査結果の概要

1 調査A:全戸家庭訪問調査件数等

(1)訪問戸数3,728戸、相談件数総数4,187人(在宅3,726人、避難所461人)。早急に対応が必要48人、支援の必要あり228人、経過観察286人。

きょうされんの実態把握調査に協力し、回答した障害児(者)数は113人。

(2)参加者保健師等

4月22日(金)~5月8日(日)で、計141人、延べ560人が参加。県内参加者25人(延べ83人)、県外参加者116人(延べ477人)。

(3)調査により、明らかになったこと

調査時の人口ピラミッドを作成した。住民基本台帳(平成23年3月11日現在)の人口数は16,058人。入力済は10,758人(把握率は約67.0%)、入力者10,758人中、死亡359人、不明745人、町内で生存8,925人、町外で生存694人、元から不明35人。

2 調査B:フォーカスグループインタビュー

(1)青年団OB波工房、消防団、婦人部の有志に対し5月5日に実施、意見を集約。

(2)調査により、明らかになったこと

1.町民の特徴

  • 町民意識が強く、大槌町を愛している。
  • 自然と共存した美しい町づくりを希望している。

2.災害直後の問題(地震、津波、火事)として被災者の安全確保ができなかったことがあげられた(消火ができなかった。津波のため、地元の消防団が水門を閉めに行って亡くなった。その間にポンプ車も流された。避難所は大規模災害の避難者に見合った確保ができていなかった。物資(着替え、低体温の問題)の備蓄がなかった。医療の確保ができなかった。開業医、病院が被災・流出し治療の場がなくなった。唯一医師が常駐しているケアプラザおおつち(老人保健施設)が緊急の診療所となって、患者の搬入と搬送を行った。津波に遭わなかった人も電気・水道が止まり、暖をとれなかった。全住民が被災を受けた状態であった等)。

3 調査C:保健福祉関係の地区診断

社会福祉機関6法人(社会福祉協議会、三陸園、ケアプラザおおつち、四季の郷、城山の杜、わらび学園)に訪問・被災概要を把握した。社会福祉機関6法人は、福祉避難所に指定されていたが、大規模災害のために、災害直後は8,000人を超える避難者の避難所となった。施設に入所している障がい者の安全は確保されたが、在宅障がい者は厳しい状態であった。

避難所では、おむつ交換ができなかった。また、体温調節できない障がい者が停電により、体調を崩した。さらに通所の障がい者施設が、全壊または一般避難所になり、通所ができない等大きな支障を来していた。

3 復興への提言

1 医療サービス

(1)入院ベッドが確保できる県立病院の重要性、整形外科をはじめとする診療科の重要性(高血圧、整形外科的疾患が多い)が明らかになった。

(2)開業医の復活:内科、歯科の仮設診療所から常設診療所の開設・確保。

2 保健サービス

(1)人口の約半分が住むことになる仮設住宅における健康管理の充実。健康管理の拠点としての住民組織の再構築、孤立化予防を図る。

(2)生活習慣病の予防(高血圧、飲酒、肥満、ADLの低下、生活不活発病等)

(3)自殺予防

3 福祉サービス

(1)一時的に利用者が減少した在宅サービス機関の維持や障がい者施設の再開。訪問看護ステーション等在宅福祉サービスの維持、身体・精神障がい者作業所の再開や施設機能を維持できる資金援助が必要。

(2)障がい者対策

1.地震や津波が起こった時の施設としての体制づくり

2.通所系施設の利用者の生活の場の確保。大槌町における身体・精神障がい者の自立支援のためにも作業所の再開が急務。

4 職の確保

職を失い、心が折れて飲酒量が増加してしまった住民の存在(特に、成人男性)がある。そのため、

(1)働く場の確保:被災企業のパート職員は任用更新されず働く場を失った。がれきの撤去(建設業)や理美容、看護・介護などの技術者を地元で雇用する。

(2)働く見通しの確保:復興計画を早く!

(3)地場産業および商店の復興、被災企業、自営業の支援

5 住の確保

仮設住宅や住宅再建ができないために離職、離町→人口減につながる→高齢化が進むという図式が考えられる。早期の住宅の確保が必要である。

(1)早期に危険地域の指定が必要

(2)早期に質の高い仮設住宅の確保、地域の拠点施設の設置、コミュニティーの再生・維持、労働力の再生産の場として重要。複合施設として世代間交流ができるように、施設はバリアフリーにする。リハビリ・運動の場、集える場をつくる。

6 教育

(1)学童・思春期の子どもたちが、がれきの中で遊び、泥遊びをしているので、破傷風の危険がある。安心して遊べる場、集う場所を確保することが重要である。早期に教育環境を整える必要性がある。被災した子どもの健やかな発達保障(親を含めた)。野球、運動場、武道場、図書館(知的財産確保)等の建設。

(2)社会教育:バラバラになった大人たちが集う場がない現状では、孤立・閉じこもりを招く。仲間で集い、町の復興を語り合える場が必要である。青年団、消防団、婦人会、それぞれが活動できる場が必要。

7 交通アクセス

通院の足の確保、通学バス、JRの復活!。

おわりに

6月19日で、3.11から100日が過ぎ、大槌町では6月18日に合同慰霊祭が行われた。あまりにも失われた命の多さに、悲しみを超えた怒りを感じた。障がい者の通所施設の再開は、わらび学園のみにとどまっている。我々専門家は、彼らたちの代弁者でもある。何としてでも、再開にこぎつけたい。

(すずきるりこ 岩手看護短期大学教授)