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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

復興・新生への提言
障害者・高齢者対策の避難とまちづくりに関する提言

秋山哲男

1 はじめに

今回は、津波から命をどのように守るかが最大の課題であること。また復興から「新しく生まれ変わる・新生」の提言として、障害者・高齢者の生き方を取り入れたインフラ整備やサービスの提供を目指すことを詳述した。

2 津波と関係する地震の歴史

津波に関連する地震は、明治三陸大津波(1896年6月15日午後7時32分)が釜石東方沖のマグニチュード7.6、死者22,000人に及んだ。そして昭和三陸地震(1933年3月3日午前2時30分)は、釜石町東方沖200キロ、マグニチュード8.1、3,064人の死者・行方不明者であった。最近では、チリ津波(2010年5月22日15時11分)が22時間後(5月24日未明)に6メートルの津波により142人が死亡した(文献1)。

東日本大震災は(2011年3月11日午後2時46分)は、地震の規模がマグニチュード9と大きかったが、明治の津波災害と同様に内陸での揺れは大きくなく、比較的長く続く「ゆれ」であった。地震の特徴から見ると、津波と大きく関係していたプレート型の地震であり、その結果、岩手県、宮城県、福島県の3県で死者・行方不明者が約2万4千人に及び、家屋の全壊・流失が59,408戸、その多くが津波による被害であった。

3 「復興」から「新しく生まれ変わる(新生)」へ

ここで「復興」とは機能を回復し以前の状態に戻す意味が強いが、元に戻すのではなく、新しい機能を付与し、それぞれの地域で異なる未来の形を作り上げてゆく、あるいは新しい能力や活力を獲得してゆく「新生」や「創生」のプロセスが必要と考えられる。ここでいう新しい機能とは、災害対策の基本である、以下の3点である。

1.命を守る:避難システムを総合的に行う

2.居住の場の確保とまちづくり:障害者・高齢者が安全居住できること。障害が問題ではなく、社会が問題と考える社会モデルやユニバーサルデザインをベースにした「まちづくり」を目指すこと。

3.生活を守る:生業の復活、移動の保障(医者にかかる、買い物に行ける、などの移動の保障)を明確に位置づけること。

3.1 命を守るための避難

(1)障害者・高齢者の命を救う全力避難と市民教育

三陸沿岸の津波は明治三陸大津波、昭和三陸地震を経験し、東日本大震災の津波の被害を受けている。田老町や山田町では津波対策として10メートル以上にも及ぶ防潮堤を作り備えたが、あえなく津波は乗り越え、防潮堤も壊されたが津波を遅らせる効果(ある地区では6分)があった。人々の避難支援にある程度役立っているが、防潮堤だけでは命を守れず、人々の避難の努力も合わせて必要であることを物語っている。

(2)なぜ人々は避難しないのか?

三陸海岸は過去に大津波が襲来し多くの人が命を落としているのにもかかわらず、なぜ2万4千にも及ぶ死者や行方不明者を出したのか? なぜ過去の経験が生かされていないのか? チリ沖地震津波(2010年2月27日)の避難指示・避難勧告の対象者168万人のうちわずか6万4千人(3.8%)しか避難しなかった。

以上のことから瞬間的に避難することができず、考えている間に時間が過ぎてゆく人の姿が目に浮かぶ。

(3)あらゆる層の津波避難教育と訓練、そして心構えを

釜石市の小・中学校では、一生懸命逃げた児童生徒は以前から避難教育を進めている片田教授(群馬大学)の教え(1.想定にとらわれるな、2.最善を尽くせ、3.率先者たれ)に従って、すべての児童・生徒が逃げ助かっている。また、400の保育園の園児はだれも命を落とさなかった。それは保育士の「園児は自分では逃げられないので、私たちがたとえ避難警報が空振りでも全力で逃げる」といった賞賛すべき職業意識から園児を守ったのである。つまり、助かった人は全力で避難した人である。

逃げない人がいると障害者・高齢者の死者も増加する。理由は、一人での移動困難な障害者・高齢者は、自分の意志で逃げたいと思っても周りの人が逃げない場合は共に命を失う。

3.2 住まいの確保とまちづくり

(1)仮設住宅

津波で家を流された人が生活を継続する場合、避難所ではなく仮設住宅を含む住まいの確保が不可欠である。特に仮設住宅は、コミュニティーを考えるためにできるだけ近隣の人を近くに入居させる、仮設住宅で孤立しないための対策である買い物空間、コミュニティー空間などを作る。

障害者配慮のためのバリアフリー設備やケアサービスなども併せて考える必要性を強く感じた。

(2)住まい確保とまちづくり

津波危険の地域には、建築基準法84条の建築制限や建築禁止のエリアが存在する。まだ計画はこれからだが、障害者・高齢者のバリアフリーを取り込んだ新たなまちづくりを積極的に行うチャンスである。

(3)避難所と避難後の生活確保

1.福祉避難所を日常の延長上に作る

今回、知的障害者は奇声をあげてどなられたことや、車いす使用者などの障害者にはバリアがあるので生活ができないなどで、電気も水道も止まっている自宅に帰った人もいた。また、医療的な対応を必要とする酸素・人工透析などの人のためにも特別な福祉避難所が不可欠である。

日常的に利用している障害者・高齢者施設などを用いた福祉避難所機能を作ること。

2.重度の障害者・高齢者の一時的避難所

災害から1週間程度の緊急時まで、重度の人の命を守るために、水・食料・電気・最低限の医療的設備などがある30~40人は入れるシェルター型の避難所が必要である。

3.重度障害者の広域避難提携都市をつくる

重度な障害者・高齢者は、電気水道などが不十分な被災地から離れた都市に移動して生活する必要性がある。こうした提携都市を決めておく必要がある。

3.3 生活支援

(1)生業(漁業・農業・商業)の場の復興

被災地域の被害は一律ではなく、被害の規模や内容も地域ごとに異なる。また被災者は家族を失った人、仕事を失った人、家を失った人、ローンを抱えている人など、差し迫った生活のさまざまな変化により人生の設計の再構築を迫られている。特に、漁業・農業・商業などの生業をいかに早く始めるかという問題がある。これらの企業などには障害者・高齢者が働いていること、働いている人の家族に障害者・高齢者がいること。以上のことから、一日も早く仕事ができる体制にすることが障害者・高齢者対策の一つにもなるはずである。

(2)移動サービスの供給

今回、津波で自動車が24万台程度流失し、人々の移動は瓦礫が道を埋め尽くし、移動手段もなく通院や通学に困難を極めている。しかし、被災地の循環バスなど大きなところは行政が早々と対応してきたが、移動困難者の問題はボランティアの支援(全国移動ネットなど)による以外ほとんど解決していない。その理由は、もともと移動困難者の交通サービスの提供が極めて脆弱な地域であったからである。

1.タクシーによる無料送迎システムの供給

短期的には、病院・学校・買い物など必要不可欠な交通サービスを行政が無料で一般の人も含めて送迎することが必要である。この場合、タクシーなどに緊急雇用制度により仕事がない人を雇用し、タクシーサービスを行うことである。また、タクシー会社に社会貢献の部門を作り、行政も一定程度助成して運営するなどの工夫が必要である。

2.スペシャルトランスポート(ST)サービスの運行

また長期的には、障害者・高齢者の移動システム(日本は世界の先進国の中で最も遅れている国)を被災地で新しいモデルを作ることが重要である。日本は道路運送法78条などボランティアに依存する体質であるが、各国とも行政の責任でサービスを行っている。

(あきやまてつお 北星学園大学客員教授、日本福祉のまちづくり学会『震災復興特別委員会』委員長)


【参考文献】

)河田恵昭「津波災害」岩波新書、2010年12月、pp.3~49

【注釈】

(注1)TV放送、NHKなど