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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

リレー推進会議レポート12

第32回と第33回の報告

山崎公士

第32回(2011年5月23日(月))

第32回障がい者制度改革推進会議は「災害と障害者」をテーマとし、東日本大震災による障害者の被災状況を把握し、今後の議論に向け基礎的な検討を行った。事前に意見提出が依頼された次の事項に沿って議論された。紙数の関係で、項目を絞って報告したい。

(1)安否・被災状況の確認、ニーズ把握の現状、(2)避難所での障害者の現状、(3)福祉避難所での障害者の現状、(4)被災障害者への支援、(5)被災障害者にとっての被害とは、(6)被災障害者に対する支援における基本的課題、(7)復旧、復興のプロセスでの重要事項、(8)その他、救援の在り方、制度、仕組みなど、大枠について。

1.障害者の安否・被災状況の確認

はじめに、東室長から障害者27団体からの情報をもとに、東日本大震災における障害者の被災状況について報告があった。岩手・宮城・福島3県の沿岸37市町村の人口は250万人で、障害者手帳保持者を人口の0.6%とすれば、約15万人の障害者がこの地域に在住していると推定される(ただし、精神障害者の手帳取得数は少ないので、正確な被災者数とはいえない)。27団体が9千人の在宅障害者を対象に調査した結果、2.5%にあたる約230人が死亡または行方不明となっている。3県住民全体に占める死者・行方不明者は1%弱であるが、障害者についてはその2倍強であり、被害が際だっている。

27団体からの情報によれば、要支援者は1800人を超える(登録された要支援者は安否確認済み。ただし、精神障害者に関しこの登録がなされているか不明)。調査した500施設中、全壊100、一部が壊れた施設は250である。なお、「災害」に限定せず、原発事故による「緊急事態」への対応状況も確認すべきだとの意見もあった。

2.避難所での障害者の現状

いったんは避難所に避難したが、底冷えによる体力低下、トイレや介護の環境、ストレスによる大声、夜中の走り回り等々の理由で長期間避難所にいられず、自宅や親族の家に戻らざるを得ない事例が委員から報告された。その結果、避難所に滞在する障害者は少ない。個人情報保護を優先するあまり、避難所以外で過ごす障害者の安否や実態が把握しにくいことも指摘された。

3.被災障害者にとっての被害とは

東室長から事前に次の被害の類型化が例示された。1.生命、身体、財産への直接的被害、2.障害者が福祉・医療のサービスを利用できなくなること、3.公的サービスを受けず、家族や地域社会の支えで生きてきた障害者が、支えを失い生活困難になること、4.家族や地域社会の支えなしに生活できていた障害者が、生活環境、社会環境の急変によって、生活困難になること、5.さまざまな支援の欠如が、障害者を社会生活から排除する要因を生み出すこと。この類型はおおむね妥当とされた。ただし、精神的障害を受けた聞こえない人のこころのケアの問題はどの類型に入るのか、1については「安心」への被害もあるのではといった意見も出された。

第33回(2011年6月27日(月))

第33回では合同作業チームの報告に基づき意見交換された。これに先立ち、東室長から1.障害者基本法改正案が衆議院を通過し、参議院に送付され、2.障害者虐待防止法が成立したことが報告された。「中央障害者施策推進協議会」に代わり置かれる「障害者政策委員会」では省庁を超えた議論が可能かとの質問があり、東室長は「障害者基本計画」には省庁横断的なあらゆる問題が入るので、広範な議論ができると回答した。なお最後に、総合福祉部会の佐藤部会長と尾上副部会長から、8月末までには法案の骨格提言を作りたい旨の報告があった。

1.就労合同チーム・松井座長報告

就労系事業においては労働者性を認めるべきである。障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開できるよう関係行政組織を再編成し、雇用・就労、福祉・年金等にかかる総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を自治体に設置する必要がある。なお、総合福祉部会でのこの問題に関する厚生労働省のコメントは同省の審議会での議論を重視し、推進会議を軽視するものである。

2.医療合同チーム・堂本座長報告

第1期は精神障害者施策を中心に検討し、第2期では重度障害者、難病者などの問題も取り上げた。厚生労働省はコメントで他の審議会でやっているからとして、正面から受け止めようとしないが、当事者の意見を大切にすべきである。質疑では「推進会議の意義が問われている。他省庁との意見のすり合わせの機会などを設けるべきだ」との意見が出された。

3.障害児支援合同チーム・大谷座長報告

障害児は、障害の種類や程度にかかわりなく、一人の子どもとして平等に扱われるべきで、子どもの最善の利益、意見表明権を明記し、子どものオンブズパーソンを制度化することが基本である。これに基づき、子ども一般施策における障害児支援、障害児施策、相談支援等について論点整理した。多くの課題は児童福祉法の改正に関わる。

第32回は東日本大震災によって障害者がどのような影響を受け、的確な対応がなされているかという重いテーマが論じられた。また第33回では総合福祉部会の合同作業チームの報告に基づき、同部会で精密に検討されてきた障害者の権利、就労、医療、教育の諸問題が論じられた。その結果、障害当事者主体の推進会議での議論の流れと厚生労働省等設置の審議会での議論の方向が異なることが改めて浮き彫りにされた。これまで積み重ねてきた成果を拠(よ)り所(どころ)に、障がい者制度改革を進める力量が問われている。

(やまざきこうし 神奈川大学教授)