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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

障害者基本法の改正について

難波吉雄・片山貴順

1 経緯

障害者基本法は、昭和45年に議員立法により制定され、その後も議員立法により複数回に渡る改正が行われてきた。

平成21年12月、政府は、障害者の権利に関する条約(仮称)の締結に向けた国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革を行うため、内閣総理大臣を本部長としすべての国務大臣により構成される「障がい者制度改革推進本部」を設置し、同本部の下で、平成22年1月から障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という)を開催してきた。同年6月、推進会議は、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」を取りまとめ、これを受けて政府は改革の工程表である「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を閣議決定し、その中で障害者基本法について「平成23年常会への法案提出を目指す」とした。その後、推進会議はさらに議論を行い、同年12月障害者基本法の改正に関する「障害者制度改革の推進のための第二次意見」を取りまとめ、これらを踏まえて、政府は「障害者基本法の一部を改正する法律案」を平成23年4月22日に閣議決定し、国会へと提出した。

同法律案は、衆議院において政府案を一部修正の上、同年6月16日に全会一致で可決され、参議院においては7月29日に全会一致で可決・成立し、8月5日に公布・施行(一部を除く)された。なお、改正法の成立に際しては、衆議院及び参議院において附帯決議が付されている。

2 法律の概要

衆議院における修正も含めた主な改正点は、以下のとおりである。

1 総則

(1)目的

障害者を、必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体としてとらえ、障害者があらゆる分野において分け隔てられることなく、他者と共生することができる社会の実現を法の目的として新たに規定した(1条)。

(2)定義

1.障害者が日常生活等において受ける制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるとするいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害者の定義の見直しを行った(2条1号)。その際、「障害」の範囲については、発達障害や難病等に起因する障害が含まれることを明確化する観点から、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を「障害」とした。なお、難病等に起因する障害は「その他の心身の機能の障害」に含まれるものとして整理している。

2.1の「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限をもたらす原因となる社会的な障壁について規定した(2条2号)。

(3)地域社会における共生等

障害の有無にかかわらず共生する社会の実現を図るに当たって旨とするべき事項として、地域社会における共生(3条2号)、コミュニケーション手段の選択の機会の確保(3条3号)を新たに規定した。

(4)差別の禁止

「合理的配慮」をしないことが差別であるという権利条約の趣旨を踏まえ、障害者への差別とならないよう、障害者が個々の場合において社会的障壁の除去を必要とし、かつ、そのための負担が過重でない場合には、その障壁を除去するための措置が実施されなければならない旨を規定した(4条2項)。

2 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策

(1)医療、介護等

今般の改正では、地域社会における共生を基本原則としていることから、可能な限り障害者が自らの意思に反して施設や病院での生活を強いられることなく地域社会で生活できるようにするため、その身近な場所において医療、介護等を受けられるようにする旨を規定するとともに、医療、介護等の提供に当たっては、基本的に本人の意思を尊重し適正手続を確保する観点から、障害者の人権を十分尊重しなければならない旨を新たに規定した(14条5項)。

(2)教育

1.現在、就学先の決定に当たって、特定の基準に該当する子どもは、原則特別支援教育を受けることとされているところであるが、今般の改正では、地域社会における共生を基本原則としていることから、教育の分野においても、障害者本人・保護者の希望に応じて、可能な限り障害者が障害者でない者と共に教育を受けられるよう配慮する旨を新たに規定するとともに、そのために必要な人材の確保及び資質の向上等を促進する旨を新たに規定した(16条1・3項)。

2.障害者の就学先の決定に当たっては、障害者本人・保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない旨を新たに規定した(16条2項)。

(3)療育

障害者が地域社会において他の人々と共生する社会を実現する上で、障害のある子どもが保育やリハビリテーション等の必要な支援を身近なところで受けられるようにすることが必要との観点から、可能な限り身近な場所において、障害者である子どもが療育その他これに関連する支援を受けられるようにする旨の条文を新設した(17条1項)。

(4)防災及び防犯

障害者であることによって、災害や犯罪に巻き込まれた場合等において、その被害が深刻化することのないよう、また、平時において安全・安心した生活を営むことができるようにする観点から、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講ずる旨の条文を新設した(26条)。

特に情報の伝達について、災害その他非常の事態における生命、身体等の安全にかかわる情報の伝達は重要であるため、当該情報の伝達の際に、障害者がその有する障害のために障害者でない者に比して不利となることがないよう、行政から情報提供を行う際の配慮について規定した(22条2項)。

(5)消費者としての障害者の保護

障害者は、その特性により消費者被害に遭いやすいことから、障害者の消費者としての利益の擁護及び増進が図られるよう、適切な方法による情報の提供等を行う旨の条文を新設した(27条1項)。

(6)選挙等における配慮

選挙等において、障害者が円滑に投票できるよう、たとえば投票所内におけるバリアフリーや、障害者の特性に応じた方法により選挙に関する情報を提供するなど、投票所の施設又は設備の整備等を行う旨の条文を新設した(28条)。

(7)司法手続における配慮等

障害者が、刑事事件の手続の対象となった場合や民事事件の当事者となった場合などにおいて、その権利の行使に当たって障害者でない者に比して不利となることがないよう、個々の障害者の特性に応じて意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修等を行う旨の条文を新設した(29条)。

3 障害者政策委員会等

(1)障害者政策委員会

障害者権利条約33条2項に「条約の実施を…監視するための枠組みを自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する」と規定されていることを踏まえ、障害者基本計画の実施状況を監視し、必要に応じて関係各大臣等に対する勧告等を行う「障害者政策委員会」を「中央障害者施策推進協議会」及び「障がい者制度改革推進会議」を発展的に改組して、新たに内閣府に置くこととした(32条1・2項)。なお、この場合の監視とは、障害者基本法に基づく各施策の進捗状況を把握し、また計画の内容に沿って適切な内容となっているか、所期の成果が上がっているか等について評価を行うことをいう。

(2)都道府県等における合議制の機関

都道府県等についても、都道府県障害者計画の策定を始め、障害者施策の実施主体として重要な役割を担っていることに鑑み、地方障害者施策推進協議会を改組し、その所掌事務に障害者施策の実施状況の監視を追加した(36条)。

4 検討

(1)施行後3年を経過した場合において、法の施行状況について検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講ずるものとした(附則2条1項)。

(2)障害に応じた施策の実施状況を踏まえ、地域における保健、医療及び福祉の相互の有機的連携の確保その他の障害者に対する支援体制の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとした(附則2条2項)。同項の趣旨について修正案提出者から「障害に応じた施策の実施状況については、特に精神障害者について社会的入院が依然多く存在しておりまして、地域社会への移行が進んでいないという現状も当然含まれております。」(平成23年7月28日参議院内閣委員会)との答弁がなされている。

(なんばよしお 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)・かたやまたかゆき 同参事官付主査)