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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

改正の評価
自治体の立場から見た障害者基本法改正の評価と課題

二見清一

はじめに

2011年8月5日に公布・施行された「障害者基本法の一部を改正する法律」は、「障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」という)」がとりまとめた「障害者制度改革の推進のための第二次意見」を十分反映できず、抜本的ではなく一部改正に留(とど)まってしまった感は否めない。しかし障害者権利条約の批准を視野に、障害者の定義に社会的障壁を明記し、その除去について必要かつ合理的な配慮を求めるなどの前進もあり、全体的には「三歩進んで二歩下がる」といったところか。

障害者基本法は具体的な制度を規定する法律ではないので、自立支援法廃止・新法制定ほど影響がない印象もあるが、藤井推進会議議長代理の言葉を借りれば「3段ロケットの1段目」にあたり、ここでつまずくと、総合福祉法・差別禁止法制定と続く障害者制度改革全体が進まないことになりかねない重要な局面であった。国会で十分な議論が尽くされたとは言い難いが、先送りせずに成立したことで、制度改革は次のステップに進む。ここでは、自治体の立場から障害者基本法改正の内容を考察し、課題を明らかにしたい。

全庁的な対応の必要性

障害者基本法は日常生活支援のみならず、教育・雇用・住宅といった障害者の生活全般に及ぶ基本的施策を定めている。これは各自治体の障害福祉担当主管課で対応できる範囲ではなく、自治体のあらゆる部署の、それぞれの業務の中で活(い)かさなければならない。

たとえば選挙等における配慮で、障害者が円滑に投票できるよう投票所の施設や設備の整備等が義務づけられたが、小学校の体育館を投票所として使っていれば、体育館までの段差解消や案内表示・備品の整備などを、教育委員会と選挙管理委員会と施設改修担当課が関わって進めることになる。住宅の確保については、都道府県と市町村の住宅課が連携する必要があるし、職業紹介では国の機関であるハローワークとの連携も求められる。とはいえ、それぞれの部署が障害者基本法改正を把握してその対策を講じているとも考えにくく、障害福祉主管課のリーダーシップが重要となる。

2011年度は自立支援法が定める障害福祉計画の第三次分の策定年であるが、当区では障害者基本法が定める障害者計画を、障害福祉計画の3年と合わせて6年の計画期間としており、今年は両計画の策定年になっている。その検討の中で庁内の各部署と連携を図り、改正障害者基本法に対応した障害者計画を策定することが求められる。

合議制の機関と自立支援協議会

現在の推進会議が法定化されて「障害者政策委員会」となり、国が定める障害者基本計画に対する意見を述べるに留まらず、障害者権利条約が求めるモニタリング機関としての役割を担う構図はとてもわかりやすい。しかし都道府県が置く、市町村は置くことができるとされた「審議会その他の合議制の機関」は具体的なイメージを持ちにくい。その役割として、1.障害者計画に対する意見、2.障害者施策推進に必要な事項の調査審議と実施状況監視、3.障害者施策推進に必要な関係行政機関相互の連絡調整事項の調査審議、となっているが、自立支援法一部改正で法定化された自立支援協議会にも、障害福祉計画の策定(変更)にあたって意見を聴く努力義務が定められている。

総合福祉部会がとりまとめた「障害者総合福祉法(仮称)骨格提言素案」では、自立支援協議会は地域生活支援協議会と名称を変え、「その地域における障害者施策の現状と課題を検討し、改善方策や必要な施策を講じるための具体的な協議の場とするほか、市町村または都道府県における障害者に関する福祉計画策定に意見を述べる」役割となっている。障害者計画と障害福祉計画の二重構造も同じ問題ではあるが、まだ素案の段階とは言え、障害者基本法が定める合議制の機関との調整が必要と考える。自治体の立場から言えば、どちらが歩み寄るにせよ一本化して法定化(設置の義務づけ)されることが望ましい。

「可能な限り」問題

何かと評判の悪い「可能な限り」という表記は、「言い訳に使うのではなく、最大限努力するということ」という担当大臣答弁だけでは心許(もと)ない。実際に総合福祉部会で厚生労働省は「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則=歳出増を伴う制度改革には財源確保」を持ち出している。財政問題で政策実現レベルが変化することは、個別法であればまだしも基本法では考えにくく、ましてやそれが第3条の基本原則の中にもあるのはいかがなものかと思う。しかし、可能な範囲が変動するのであれば、それを最大のところまで持ち上げることが宿題となっただけで、基本的な表記を修正された訳ではないと考えることもできる。「可能な限り」と書かれた部分が実現されなかった場合、障害者にとってはいかなる理由でそれが認められないのかを明らかにする権利が奪われた訳ではなく、自治体にとっては不可能とした判断に責任を持つことに変わりはない。国はともかく、自治体からすれば「可能な限り」と書いてあるからこれはやらなくていいとか、できなくて当然という理屈にはならず、どちらかというと「…することができる」という表記の方が困ることが多い。

おわりに

障害者基本法改正の趣旨を活かした新法制定が次のステップとなる。自治体も制度設計の段階から関与し、制度を運営する自治体もまた当事者であるという考え方で、よりよい総合福祉法の制定に取り組む必要があると考える。

(ふたみせいいち 東京都足立区中部福祉事務所)