音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

改正の評価
地方からの視点、『障害のある女性』からの視点

平野みどり

はじめに

1970年に制定された障害者基本法は、国内での障害者差別禁止法制定への取り組みが始まる中、2004年に改正された。この時点での改正は、具体的権利侵害を争点にする場合の直接的根拠にはなり得ず、差別禁止や防止については理念レベルに留(とど)まり、見直しへの課題を残していた。

2008年の国連障害者権利条約制定後、障害者基本法の改正は、条約批准への法整備の重要な一歩と位置づけられてきた。新政府の下で2009年に設置された、障がい者制度改革推進会議で積み上げられた議論の結果としての「第二次意見」が、新しい障害者基本法の骨格となるものと期待された。

東日本大震災への対応を含め、政治状況が混迷する中、3月に政府から示された基本法改正案は、第二次意見との隔たりが大きく、権利条約批准への一歩になり得ないという危機感から、JDFをはじめとする当事者団体からの「改正案の改正」を求める動きが起こり、各政党間の調整などにより、附帯条項も含む新たな案が本国会での議論を経て、全会一致で可決成立することになった。

条例への影響

さて、そのような動きの中、熊本県においては2008年から障害者差別禁止条例を求める活動が始まっていた。条例づくりの先陣を切った千葉県に続く、権利条約でも制定を促している地方レベルでの法制化への動きだ。条例づくりへの詳細な過程についてはここでは割愛するが、この条例は「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」として、本年6月定例県議会において、全会一致で可決成立した。

実は、条例化に向けて行われる本年4月のパブリックコメントのまさに直前の3月11日に、障害者基本法改正案が政府から示されたわけであるが、この改正案に、結局、熊本県条例も縛られる結果となった。5回に及ぶ県条例検討委員会での議論を経て県から示された「差別禁止を明確にした条例素案」が、一転、「権利擁護条例」へとトーンダウンしてしまった。熊本県障がい者支援総室(現、障がい者支援課)と23の障害者団体等から成る「差別禁止条例をつくる会」は、権利条約を意識して、連携しながら条例を準備してきたが、国の改正案が、現行法とあまり変わらないレベルの改正案であったため、議会の一部の慎重論に抗することは難しい状況を招いてしまった。

その後、基本法改正案が、限られた時間の中での、国会内外の関係者の努力により、附帯決議を含む一定の修正・改善を盛り込んで全会一致で成立したことは、現在条例制定に取り組んでいる自治体や今後取り組む自治体にとっては、何が獲得目標になり得るかが明確になり、進めやすくなるのではないかと期待される。

地方からの期待

さて、今回の改正において、注目点の一つが「障害者政策委員会」の設置であろう。障害者基本計画作成にあたっては、「障害者政策委員会」の意見が反映されることとなっており、推進会議同様、当事者や関係者が委員として位置づけられることが重要だ。権利条約で要請している国内モニタリングの役割を果たすことが期待される。

また都道府県においても、国の障害者政策委員会にあたる「合議制の機関」の設置が義務づけられることになった。委員の構成については、「様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた調査審議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない」とある。基礎自治体である市町村においても、福祉サービスを担う立場として、ぜひ障害のある人等の参加による「合議制の機関」の設置を推進していただきたい。

これまでの「地方障害者施策推進協議会」は、形骸化していて、行政の施策にお墨付きを与える機能になってしまっているとの厳しい評価も少なくなかったが、今回の基本法改正で、いよいよ国・地方共に、「障害当事者等の実質的な政策への関与」が可能となる道筋ができたことは大いに評価できる。

同時に、政策への参画に向けては、国内あるいは地域の当事者運動のネットワークのさらなる充実と政策力アップが問われることなる。

女性の条項は・・・

第二次意見では、障害のある女性について、「複合的な困難を経験している障害のある女性が置かれている状況に十分に配慮しつつ、その権利を擁護するために必要な施策を講ずること」として、基本法での位置づけが期待された。生殖や子育て、DVおよび性暴力についての障害のある女性に対する支援などが、障害のない女性への支援に比べて脆弱なためである。この現状に鑑み、2010年12月に閣議決定された「第三次男女共同参画基本計画」においても、「障害のある女性は、障害に加えて、女性であることで更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する必要がある」とされている。

しかしながら、今回の基本法改正では、障害のある女性に関する条項、言及はなかった。権利条約や推進会議での白熱した議論からすると、極めて残念だ。今後は、障害者総合福祉法、障害者差別禁止法の制定に向けて、推進会議での議論を反映させるよう取り組む必要がある。また、障がいのある女性の複合的な困難状況を明かにするためにも「実態を調査」する必要もある。同時に、各地での男女共同参画推進計画において、障害のある女性に関する必要な支援等について、引き続き求めていくことも重要である。

(ひらのみどり DPI日本会議副議長)