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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

今後の政策への期待
手話の言語政策および情報コミュニケーション施策への期待

小中栄一

8月5日に公布となった改正障害者基本法は、基本原則の一つとして「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。(第3条3)」という条文が入りました。

また、附帯決議においても「一.国及び地方公共団体は、視覚障害者、聴覚障害者その他の意思疎通に困難がある障害者に対して、その者にとって最も適当な言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段の習得を図るために必要な施策を講ずること。」が採択されています。

情報の利用におけるバリアフリー化等に関する基本的施策の第22条、および、司法においても「個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修その他必要な施策を講じなければならない。」としました。

「可能な限り」という文言が入ったことについて、意思疎通(私たちの言葉で言えばコミュニケーション)という基本的人権の保障は本来、制約を受けることがあってはならないものです。次回の見直しには必ず外すこと、それまでは最大限のことを行うことと読み替えて施策を進めていただきたいものです。

このような看過できない課題はほかにもありますが、今回の改正障害者基本法において、「言語(手話を含む。)」という記載は、意思疎通のための手段として、また情報の取得または利用のための手段として、手話を音声言語と同じように扱っていくことを明記したことであり、歴史的な成果として評価したいと思います。このことにより、手話によってコミュニケーションしたい、情報を得たい・利用したいというニーズがあれば、それを保障することを実現しなければなりません。

現在は、障害者自立支援法における市町村の必須事業として実施されているコミュニケーション支援事業の一つとして手話通訳者の派遣と設置事業が展開されています。また、都道府県手話通訳者設置事業として、あるいは自治体職員として手話通訳士(者)資格を持つ者が雇用されている地域があります。このほか、手話通訳付き政見放送、司法で手話通訳が必要な場合には手話通訳者を派遣することなどが行われています。また、手話によるテレビ放送もまだまだ数は少ないのですが行われています。

しかし、障害者自立支援法によって実施されているものは、障害者福祉におけるサービスとして提供されている性格のものであり、依頼内容によっては対応できないとされることも多く、さらに予算不足、手話通訳者不足などのために地域間格差が大きいという現状に我慢しなければならない状態です。福祉分野以外での手話に関する制度はほとんどありません。今後は、福祉におけるサービスだけでなく、社会生活のあらゆる場面で音声言語と同じように手話も用意するという言語政策が必要となってきます。

附帯決議にあるように、手話の習得を図るために必要な施策も課題とされました。聴覚に障害のある人が音声日本語、書記日本語と同じように手話も使えるようになることは、コミュニケーションの質と量を飛躍的に拡大させることにつながります。同時に忘れてはならないのは、聴覚障害者に係わる人たち・機関・企業等もまた、手話も使えることによって、直接、聴覚障害のある人とコミュニケーションできることです。手話を必要としているのは聴覚障害者だけではないのです。

今後は、専門性のある有資格者を必要なところに配置・派遣してコミュニケーションを権利として保障する法整備と、手話で日常会話ができる人たちを増やしていくことにより、日常会話なら直接手話も使ってより豊かな自立した地域社会が営めるようにすることの二つの施策を期待したいと思います。また、教育、労働など、今回の改正障害者基本法ではあまり成果を上げることができなかった分野においても、手話が選択されれば、音声言語と同じように手話を用意する法整備を確立しなければならないでしょう。

今、全日本ろうあ連盟では、関係団体と幅広く連携し、手語の獲得、習得および使用に関する必要な事項を定め、手語に関するあらゆる施策の総合的かつ計画的な推進を図ることを目的とする手話言語法(仮称)の制定推進、そして、情報アクセスとコミュニケーションの権利保障を具体的に実現していく情報・コミュニケーション法(仮称)の整備を求めて、さらに国民的な運動を続けようとしています。

コミュニケーションは聴覚障害者一人でするものではありません。聴覚障害者同士、および聴覚障害者と健聴者の双方向関係で成立するものです。私たちは、ろうコミュニティーの形成のみならず、聞こえる人たちとの関わりも良い関係を作りたいと願っています。意思疎通に困難を抱える人たちのインクルージョンが実現できる社会になるためには、聞こえる人たちからのアプローチも大切です。

情報・コミュニケーション施策は情報にアクセスできない、コミュニケーション手段を選択できないすべての障害者のために策定されるものです。お互いに連携しての情報・コミュニケーション施策、言語政策を考えていきたいと思います。

(こなかえいいち 財団法人全日本ろうあ連盟副理事長)