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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年9月号

今後の政策への期待
社会的入院問題の解消

三田優子

第二次意見は反映されず

1970(昭和45)年に制定された「心身障害者対策基本法」が、1993(平成5)年に「障害者基本法」へ大幅に改正された際、ノーマライゼーションの理念に基づき、身体、知的障害者とともに精神障害者が法的に障害者と初めて位置づけられたことは大きな変革であった。

あれから18年が過ぎ、いまや障害者権利条約の批准に向けて、障害者基本法抜本改正、総合福祉法制定、差別禁止法制定などの動きが続いているが、精神障害者の社会的入院問題はどの動きの中でも大きな論点のひとつとなっている。

障がい者制度改革推進会議において1年以上、精神障害者の人権尊重に関し、当事者も同席のもと活発な意見交換がなされてきたことは、障害分野の中でも後発と言われてきただけに、精神障害当事者、家族、関係者にとって感慨深いものがあった。

しかし、昨年12月17日、「障がい者制度改革推進会議」でまとめられた第二次意見の中の「精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続の確保」の2文両方について、今回の改正基本法ではゼロ回答となってしまったことは、本当に残念としか言いようがない。本障害者制度改革の基本的な課題における改革の方向性の柱にある「地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築」をだれよりも望む人たちが、精神科病院の中にいることを忘れてほしくない、と心から思うものである。

第三条二項を軸に社会的入院解消を

ところで、今回盛り込まれなかった、精神医療に関する第二次意見の一文目、「精神障害者の社会的入院を解消し、強制的措置を可能な限り無くすため、精神病床数の削減その他地域移行に関する措置を計画的に推進し、家族に特別に加重された責任を負わせることなく、地域社会において必要な支援を受けながら自立した生活を送れるよう通院及び在宅医療のための体制整備を含め必要な施策を講ずること。」

では、社会的入院を解消し、自立した生活および地域社会へのインクルージョンのための施策の根拠となる規定、さらには、保護者制度を解消するための根拠となるための規定が必要であることを意味している。

今回の改正基本法では、第三条「地域社会における共生」の「二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。」を、精神障害者の社会的入院問題解消の実現にどう落とし込んでいくのか、が肝要となってくる。

また、第一条「この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、(以下、略)」という目的のもつ意味も大きく、国際的にも際立っているわが国の精神障害者の社会的入院こそ、障害者の人権問題の根幹をなすものであるという認識を社会が形成できるかどうかが、改正基本法に期待されているひとつであると考えている。

総合福祉法の策定から権利条約批准への期待

ところで、障がい者制度改革推進会議と総合福祉部会(2010年4月発足)との医療合同チーム(うち前期チームのテーマが「精神医療」:堂本暁子座長)では、社会的入院の解消のために「ロードマップが必要」とし、「相当規模の予算」の必要をまとめた。また、総合福祉部会・地域移行作業チーム(座長・大久保常明)では、「地域整備10ヶ年戦略」(数字については部会全体意見)などの策定によって、社会的入院を国家プロジェクトとして集中的に取り組まなければ解消は難しいことを盛り込んでいる。

その背景には、医療と福祉が混在する精神障害者の社会的入院問題では、そこに保護者制度や一般医療との関係も加わり、所管官庁を横断した総合的な支援体制が望まれること、そして地域移行を進めるのに急務な社会資源開発を、国が省庁を超えた広域事業として位置づけ、推進することの重要性があるからである。総合福祉法で社会的入院の解消、地域生活移行を大きく位置づけた骨格提言を受けた新法を期待したい。

最後に、今回の条文には漏れてしまったが、障がい者制度改革推進会議が示した第二次意見とそのとりまとめまでのプロセスは、今後の社会的入院問題および精神医療の在り方を考えるうえで貴重な指針とすべきであるし、引き続きの議論が求められている。

精神障害者に関しては、社会的入院とともに医療観察法の問題もまた大きな論点である。当事者の悲願は、医療の問題ではなく、人権問題として見直されることである。このことも含め、今後の総合福祉法、差別禁止法の策定が精神障害者の人権尊重で貫かれ、権利条約批准へと向かっていくことを願わずにいられない。

(みたゆうこ 大阪府立大学准教授)