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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

時代を読む25

ノンステップ路面電車が街を変える~日本初、熊本から全国へ~

自立生活の先進地、アメリカ

1970年代以降、国連の「国際障害者年」(1981)、「国連・障害者の十年」(1983―1992)をきっかけに、『完全参加と平等』のキャッチフレーズとともに、やさしいまちづくり運動が進む中、地域での自立生活には介助サービスと同時に移動手段の確保が必要と痛感した障害者たちは、電車やバスに乗る権利を求め始めました。目標は、ADA法(※1)をきっかけに、リフト付きバスの導入が飛躍的に拡大していたアメリカ。アメリカの自立生活運動を学ぶため多くの障害者たちが渡米。帰国後、自立生活運動が全国へ広がるのと同様、交通事業者や行政にリフト付きバス導入を求める動きも全国的に展開されました。

あなたでなく、誰が言いますか?

バスの床が5センチ低いだけで低床、30センチ低ければ超低床と呼ぶ“言葉遊び”に私は違和感がありました。ところが、ヨーロッパの考え方は根本的に違い、リフト付き方式ではなく、リフト不要、車両の床が低い構造のバスが主流でした。行くしかないと決意したものの、実際にノンステップの電車やバスに出会えるかどうか分からない、と言われ、そんなに普及していないのかと不安を感じながら94年、第1回ヨーロッパ交通事情視察を敢行。しかし、杞憂でした。次々に来るノンステップの電車やバスを障害者だけでなく、多様な市民が利用していたのです。仏・グルノーブル市の担当者、アン・フェルナンデスさんの説明は身が震えるほど衝撃的でした。一度廃止した路面電車を復活させた経緯やきっかけ、市民と行政、障害者が一体となった動きは感動的でした。熊本でもいつか走らせたい!とフェルナンデスさんに感想を述べたら、「あなたが言わなくて誰が言いますか!!」と真剣な顔で言われました。帰国後、仲間たちとパネル展示や署名集めなどあらゆる運動を展開、1997(平成9)年8月、ついに“日本初のノンステップ電車”が熊本市交通局に導入されたのです。

ノンステップ電車がすれ違う光景、全国へ

現在、熊本では7両の車両が導入され、当初願っていたノンステップ同士がすれ違う光景も今では当たり前、何よりなのは車いす専用ではなく、だれもが乗りやすく利用しやすい、と市民が感じていること。熊本の導入をきっかけに、その後、広島、岡山、富山、長崎、高知など、ノンステップ電車の導入は全国へと広がりを見せていったのです。

(村上博 ヒューマンネットワーク熊本)


※1 ADA法「Americans with Disabilities Act of 1990」の頭文字を取ってADA法と呼ばれる。ADA法は、1964年に制定された公民権法にはなかった、障害による差別を禁止する規定であり、適用範囲の広い公民権法の一つ。内容から障害者差別禁止法とも意訳される。