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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

フォーラム2012

JDF全国フォーラムの報告

赤平守

2011年12月6日(火)、全国社会福祉協議会・灘尾ホールにおいて日本障害フォーラム(JDF)全国フォーラムが「障害者権利条約と制度改革の最新動向~内外の関連潮流と私たちに問われるもの~」と題して開催された。前日までのポカポカ陽気から一転、北風が吹きすさみ、午後には雨にも見舞われるあいにくの天候となったが前年同様、全国各地から250人を超える参加者により無事に開催することができた。ここでは、当日の総合司会であった立場を踏まえて、JDF全国フォーラムの報告をしたいと思う。

今年の企画は、例年以上に盛り沢山の内容であった。森祐司(もりゆうじ)JDF政策委員長の「障害者権利条約と制度改革にまつわる基調報告」に始まり、午後の特別シンポジウム「障害者総合福祉法への見通しづくりと私たちに問われるもの」に至るまで6つのコーナーに分かれ、報告だけでも4コーナー、発表者は5人に及んだ。

JDF政策委員長の基調報告とみやぎ支援センター活動報告

13の障害者団体・関係団体で構成されている「日本障害フォーラム(JDF)」は、その設立以来「障害者権利条約」の推進のための活動を続けてきたが、国内の批准に向けた「障害者制度改革」の動きは佳境に入ろうとしている。本来であれば、この時期、この制度改革に向けた具体的な政策等はもっと明確に、国民や私たち関係者にも示されていたのかもしれない。しかし、2011年3月11日に起きた「東日本大震災」の未曾有の被害の甚大さは、国のあらゆる動き、人々の生活にストップをかけ「生きること」そのことの意味を根底から考えさせられることとなった。JDFも震災1週間後の3月18日には、「JDF東日本(東北関東)大震災被災障害者総合支援本部」を発足させ、その支援にあたってきた。

今回の全国フォーラムでは、森祐司政策委員長の基調報告の後、JDFみやぎ支援センター事務局長の小野浩(おのひろし)氏から「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部の活動について~みやぎ支援センターを中心に~」と題して活動報告がなされた。震災発生から約9か月、総括的に課題を整理できる状況には至っていないことを前提に、避難所や仮設住宅の生活の中で浮き彫りとなった数多くの問題点が報告され、この震災のもたらした影響の甚大さ、復興に向けて必要な予算と時間の計り知れない大きさを改めて知る機会となった。また、いまだに他県に避難した人たちの生活状況を把握しきれないでいる行政の課題など、この震災はまだまだ現在進行形であることも思い知らされることとなった。

特別講演「権利条約推進のための新『アジア太平洋障害者の十年』と日本への期待」

例年、JDF全国フォーラムでは海外からのゲストの特別講演を企画しているが今回、特別講演をしていただいた、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)社会開発部長のナンダ・クライリクシュさんは大変、魅力的な方であった。講演のテーマは「権利条約推進のための新『アジア太平洋障害者の十年』と日本への期待」であった。

これまでも国連において、アジア太平洋地域の社会的発展のために貢献され、女性のエンパワメント、青少年のリーダーシップ、HIV/AIDSなどさまざまな分野を担当されている女史だが、今回の講演の中で話された、日本における障害者権利条約批准の前に、国内法の整備をきちんと行うことの大切さ。また、日本のアジア太平洋地域の中での役割とその責任の重さ、その期待の大きさを改めて考えさせられるお話であった。さらにアジア地域に根強く残る貧困の問題、貧困を強いられる障害者の問題は、ここ数年、日本でも起こっている反貧困の動きにも通ずる問題でもあり、最後にナンダさんが述べた「相互に関わりあっている世界の中での『助け合い』の精神」の話は、前段の小野さんの報告の中にある「障害のある人や高齢者などの震災弱者が暮らしやすい町はだれにとっても暮らしやすい町」という基本的概念を再認識させるものだったと思う。

特別報告「障害者の権利条約~国際的実施の最新動向」

ナンダさんの後を受けて、東京大学大学院特任准教授、長瀬修(ながせおさむ)氏から「障害者の権利条約(CRPD)~国際的実施の最新動向~」と題して特別報告がなされた。世界の中での日本の立ち位置、世界各国の人々の障害者権利条約に対する考え方を知る上での大変貴重な報告であったと思う。特に、障害者の権利委員会の委員の構成が18人の構成員のうち障害当事者が15人を占めているという事実は、まさに「Nothing about us, without us(私たち抜きに私たちのことを決めないで!)」の実践そのものであると思う。

以上が午前中の内容だが、いずれの報告、講演も熱意のこもったものであり、当然の如くスケジュールは押せ押せとなり、昼休みを短縮せざるを得ない状況となったが、午後のコーナーでもさらに熱のこもった内容が展開された。

課題別報告

午後の前半は、課題別報告として、1.全日本ろうあ連盟事務局長、久松三二(ひさまつみつじ)氏より「情報コミュニケーション法の制定に向けて」、2.日本盲人会連合副会長/弁護士の竹下義樹(たけしたよしき)氏より「障害者差別禁止法の制定に向けて」という2つの報告がなされた。両氏とも障がい者制度改革推進会議の構成員であり、今回のテーマは推進会議の中でも継続的に論じられ、協議され続けた内容でもあるので、それぞれに「思いの深さが」が伝わってくる内容だった。

特別シンポジウム「障害者総合福祉法への見通しづくりと私たちに問われるもの」

最後のコーナー、特別シンポジウム「障害者総合福祉法への見通しづくりと私たちに問われるもの」はJDF幹事会議長、藤井克徳(ふじいかつのり)氏の名コーディネートの下、DPI日本会議事務局長、尾上浩二(おのうえこうじ)氏と明治学院大学教授、茨木尚子(いばらきなおこ)氏のお2人の総合福祉部会副部会長。前千葉県知事/制度改革推進会議構成員の堂本暁子(どうもとあきこ)氏。仙台市障害者福祉協会会長/被災障害者を支援するみやぎの会代表の阿部一彦(あべかずひこ)氏のメンバーでスタート。さらに民主党衆議院議員/厚生労働部門、障がい者ワーキングチーム座長の中根康浩(なかねやすひろ)氏が途中から加わり、熱い討議が繰り広げられた。

討議の内容は、各シンポジストの持つ背景とともに、実に多岐にわたるものとなったが、それぞれの立場や意見の相違があることを前提に召集された55人の総合福祉部会のメンバーが紆余曲折ありながらも、認識を共有しながら提出した「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が2012年、どのような形で反映され国会に上程されるのかが最大の争点であったと思う。しかし、残念ながらシンポジウムの時間内に明確な方向性も示されることはなかった。この報告が本誌に掲載されるときには、何か大きな動きが示されているのだろうか?

ここに記述した以外にも地域で開催されているフォーラムの報告や参加者の意見発表の場もあり、7時間という長丁場のスケジュールにもかかわらず「時間がいくらあっても足りない」状況になってしまったことは、昨年に続いての反省点となってしまった。それもこれも、やはり今、この国が抱えている諸問題が、直接、障害のある方々の「生きにくさ」にそのまま反映されていることの証しなのかもしれない。次回のこの全国フォーラムが、これからの1年の成果の共有、分かち合いの場になることを切に願い、報告の終了とさせていただきたい。

(あかひらまもる JDF企画委員会副委員長)