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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

列島縦断ネットワーキング【福島】

金澤翔子美術館がいわき市にオープンしました

金澤泰子

「共に生きる」~心は被災地の方と一緒に

昨年の3月11日の東日本大震災の日から、しばらくテレビに被災地の様子がたくさん映し出されていました。凍えるような避難所に身を寄せる人たち、テレビの画面にはその上に覆いかぶさるように雪がしんしんと降り続いている様子が映し出されました。その情景に翔子は泣きました。そして「助けに行く」と言ってコートを手にして家を出ようとしました。「行けないよ」と私に留められると、今度はテレビ局に電話をして「雪を止めさせて」とさらに泣きました。

私たちには何もできないのだと分かり悲しかった。しかし何かをしなければ治まりません。被災地から遠い地で何もできないけれど、「心は被災地の方々と一緒にいます」と伝えたくて、翔子は「共に生きる」という書を大きく書いて、ファンサイトのブログに載せて発表しました。その時は翔子にはそんなことしかできませんでしたが、それを見た福島県いわき市の遠野に大きな館を持っていらっしゃる高島賢守さんという方から翔子に席上揮毫(きごう)の依頼がありました。

「希望の光」~被災地に咲く小さな花を見つけて

それは、高島さんのお母様の一周忌の会の席上での揮毫でした。ちょうどそのころ私たちは東北地方の被災地に行き、避難所を訪ねたりしていました。

すべてを海に持って行かれ瓦礫しか残らず海まで荒涼と続く、閖上(ゆりあげ)の地を訪ねた時のことです。風も強く太陽も強く照りつけ、潮のにおいがまだ残っている中に、翔子が、その地に這うようにして咲いている小さな花を見つけて「希望の光だ」とつぶやきました。それを聞いた私も「復興はあり得る」と思いました。

そんな被災地を回っている最中での席上揮毫の依頼でしたので、「希望光」と大壁紙に書きました。

この書がご縁となり、高島さんからこの大きな館を翔子の美術館にしたいというお申し出をいただきました。まだ26歳の翔子には驚きの申し入れでした。しかし、東北の人たちが翔子の書で少しでも力を得てくださるならば、被災地に何かをしなければと焦っていた翔子にとっては何よりのお話でしたので、お受けすることにし、これまで頑張って力を込めて書いた書をたくさん集めました。大きな館のお庭の中で翔子の書は映えました。このような場所を与えていただき、感謝しております。

2011年12月1日にオープン

いわき市での出会いから、準備期間を経て、昨年12月1日に金澤翔子美術館がオープンしました。

開館の時の挨拶を以下にご紹介します。

「福島県いわき市に、東日本の復興を願い「金澤翔子美術館」が開設されました。

被災で荒涼と拡がる瓦礫のなかで、翔子は心が震えて泣いた。そしてその瓦礫の中に、小さく真っ赤に咲く花を見つけて「希望の光だ!」とつぶやいた。海にさらわれ、まだ塩の香りのする被災の地に、それでもけなげに咲いた花を見て、私も復興は可能だと思いました。今は何もできないけれど翔子は被災をされた方々に寄り添って居ます。そんな思いで「共に生きる」を書き、そして希望の光があると云う事を伝えたくて「希望光」を書きました。

これから翔子が思いを込め渾身の力で書く作品がこの美術館に集められます。

天与の役目を持って書の道を歩む「金澤翔子の書の世界」をゆっくりとご覧ください。」

復興を願うメッセージの書

現在は、去る4月16日より企画展【「心」―空、夢、龍―】を行っています。

本館展示室には「風神雷神」「龍」「龍翔鳳舞」「平清盛」「心」「空」「夢」の作品が展示されており、別館展示室には、「涙の般若心経」などが展示されています。

先日、東北地方を再び訪ねた時、岩手県庁の方や大槌町の副町長(大槌町の町長さんはあの津波で亡くなられました)さんから次のようなメッセージとお願いを受けました。

「これまで、全国のボランティアの皆さんたちがとても良くしてくださいました。助けていただきまして心より感謝しています。しかしまだ復興のゼロ地点にまでも来ていないのです。瓦礫の分類は終わりましたが、まだまだこれからが大変です。あの津波から1年が経って今、東北は忘れられていきそうで、忘れられてしまうのが怖い。翔子さんにお願いがあります。東北の本当の復興はこれからが大変です。頑張っている我々のことを忘れてしまわないでくださいというメッセージを発信し続けてください」

東北の方々は必死でした。その日、別れがたく東京に戻ってきました。

非力で具体的なことは何もできないのですが、「みなさん心を東北に向けていてください」というメッセージを翔子と私はいろいろなところでこれからも発信し続けていきます。

福島県いわき市の美術館で、翔子の書をご覧いただき、少しでも翔子の書で元気を得てくださればうれしい限りです。これからも翔子らしい元気のいい字を発表していきたいと考えております。

(かなざわやすこ 金澤翔子美術館館長)


※金澤翔子さんは本誌2010年1月号のグラビアに出ていただきました(編集部)。

〈ご利用案内〉

開館時間 午前10時~午後4時(入館 午後3時30分まで)
休館日 毎週水曜日(ただし祝日の場合はその翌日)
観覧料 個人 800円
団体(一人につき)600円
*小学生未満の方は無料です。
*障がい者の方は400円でご観覧いただけます。入館の際に障がい者手帳をご提示ください。
*団体は20名以上となります。
交通案内 〈お車の場合〉常磐自動車道「湯本IC」より車で15分
〈電車の場合〉JR常磐線「湯本駅」より車で20分
問い合わせ 金澤翔子美術館
〒972―0163 福島県いわき市遠野町根岸字横道71番地
TEL:0246―89―2766
FAX:0246―89―2044