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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年9月号

1000字提言

イギリスでの搭乗拒否

木島英登

五輪開催の1か月前、トレイル・オリエンテーリング世界選手権に出場するためスコットランドへ。最高気温10度以下の日もあり寒かった。いつも曇り空。太陽が見られたのは1日だけ。それでも現地人は夏が来たと言う。Tシャツになっている人もいて信じられない。

大会を終え、小さなダンディ空港から、ロンドン中心部のシティ空港へ「シティ・ジェット」で飛ぶことにした。宿舎から空港へは歩いて行ける距離。32人乗りの小さな飛行機。設備が無いだろうから、階段を自分で這って乗降することにした。

優先搭乗で最初に案内される。滑走路を歩き飛行機へ。車いすから階段に乗り移り、一段ずつお尻を上げていると、客室乗務員が怪訝(けげん)そうな顔をする。「あなたは乗せられない。歩けない人はダメだ」と言う。手で歩くからいいだろと説明するが、「安全上の理由でダメだ」の一点張り。同行者3人もいるし非常時も大丈夫だろうとも思うが、単独歩行が飛行機に乗れる条件らしい。

無視して、後ろの座席まで1人で移動した。それでも「降りてください」と説得される。「ロンドンの空港で日本から来る2人と待ち合わせをしている。今回だけは勘弁してくれ、次からは乗らないから」と哀願してもダメだった。また廊下を這って階段を降りて外へ出た。客室乗務員は一切、私に手を触れず傍観するだけ。感情のない事務的な対応も冷たさを感じた。

手伝いができないというのは分かる。しかし、乗れないのは困る。自分で勝手に乗降して何が悪い?空港には車いすトイレがあったが意味がない。歩けない人は乗せられない飛行機しか飛ばないのだから。

一番近い空港のエジンバラから翌日に飛べと言われるが、何としても今日中に移動したい。アバディーンからはないのかと提案したら、ようやく代替便が見つかった。しかし移動のタクシー代(1万3000円)は自腹。

世界旅を始めて20年、揉(も)めたことはあっても乗れないことは1度もなかった。初めての搭乗拒否。自分で乗っているのに有り得ない。これがパラリンピックを開く国なのか。歩けない(障害)を理由に、飛行機に乗れないなんて完全なる差別。

ロンドンは4回目の訪問。来るたびにバリアフリーが進み、情報公開もされるようになり嬉(うれ)しい限り。その一方で、差別も残ることにショックを受けた。天気も悪いし、飯もまずい。差別も受けた。でもパブで飲むビールだけは最高。酔って忘れることにしよう。

(きじまひでとう 車いすの旅人、世界100か国以上を訪問、バリアフリー研究所代表)