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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

第2次アジア太平洋障害者の十年の評価

三澤了

10月29日から11月2日まで韓国は仁川(インチョン)にて開催された国連アジア太平洋経済社会委員会(以下、「ESCAP」)ハイレベル政府間会合において、2013年より始まる新しいアジア太平洋障害者の十年(以下、「新十年」)が採択された。DPIは、これに併せて10月24日―25日に同会場においてDPIアジア太平洋ブロック総会を開催し、37か国から集まった障害者団体の代表の総意の下、新十年に関する閣僚宣言である「インチョン戦略」に対し、国連障害者権利条約(以下、「権利条約」)とインチョン戦略の実施に関し、すべてのレベルにおいて障害者団体が政策作りの実施および決定過程へ参加すること等を要求するインチョン人権宣言を採択した。この宣言を行うに当たり、DPIとして第2次アジア太平洋障害者の十年(以下、「第2次十年」)における反省を踏まえて提言を行なった。

DPI世界会議さっぽろ大会(2002年)以降の取り組み

この10年間において、日本障害フォーラム(JDF)を通じて、権利条約の批准や国内課題の推進等に取り組んできた。日本政府が条約批准しようとした際には、障害者基本法の改正、制度の谷間のない総合的な福祉法制、障害者差別禁止法の制定の三つを条件とする姿勢でのぞみ、内閣府の下に設置された障がい者制度改革推進会議に構成員として事務局長が参加し、精力的に制度改革に携わってきた。多くの国々で条約批准後も国内法が整備されず条約の実施が進んでいない中で、批准前に障害当事者が過半数を占める委員会が制度改革を推進した日本の経験は、グッドプラクティスとして国連等の国際的な会合でも紹介されてきた。

各法制度については、クロスディスアビリティの障害者団体として社会モデルに基づく障害概念の採用と谷間を生まない制度を要求してきた。教育においては原則統合・インクルーシブ教育の確立に向けて、政省令等へのパブリックコメントに取り組んだ。また、バリアフリー新法の参考人質疑において移動権の確立やホームドア・ホーム柵等の必要性を提起したほか、継続して国土交通省との交渉を行なっている。障害者自立支援法の応益負担による生活への悪影響を明らかにし、地域で生活する権利と24時間介助の保障を厚生労働省に求めてきた。

国際協力については、常任委員がDPI世界会議評議員、アジア太平洋ブロック議長を歴任し、アジア太平洋地域、特に北東アジアにおける障害者団体との連携を強化した。また、JICAがタイ政府とバンコクに設立したアジア太平洋障害者センター(APCD)には評価に常任委員を派遣する等、密接に連携してきた。JICA委託のアフリカの障害者に対する研修を毎年度実施し人的交流・育成に努め、アフリカにおける自立生活の推進にも尽力した。このように、DPI日本会議は障害者の権利の実現を求めてさまざまな活動に取り組んできた。

障害者権利条約・バンコク草案と第2次十年

DPI日本会議は国内外で多分野にわたる活動を展開してきたが、これらは第2次十年が採択された2003年以前より課題として認識し、継続して行なってきたものである。

権利条約締結の過程において、2003年にDPI日本会議が提出した条約草案を基に作成されたバンコク草案が、最初の実質的な提案としてESCAPから提出された。第2次十年というスキームがあったため、ESCAPとしても専門家会議において提案しやすい素地があったと考えられる。これは第2次十年の大きな成果と言える。

一方で、この10年間においては権利条約の策定と採択、批准に向けた国内法整備といった点に注目が集まり、ESCAPが「第2次十年と権利条約は車の両輪である」と注意を喚起しても、第2次十年への関心は今一つ盛り上がりに欠けたと言わざるを得ない。また、びわこミレニアム・フレームワークで示された七つの優先分野があることが政府レベルにおいても十分に浸透しなかった。びわこプラス5等も設定されたが、期間内における目標達成の機運は高まらなかった。権利条約やMDGs(ミレニアム開発目標)との整合性も不明確であったため、関心を持たれにくかったと思われる。

また、各優先分野における進捗状況のモニタリングが欠けていた。ESCAPはほぼ隔年ごとに質問票を各国政府に送付し結果をまとめたが、フィードバックにつながらず、ESCAP自身も認めているように、政策と現実とのギャップを正確にモニタリングする必要があった。

新十年に向けて―モニタリングと当事者参画を原動力に

最後に、公的なレベルにおける障害者団体の参加が限られていたことが挙げられる。ESCAPはインチョン戦略の目標の一つとして障害者の意思決定への参加を設けているため、政府に対し参加を要求することができると説明しているが、ESCAPの決定過程にもより一層障害者が参加していくことが求められる。

新十年の開始に当たり、DPIも当事者団体として積極的に提案を行い、インチョン戦略の策定にも市民社会代表の一員として提案を行なってきた。新十年においては、障害者団体を含め、掲げた目標の達成とそのモニタリングを行なっていく必要がある。

権利条約の策定過程で繰り返された、「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」の基本精神が今後も引き継がれることが重要だ。国内においても、権利条約批准のロードマップの最後の段階である障害者差別禁止法の成立を目指し、DPI日本会議は引き続き努力していきたい。

(みさわさとる DPI日本会議議長)