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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

第2次アジア太平洋障害者の十年の総括と新十年
~盲ろうの立場から

庵悟

1 「盲ろう」という障害がようやく表舞台に

国連の障害者権利条約の批准に向けて、国内法の見直しや新法の整備の取り組みがなされる中で、日本障害フォーラムに社会福祉法人全国盲ろう者協会が構成団体として加盟し、政府との意見交換会などの場で当協会評議員の門川紳一郎氏が盲ろう者の立場から積極的に発言してきた。そして、2009年12月に内閣府に発足した障がい者制度改革推進本部のもとで、推進会議のメンバーとして、当協会の福島智(さとし)理事、門川評議員、渡井秀匡(わたいひでただ)評議員など盲ろうの代表者が出席し、日本の障害者福祉施策についての話し合いのテーブルにつけるまでになった。

また、2001年に世界盲ろう者連盟の設立総会にて、当協会の福島理事がアジア地域代表委員に選ばれた。これを受けて、当協会では2003年度より、盲ろう者国際協力推進事業を継続的に実施し、諸外国の盲ろうに関わる情報収集と各種国際会議での啓発活動、アジア地域のネットワークづくりに取り組んできた。

こうした取り組みを通じて、第2次アジア太平洋障害者の十年は、「盲ろう」という障害が、国内においても、国際舞台においてもようやく知られるようになった十年であった。

2 国際協力推進事業の取り組み

当協会の国際協力推進事業では、盲ろうの取り組みに関する情報共有、盲ろう当事者や関係者の連携の強化を目標とし、これまでヘレン・ケラー世界会議、世界盲ろう者連盟総会、盲ろうインターナショナル世界会議・アジア会議などに代表団を派遣してきた。また、盲ろうの分野に限らず、国連アドホック委員会、ESCAPアジア太平洋障害者の十年の評価のためのハイレベル政府間会合などの政治的な舞台でも、「盲ろう」という障害の特性や困難、盲ろうの認知と理解を訴えてきた。

世界盲ろう者連盟では、その取り組みをアフリカ・アジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アメリカ・太平洋の6地域に分け、それぞれに地域代表という役員を設置している。ヨーロッパでは、すでにヨーロッパ盲ろう連合が設立され、ヨーロッパ独自の取り組みを推進している。また、南アメリカも先進国からの援助を受け、南アメリカ盲ろう連盟が結成されている。

一方、アジアでは盲ろうの分野はまだまだ未開発のままである。それぞれの国では盲学校やろう学校で盲ろう教育が行われていたり、盲ろうの活動拠点となるような場があったりするが、個々の取り組みが接点を持つまでには至っていなかった。アジア地域でもネットワークを構築するために日本のリーダーシップに寄せられる期待は大きい。日本がこれまで盲ろうの分野で蓄積してきた知識・経験・実践をアジア地域の国々と共有し、活動の活性化と連携の強化に役立てなければならない。

こうした背景から、当協会ではアジア地域の盲ろう者の組織化を図ることを目標に、2007年3月に韓国、2009年3月にネパール、2011年1月に香港へ、調査団を派遣した。

その中で、2006年度に、大阪府堺市で行われた第16回全国盲ろう者大会に韓国からの参加者があったことをきっかけとして、韓国における盲ろう者組織の結成を支援することとなった。2007年3月、代表団を韓国へ送り、盲ろう者問題に関するセミナー開催をはじめ、韓国教育人的資源部(日本の文部科学省に当たる)、韓国保健福祉部(日本の厚生労働省に当たる)訪問、国会議員との懇談などを通じてキャンペーン活動を行い、「韓国視聴覚障碍自立と支援会」の結成に至った。

また、2009年3月、当協会とネパール盲人福祉協会との共同開催によるセミナーを開催した。当日はネパール副大統領、駐ネパール日本国大使なども出席し、112人の参加を得られた。セミナー終了後には、同国の大統領を表敬訪問し、盲ろう者福祉の増進について訴えることができた。そのほか、複数の盲ろう児や盲ろう者、および盲ろう児の親の会と交流を図り、今後ネパールで盲ろう者の組織を作るための足がかりを得た。

3 課題

新十年に取り組むべき課題としては、次のことがあげられるだろう。

1.アジア・太平洋地域の国々の盲ろう児・者の生活実態を明らかにする。

2.「盲ろう」という障害が、各国で独自の障害として法的に位置づけられるようにする。

3.国連の障害者権利条約の教育について定めた第24条に「盲ろう」が明記されていることから、盲ろう児・者が地域で学べる環境整備をすすめる。

4.盲ろう者が地域で働ける環境整備をすすめる。

4 今後の取り組み

前記の課題に取り組むためには、アジア太平洋地域の盲ろう者組織づくりを一層進めていく必要があり、そのための人材育成が急務である。また、これらは弱小の当協会だけでは到底なしえないことから、聴覚・視覚障害者関係団体など他の障害者関係団体との連携協力関係の中で、アジア太平洋地域における国々の盲ろう者のネットワークづくりの構築を図っていきたい。

なお、2013年にヘレン・ケラー世界会議および世界盲ろう者連盟総会の日本開催が予定されていたが、東日本大震災の影響で中止を余儀なくされ、フィリピンで開催されることとなった。同会議がフィリピンをはじめとするアジア太平洋地域の盲ろう者の組織化を支援するとともに、2017年には日本での開催が期待される。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会)