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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

報告

第35回総合リハビリテーション研究大会報告

栗林環

2012年9月21日(金)~9月22日(土)の2日間、伊藤利之(いとうとしゆき)大会長のもと第35回総合リハビリテーション研究大会が横浜市の障害者スポーツ文化センター横浜ラポール、および横浜市総合リハビリテーションセンターで開催された。医療、福祉、労働、教育などさまざまな分野に関わる人と障害当事者が参加しリハビリテーションについて考える場であることが本大会の特色である。リハをめぐる状況は大きく変化してきたことから、2010年より「総合リハビリテーションの新生をめざして」というテーマで3年間かけてプログラムが組まれ、今年はその3年目の集大成として開催された。サブテーマとして「地域での実践から」ということで、地域リハビリテーションに焦点をあてて大会長の基調講演やシンポジウムが行われた。

1日目は日本障害者リハビリテーション協会の炭谷茂(すみたにしげる)会長の開会挨拶より始まり、今回の大会長である伊藤利之先生の基調講演と2つのシンポジウムが行われた。

基調講演:「地域リハビリテーション」をテーマに講演が行われた。主に横浜市における地域リハシステムについての紹介があった。

横浜市は1987年に横浜市総合リハビリテーションセンターを開設、センターが中核となり成人、小児それぞれの地域リハシステムを作ってきた。成人、小児どちらにおいても福祉保健センターと連携し、成人においては急性期から在宅復帰、社会参加まで支援、小児は地域療育センターも利用して、「早期発見」から療育、就学への支援を行なっている。また、在宅リハビリテーション事業をセンター内の医師・SW・セラピストだけでなく、地域や病院スタッフともチームを組み支援を行なってきたことは特色の一つである。

現在、介護保険制度が開始となり地域の支援システムが変わってきたこと、医療の急性期シフトで在宅復帰が早くなってきたこと、新たな障害として、発達障害や高次脳機能障害が従来の障害像に加わってきたことに対応するためにシステムの見直しが必要となっていることが課題としてあげられた。介護保険が開始して、今まで障害者の支援の中心であった保健所や福祉事務所が福祉保健センターとなり規模を縮小、ケアマネジャーなどの新たなチームメンバーが加わり、チームの構成が変化・多様化してきている。

医療に関しては、早期に自宅退院するために従来の障害者施設の利用などのいわゆる「社会的リハ、職業リハ」を受けられる時期までに空白期間ができてしまうことが問題としてあげられ、タイムリーに対応する必要性があり、どうしていけばよいかということについてもお話があった。地域リハシステム全体の話から現状の課題、将来の展望まで非常に幅広い話題ではあったが、課題が整理され問題意識を持って取り組まないといけないことを再認識した。

地域リハシステムについての知識が深まり、問題点が明らかになったところで、午後のシンポジウム2では「新たな地域リハビリテーションシステムの創造―総合リハビリテーションの視点から―」というテーマで、介護保険制度・発達障害・高次脳機能障害のそれぞれについて、現場で活躍している3人のシンポジストが発表を行なった。

本田秀夫(ほんだひでお)先生は発達障害が専門であるが、早期発見を実践してきた横浜市から山梨県へ移り、発達障害の地域リハシステムを新たに構築するため活躍されている。山梨県のこころの発達総合支援センターを含めたシステムについて紹介があった。冒頭で「YDD」として「ヨコハマだからできる」から「ヤマナシだってできる」という発言が非常に印象的であった。地域リハシステムは全国どこでも構築できるものが理想であり、特殊な環境でしか運用できないのであれば意味がないだろう。

発達障害に対して、支援体制がほとんどないといってもいい状況から新たなシステムを作り上げ運用、それが機能していること、また横浜と全く同じものではなく、「診断ではなく相談できる中間レベルを作った」など新たなシステム作りへの工夫などの紹介もあり、興味深い内容であった。

次は小田芳幸(おだよしゆき)氏より横浜市における高次脳機能障害に対する地域リハについてのお話があった。基調講演でもあったように、横浜市は地域リハシステムがすでに作られており、高次脳機能障害に対する支援はその上に支援拠点を作ったという形になっている。新たに作るのではなく、今ある資源をどう有効利用するかという視点でのシステム作りのお話であった。

最後に、介護保険制度の枠組みの中でリハを実践している藤原茂(ふじわらしげる)氏からの発表があった。非常にパワフルに、今回のテーマである「地域リハ」を、でもそれって何だ?という視点からの施設紹介、地域づくりについての実践例について紹介があった。新たな地域リハシステムというのは地域のネットワーク作り、「街づくり」であり、フォーマルな資源だけでなくインフォーマルな資源も結びつけること、医療・介護のネットワークだけを使うのではないというお話が印象的であった。

2日目の午前中は地域リハというテーマからは少し離れた形で、障害者に関わる法制度改革の動向について藤井克徳(ふじいかつのり)氏より特別報告があり、その後、藤井氏をコーディネーターとして映画監督である早瀬憲太郎(はやせけんたろう)氏と作家の大野更紗(おおのさらさ)氏の2人をパネリストとして「総合リハビリテーションの視点から見た障害者制度改革の動向」をテーマに鼎談が行われた。前日は仕組み作りといった話題が中心であったのと違い、3人が視覚障害、聴覚障害、難病という当事者としての視点から発言をするという形であった。

早瀬さんは先天性の聴覚障害のため、逆に障害で何が困っているのかわからないこともあると話していたのが印象的だった。大野さんは、障害分野を社会の普遍的な問題として考える視点が必要であることをあげていた。難病は今回の障害者基本法の改正において初めて障害に定義されたという。今までは医療の中の研究政策としての対象であった難病が障害に関する法律に組み込まれたことで、難病に対しての支援体制が作られていくことが重要である。

午後は4つの分科会に分かれ、それぞれ発表とディスカッションが行われた。

筆者は途中からではあるが「医療」の分科会に参加した。川崎市の高次脳機能障害に対する取り組み、岩手の東日本大震災の対応、 兵庫の地域包括ケア構築という各地域における積極的な取り組みについての発表であった。

兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンターの逢坂悟郎(おうさかごろう)先生はいかに病院と地域を連携させるかというところで、保健所にコーディネーターとしての役割を担ってもらい、病院の看護師(看護部長)の協力を得てネットワークを作ることで連携が上手くいきそうだということであった。

脳卒中や大腿骨頸部骨折などでは、地域連携パスを利用して病院と在宅との連携をとっていくという形が全国的にも浸透しつつあるが、そこに該当しない疾患や回復期リハを利用しないで急性期病院から直接在宅に退院する患者を含めた支援が必要であり、どんな人でも受けられる支援システム作りは、高齢化社会を迎えた現代において非常に重要な考え方であると感じた。

今大会は2日間で約280人の参加であった。

昼休みや1日目の大会終了後には、ラポールツアーとして会場となった施設紹介をした。一般会場ではできない試みが行えたことは運営側としてよかったと思う。参加者がラポールの利用者を見て、横浜の障害者は元気だというイメージを持っていただけたらうれしく思う。また、1日目の懇親会では50人近くの参加があり、大会会場だけではできない参加者の交流が深まったのではないだろうか。

来年の第36回大会は石川県金沢市で開催予定である。大会長の吉川一義氏からは、初の北陸大会として気合いの込もった紹介があった。多くの方が参加して盛り上がる大会になることを期待したい。

(くりばやしたまき 横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション科)