音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

障害は面白い。

中原忠

ぼくの仕事は、「障害は面白い」と伝えること。

世の中に、そんな仕事があるのか?って思われるかもしれないが、ぼくが働いている障害者自立生活センター・メインストリーム協会にはそんな仕事がある。

世の中にある「障害者はかわいそう」という障害者観を変える仕事だ。この仕事の面白いところは、ぼく一人でやっているのではなく、メインストリーム協会のスタッフ全員(障害当事者スタッフ・健常者スタッフを含め48人)が、「障害は面白い」と共通認識したうえで、全員で世の中の障害者観を変える仕事をしているところにある。

と、いくら言っても、「障害なんて面白いわけがない」と言う人もいるけれど、メインストリーム協会は、障害者自立生活センターとして「障害は面白い」と笑い続けて24年目になる。自立する重度障害者も、ここで働くスタッフも増えてきたのだから「障害は面白い」は、もはや間違いない。

間違いはないけれど、ぼくもはじめから障害が面白かったわけではない。面白いどころか、人の障害を面白がって笑うなんて、人としてあかんことだと思っていた。

それは、ぼく自身も脳性マヒの障害があって、子どもの頃よくモノマネされて笑われたり、障害で嫌な思いは腐るほどしてきたから、人の障害を笑って嫌な思いをさせたらあかんということだった。そんな感じで普通に「障害者はかわいそう」だと思っていたぼくが、どうして障害が面白くなったのか。

それは、メインストリーム協会のみんなと出会えたからだ。

その頃のぼくは、メインストリーム協会が何をしているところなのかも、障害者の自立生活や障害者差別もまったく知らなかったが、なぜかボウリングをすることになった。

ここはボウリング場。

バタバタバタッ、バッタッ~ン! ゴロゴロゴロ…。

メインストリーム協会のスタッフである脳性マヒのTさんが、勢いをつけてフラフラとエリマキトカゲのようなステップでレーン手前まで走り込み、バッタッ~ン!っと大きな音を立ててズッコケながら投げているTさん毎度のズッコケ投法だ。それをみて、メインストリーム協会のみんなは大爆笑しているのだ。ぼくもつられて笑ってしまったのだが、正直に思ったことは「そんなんで大爆笑取れるんや、ええなぁ~」でした。

ぼくが障害は面白い、と思ったはじまりでした。

このはじまりは、障害は面白いだけではなく、ぼくがメインストリーム協会のみんなと働きたいと思うはじまりでもある。Tさんがズッコケた瞬間、みんなが笑っていなかったら「やっぱり障害者悲惨やなぁ~」って終わっていた気がするし、Tさんがズッコケた瞬間、みんなが大爆笑した瞬間、なにより障害者が障害者を大爆笑した瞬間、ぼくの「障害者はかわいそう」という障害者観はズッコケ、みんなといることが楽しくなったのだ。

そしてあのときのみんなは、ぼくの障害者観を変えたくて大爆笑したのではなく、ズッコケてるTさんがただ面白かったのだ。ここに大切なポイントがある。

ボウリング場でズッコケてるのは、Tさんだけではない。普通のお父さんも、ビジュアル系のお兄ちゃんもズッコケている。同じようにズッコケて笑いを取ったとして、Tさんのように障害者観は変えられない。障害者観を面白さや笑いで変えられるのは障害者だけなのだ。

ここメインストリーム協会には地域で自立した生活を実証してきた、個性豊かな面白い重度障害スターがたくさんいる。

その中から、ぼくの作ったメインストリーム協会ホームページやビデオで活躍しているスターを紹介したい。

1.呼吸器の鼻マスクをつけた筋ジスのFさんとTさんは、映画「トップガン」に出演した

2.只今制作中の映画「E.T.」主演の脳性マヒのHさん

はぁ?何のスターやねんって思うかしれないが、ぼくたち障害者自立生活センターに携わる者からみると、地域で自立生活を楽しんでいる重度障害者はスターなのだ。そもそも重度障害者の自立生活は「重度な障害がある人生を楽しむ」ためにあるし、実際に重度な障害ある人生を楽しんでいることを伝えることで、世の中の障害者観が変わるとぼくは思う。

いまの健常者が作ってきた社会に重度障害者が自立した生活を送ろうとするとき、何かしらの不安があり、何かしらの勇気がいるのだ。そのとき、ぼくらメインストリーム協会のみんなが、その不安を笑い飛ばし、仲間となって笑いあうことで勇気となれたら、障害者自立生活センターとして、こんなにうれしいことはない。ぼくは、メインストリーム協会ホームページや重度障害者の自立生活を紹介するビデオに、そんな思いを込めて作っている。

最後に、ホームページやビデオを作っているぼくが言うのもおかしいけど、「障害の面白さ」はネットやビデオでは伝えきれない。ぜひ、メインストリーム協会へ足を運んで「障害の面白さ」を体感してください。ぼくらは、いつでも待ってます! さようなら。

(なかはらただし メインストリーム協会スタッフ)