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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「違い」を楽しむことで、目に見えない壁を乗り越えたい!

東ちづる

障害者やその家族、性的マイノリティ、在日外国人、高齢者、ワーキングプア、ホームレス、シングルマザー、あらゆるマイノリティを誰も排除せず、「違い」をハンディにもしない。そんなごちゃまぜの社会を目指す一般社団法人「Get in touch」(以下、GET)を、宮本亜門(演出家)、氏田照子(日本発達障害ネットワーク)、田中尚樹(アスペ・エルデの会)、尾崎ミオ(東京都自閉症協会)、かしわ哲(ハイテンション)らと共に、昨年10月に設立しました。目に見えない壁を乗り越えるため、まずはアートや音楽を通じて楽しく集うこと。そのチャンスを作るのがGETの目的です。

そのキッカケとなったのは3・11東日本大震災です。それまで私は、マイノリティを「理解してください」「支援してください」「そのために正しい知識をもってください」と訴えてきました。しかし、「周りに迷惑をかけてしまうから」と遠慮し、被災地で避難所にいられなかった障害者と家族の新聞記事を読み、愕然(がくぜん)としました。そして、「今すぐ必要なのは、正しい知識よりも、誰も排除しないことだ」と思ったのです。社会が不安に陥った時、ふだんから生きづらさを感じているマイノリティたちが、ますます追い詰められる現状に「このままではいけない」と危機感をもちました。

「障害者」に対応する言葉として「健常者」という言葉がありますが、一生涯、常に健やかでいられる人などいません。いつか私たちもマイノリティに属するのです。その時に周りに遠慮したり、不自由を強いられたり、私が私らしく生きられないのは嫌だ! どんな状況でも安心して暮らしたい。さまざまな個性がまぜこぜに存在し、必要な時には助け合える、そんな空間、時間、人間関係は、誰にとっても心地いいはずです。

そんな空間を広げる試みのひとつとして、昨年12月、六本木ヒルズ多目的スペース「umu」で1週間、アールブリュット(専門的な美術教育を受けていないアーティストの作品。日本では一般的に障害者アーティストの作品を指す)や音楽を体験してもらうイベント「Get in touch 2012」を開催しました。そこで、私たちは「施しでなくチャンスをください」と笑顔で伝えました。「障害者が頑張ったから素晴らしい」「障害者がつくったものだから購入する」というのはなんだか違和感がある。大切なのは「いいものはいい」ということ。

アールブリュットは、既成の価値観をぶち壊すパワーをもっており、無条件に多くの人たちの心をつかみます。私たちは、たくさんの人たちにアールブリュットの魅力を知ってもらうことが、見えない壁を取り除くことにつながると期待しています。

そのためには、まず会場に足を運んでもらわなければなりません。けれども「障害者アートの展覧会」「障害の理解啓発の活動」と宣伝してしまうと、会場に来るのは福祉関係者や障害に関心のある人たちだけ。一般の人たちは、ほとんど関心をもってくれません。GETは、「障害のある人たちやマイノリティが排除される、今の日本の現実を知ってほしい」「福祉に関心をもってほしい」という目的をもっていますが、今まで福祉に関心をもってこなかった人たちに訴えるには、別の入り口を用意することも必要だと考えました。

そこで誕生したGET2012のキャッチコピーが、「なんだコレは? なんだキミは?」。数々の受賞歴がある人気コピーライター松田正志さんが、ボランティアで制作してくれました。このコピーは、GETの目指すことを鮮やかに表しています。

マイノリティ当事者たちは、みんなが専門家のように正しい知識をもつことを望んでいるわけじゃない。一緒にいるために大切なのは、同じニンゲン同士として、仲良くなること、友だちになること。そのためには、まずは、「なんだろう?」と好奇心をもってもらいたい。すべてはそこから、はじまります。

そして、松田さんがつくってくれたもうひとつのコピーが「ちがうから、越えられる」。お互いの違いを認めあい、違いを楽しめたら、世界が広がり、世の中は変わるはず。そのキッカケ、チャンスをつくるのがGETです。

GET2012では、「なんだコレは? なんだキミは?」という好奇心を触発する、さまざまな企画を用意しました。

メインは「マイ・モナリザ展」。レオナルド・ダ・ヴィンチの名画、モナリザをテーマに、アールブリュットの作家たちが思い思いに描いた作品70点以上を展示しました。カラフルなモナリザ、不可思議なモナリザ、どこがモナリザなのかわからないモナリザ、ゆるキャラ風のとぼけたモナリザ……。個性的なモナリザは、いずれ劣らぬ魅力を放っており、「無条件に楽しかった」「意表をつかれた」と大評判。お気に入りのモナリザを選んでもらい「Get in touch賞」を決める投票も行いました。

会場では、来場者が楽しみながら仲良くなれる多彩なワークショップも開催。なかでも大人気だったのが「みんなで大ラクガキ」。絵本作家のスギヤマカナヨさんと一緒に、ガラスに描ける不思議なチョーク「キットパス」で、ガラス窓に自由にラクガキをするこのワークショップは、GETの定番イベントです。そのほか、顔や腕にペイントしても水を使わず簡単にはがせる魔法の絵の具「ミラクルペイント」を使ったボディペイントのコーナーや、竹を使ってオリジナルの笛をつくる「求愛笛」、誰もがすぐに曲を演奏することができるスウェーデンの「ブンネ楽器」で老若男女みんなが合奏を試みるワークショップなど、盛りだくさんの内容。会場のあちこちでさまざまな交流が生まれ、障害のある子もない子も、大人も子どもも一緒になって夢中になる様子が印象的でした。

そして夜は、被災地を応援する活動を行なってきたアーティストが集結した「Everyday Live 音楽は無力か?」。小室等さん、ミッキー吉野(ゴダイゴ)さん、トシロウ(ブラフマン)さん、高橋まこと(ボウイ)さん、梶原徹也(ザ・ブルーハーツ)さんなど豪華ゲストが駆けつけたほか、宮本亜門(GET理事)や、辻井正次(アスペ・エルデの会)、ドラァグクイーンアーティスト・ヴィヴィアン佐藤さんもトークショーに参戦。誰もが自分らしく暮らせる社会の実現に向けて、それぞれの立場から熱いエールを送りあったのです。

GET2012は、総勢100人以上のボランティアで運営されました。さまざまな業界の多彩なプロフェッショナルが知恵と力を寄せあい、限られた時間の中、手作りでつくりあげたイベントです。趣旨に賛同してくれた多くの企業・個人から寄付をいただくことができました。開催に先がけてレセプションパーティーを企画し、協賛企業や協力者をお招きしました。レセプションには、GET2011のゲストだったオノ・ヨーコさんがメッセージを寄せてくださったほか、アーティストの松永貴志さん、歌手の平原綾香さんとお姉さんのaikaさんが登場し、素敵なパフォーマンスを披露してくれました。aikaさんが米国のAutism Speaksで自閉症の子どもたちに向けて作られた曲「All He Has To Say」を歌っておられることも、うれしい偶然でした。

1週間の開催期間中には、失敗やトラブルも山ほどありましたが、「ドンマイ」「No problem」の精神で、助け合いながら何とか乗り切り、無事、イベントを終えることができました。GET2012のコピー「ちがうから、越えられる」を実現した、最高のチームです。考え方の違い、個性の違い、立場の違い、性別の違い、年齢の違い、ありとあらゆる違いは障壁にもなりますが、それを越えて協力し合うことができれば、数倍、数百倍のパワーが生まれます。私たち自身が、このイベントを通して、「違い」をパワーにしていく方法を学ぶことができたように思います。

ファイナルイベントでは、GET理事のかしわ哲が率いるバリアフリーロックバンド「サルサガムテープ」の演奏で盛りあがりました。「無条件に楽しい」「障害があってもなくても自分がやりたいことをやる」、そんなロックなスピリッツを共有できた瞬間でした。

現在、サルサガムテープの演奏で、Get in touchのテーマ曲を製作中です。合言葉は「目指せ!紅白」。「違う才能」を楽しむ喜びを、もっともっとたくさんの人たちに知ってもらうために、私たちはどんどんどんどん、壁を乗り越えていくつもりです!

(あずまちづる 一般社団法人Get in touch理事長)