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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

ワークス・アントレの一般就労に向けた支援

田添珠美

はじめに

ワークス・アントレは福岡市にある自立支援法に基づく就労移行支援サービスを提供している事業所です。平成23年4月に設立された2年目を迎える事業所で、サービス利用の定員は20人、4人の常勤スタッフと2人の非常勤スタッフで運営をしています。

開所当時は、主たる対象者は精神障害のある方や知的に障害のある方を中心に支援サービスを開始しました。現在は、身体に障害のある方や発達障害のある方、高次脳機能障害の方などさまざまな障害をもつ方が支援サービスを受けられています。最近は、障害の認定を受けている人はもちろんですが、認定は受けていないが就労を中心にさまざまな困難を抱えた方々の相談も増えている状況です。

支援内容

私たち、ワークス・アントレの一般就労に向けた取り組みとして、以下4つの特徴ある支援をご紹介したいと思います。

(1)「自立したい、働きたい」に応える

1つ目は、私たちはどんな障害があろうとも、困難を抱えていたとしても、当事者となるご本人やその周囲にいる人たちが、支援サービスを受けて「自立していきたいと願う気持ち」を持っていることを尊重するようにしています。これは、「働きたいという気持ちがあれば支援の対象とする」というスピリットが支援者の中に大きく存在していることがあげられます。対象となる方には、病気の治療をしているので、働くことは無理だとあきらめている人もいます。もしくは「障害者の働けるところなんて無いだろう」と思い込んでいる人もいます。

そこで、私たちは座学によるいくつかのプログラムを用意しています。自分の疾患や障害について正しく知ることによって、働く意欲を取り戻す人もいます。また、自分の生きにくさが、自己の怠けや自分勝手ではなく、疾患や障害による認知の障害によって起きていることを知るきっかけにもなります。いずれの場合も、自分を知るということは自己を肯定し、こころの安定にもつながり、働くための大切な基礎とも言えると思います。あるがままの自分を受け入れ、自分の強みを知り、自分の苦手さを受容することは、働く生活を目指すにあたって大事な要素となると利用者に伝えています。

(2)日常生活のサポートと訪問支援

2つ目は、就労生活を支える日常生活に対してもできる限りの支援を行うことを大切にしています。ここで重要なのは、さまざまな方への支援は、さまざまな専門性や知識を必要とすることです。生活が困窮しているために求職活動に落ち着いて取り組むことが困難な人には、生活の建て直しをするために社会保障システムの活用も考えられます。税務署に一緒に行って滞納している税金について相談をしたり、日常生活自立支援事業の利用相談に同行したりとさまざまな支援が必要となります。この支援に注目しているのは、生活の部分に問題を抱えていると疾患を再発させてしまう人が少なくないという実情があります。また、日常生活に困難を抱えてしまったためにやむをえず失職したり、障害によって起こる問題を一人で抱えこんでしまいやすいという理由も考えられます。

そういった困難に対して、ご本人が援助の要請を出しやすくするためにも、私たちは積極的に訪問支援をするようにしています。ご本人にとって一番安心のできる場所、自宅に出向いて話をするということは欠かせないことだと考えています。健康で安定した日常生活は、就職活動や就労自体を継続させるための大切な土台でもあります。私たちは、包括的な支援は就労支援に欠かせないと考えています。

(3)企業内実習

3つ目は、施設外での就労支援も積極的に行うことを大切にしています。ワークス・アントレでは施設外支援として、ハローワークに同行して利用者の求職活動の支援をするほかに、協力企業を開拓して、企業内実習も積極的に支援しています。実際、企業で職務を遂行するということは自尊心の回復にも大きく役立ちます。実際の仕事に携わることによって、仕事の達成感を実感すると、次のチャレンジに行動できるエネルギー源となります。

ほかにも、障害者雇用にチャレンジする企業を開拓する上では、企業が求めていることにも着目しなければなりません。私たちは、福岡県中小企業家同友会に所属し、障害者雇用の問題を企業の皆さんと考えを深めることにも努めています。

(4)生涯にわたる定着支援

4つ目は、定着支援は生涯にわたって必要な限り続けることも大切にしています。厚生労働省の指導では、サービス提供の期間が終了しても継続して6か月は就労の定着支援を行うことが指導されていますが、私たちは、利用者から必要とされる限りは支援をさせていただこうと考えています。それは、ワークス・アントレが就労のゴールではなく、「働き続ける」ことも大切だと考えているからです。就職後も、いろいろな壁にぶつかることがありますので、その一つ一つの困り事を支え、一緒に解決できるようにしています。

また、この姿勢は企業に対しても同様です。企業が困っている事に迅速に対応し、早期のうちに支援に入り解決していくことは、就労の継続に必要なことだと考えています。

IPSの考えに立って

このようなワークス・アントレの取り組みは、「IPS(Individual Placement and Support)」にも共通しているようです。

IPSの特徴としては、1.症状が重いことを理由に就労支援の対象外としない、2.就労支援の専門家と医療保健の専門家でチームを作る、3.職探しは本人の興味や好みに基づく、4.保護的就労ではなく、一般就労をゴールにする、5.生活保護や障害年金などの経済的な相談に対するサービスを提供する、6.働きたいと本人が希望したら、迅速に就労支援サービスを提供する、7.就業後のサポートは継続的に行う、ということが示されています。

就職後の支援としては、働く仲間との交流も支援しています。仕事自体には大きな問題がなくても、それ以外の余暇の過ごし方や対人関係で悩みを抱えてしまうこともあります。これらについては、自助グループを育てていくことを目指して、「ワーカーズ倶楽部」という交流会を実施しています。余暇活動の開拓も考慮して、さまざまな内容の交流会を催しています。就職者にとってはがんばっている仲間との交流でもあり、就職を目指している人には、現実の職場での様子を聞く貴重な体験の時間となるようにしています。前者の場合には「苦労しているのは自分だけではない」と自覚する機会にもなり、後者の、なかなか就職が決まらない人にとってはモチベーションを上げる効果があります。

今後の課題

以上のように、細やかな支援を丁寧に練り上げていくといった支援を大切にしていますが、課題もあります。今後は、膨大に膨らんでくる定着支援をどう行なっていくかということがあげられます。これからもたくさんの方を支援していきたいですし、すでに就職されている25人の方の定着支援も包括的に生涯にわたって必要となってきます。そのためには、支援を行うジョブコーチのマンパワーが必要になってきますので、人材育成のためにもセミナーや研修の実施にも力を入れていきたいと思います。そして、スペシャリストにとどまらない、ジェネラリストのジョブコーチを増やしていくことを目指して、今後の課題として取り組んでいきたいと考えています。

(たぞえたまみ NPO法人アントレ)