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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

使用体験

トーキングエイド for iPadの紹介

小野雄次郎

「トーキングエイド for iPad」は、Apple社がiPadの発売を開始した2010年に開発がスタート、実証試験を含めて2年の開発期間を経て、2012年の7月から販売を開始した。

開発の元となった「トーキングエイド」は、1986年、(株)ナムコ(現:(株)バンダイナムコゲームス)が会話や筆談の困難な人向けのコミュニケーション機器として開発。脳性麻痺者(児)を中心に多くの方たちに愛用され、累計25万台を販売している。

「トーキングエイド for iPad」は、この四半世紀にわたるトーキングエイドのノウハウを継承し、機能アップとさらに使いやすい機器を目指して厚生労働省の障害者自立支援機器等開発促進事業の助成を受け、(株)バンダイナムコゲームス、(株)日立ケーイーシステムズ、NPO法人e-AT利用促進協会、産業技術総合研究所の共同で開発を行なった。

「トーキングエイド for iPad」は、iPad、3種類の専用アプリ、防滴耐衝撃ケース、キーガードで構成され、既存ユーザーから望まれていた機能を充実させるとともに、絵文字の利用で文字の理解が困難な発達障害や失語症といった新たなユーザーにも、安価に利用できるようにした。また、進行性神経難病によりキー入力が困難な人でも、外部スイッチからの操作を可能とした。

現在、幅広い障害に対応した使いやすい機器として、ICT化が進む特別支援学校などの教育関係や医療関係から期待されている。

【テキスト入力版】

文字理解が可能な人のコミュニケーション用アプリ。五十音順ひらがなキーボードをタッチして文書を作成し、音声合成で発声。絵文字や漢字、メールの利用も可能。

【シンボル入力版】

文字理解が困難な発達障害や失語症の人のコミュニケーション用アプリ。カード感覚で利用でき、音声合成や録音音声で発声。画像や写真でオリジナルシンボルも作成可能。

【タイマー】

残り時間を面積の減少で表示するタイマーアプリ。

【プロテクターケース】

落下による衝撃やよだれ、雨等からiPadを守るケース。

【キーガード】

他のキーに誤って触れてしまう方向けのガイド。

【ワイヤレススイッチボックス】

キー入力が困難な場合に、任意の外部スイッチを操作することができる無線タイプのインターフェイス。

(おのゆうじろう 株式会社ユープラス)


使用体験

花田春兆

東京での国際医学会議の折り、壇上でトーキングエイドを紹介したことがある。反響は予想以上で、出席者から本国に先端医療機器と報告され注目を浴びたそうだ。

このトーキングエイドが、今、巷(ちまた)で話題のiPadを利用した機器になったということで、試しに使ってみた。

通常、パソコンは指一本でローマ字入力だが、パソコンのキーボードと違って、トーキングエイドは、五十音順でひらがな打ちができる。ローマ字入力はたとえば、「ろ」はRとOの二つのキーを押すが、ひらがな打ちなら一打で済み、非常に助かる。

普段から私は執筆の仕事が多いので、ひらがな入力がしっくりくるが、絵文字入力などは、子どもや知的障害者にとっても親しみやすいのではないか。また、普段の車いす生活の中で「腰を上げてほしい」と頼む時など、絵文字のワンタッチで「腰を上げてほしい」と喋ってくれるのは私も重宝する。

キーを押す時に、「あ」と押すと即座に「あ」としゃべってくれるのは便利な反面、「あなた」と押し終わるまで「黙っていて」ほしい場合もある。たとえば、会議の時など自分が話す時までは、キーを押す時に出る音を「クリック」音に変えられるのはとても便利。

声の設定。私はどちらかというと、女性の高めの声でゆっくりしゃべられるのが聞き取りやすい。設定でいろいろ変えられるのは、難聴の人にもいいと思う。手話通訳者は、脳性まひの私の声も聞き取ることの得意な人が多い。難聴者の言葉とも近いものがあるのかもしれない。手話通訳者もこうした機器には関心が高いのではないか。

回りについたガード用のゴムカバーは、万一落とした場合の不安が軽減される。

このゴムカバーも単に、付属品というだけでなく、そうしたコミュニケーション時の不安をも取り除いてくれるという意味では、コミュニケーションの必需品だと思う。

福祉文化学会が韓国で『えびす曼陀羅』を紹介、ドイツの国際機器展を機にヨーロッパ視察にJDから派遣、そんな機会あるごとに、普段から使い慣れているエイドでトークできたら…と痛感してはいたのだが…。

今なら翻訳機能とも連動してもっと便利になっているはず。

トーキングエイドがiPadになったことで、これからの発展が非常に楽しみだ。

余計なことかもしれないが、だいぶ以前からトーキングエイドの声を耳にしていない。

私自身、引退して触れなくなっているが、そればかりでもない。たまに出席するいくつかの会などでも感じてしまうのだが、会運営主体のウエイトが、為政者と関係者に偏って当事者の存在の影が薄らいでしまっている現状。

そうした周りの声だけで「こと足れり」と片づけられて本人たちの声は響いていない。

やはり、エイドへの期待は膨らむ。

(はなだしゅんちょう 本誌編集委員)