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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

常時介護を必要とする障害者等に関する支援やサービスのあり方を中心に

海老原宏美

さまざまな問題のある障害者自立支援法に代わる新たな法律制定を目指し、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が「骨格提言」を表したのは、2011年の夏だった。その内容は、私たち障害当事者にとって夢と希望に溢れるもので、とうとう自分たちも「人権」を持って地域で生活できる日が来るのだと、期待で胸がいっぱいになったことを思い出す。実際には、60項目もの改善点を掲げた骨格提言に対して、閣議決定で通ったのはたった1項目と、どんなに頑張っても社会の関心を巻き込んでいかれない障害者の無力さというものを実感した訳ではあるが。

私たち障害当事者は、「無力感」を抱きながら生きていることが多い。どんなに大きな声で、自分が困っていること、支援してほしいことを訴えても、その声が社会に届き、社会の仕組みに反映されるのは非常に稀(まれ)だからである。その状況がずっと続くと、声を上げ続けること自体が次第にしんどくなってきてしまう。骨格提言に対してもほぼ0回答であったように、大きな組織をもって上げた声さえ拾われるのが少ないのだから、個人で声を上げるのはなお大変だということである。

私は、普段、自立生活センターという団体で相談支援等を行なっている。その活動の一環で、人工呼吸器使用者の地域生活支援のために、2009年に複数の自立生活センターと一緒に、「呼ネット」というネットワークを立ち上げた。現在、全国に130人を超す会員がおり、会員同士の情報交換や学習会、親睦会等を行なっている。

日本の障害者福祉は次第に改善され、地域での生活というものが実現しつつあるが、医療的ケアの必要な人たちの地域での自立は、今なお非常に困難な状況にある。私たちは活動を始めてみて、自分たちのように呼吸器を使いながら一人暮らしをしている人たちがいかに少ないか、改めて実感することになった。同時に、現在病院や施設、親との同居をしている呼吸器ユーザーの中に、地域での自立生活を望んでいるにもかかわらず、実現への一歩を踏み出せない人たちが多いのも分かってきた。特に、気管切開をして常時吸引介助が必要な人、また経管栄養を使っている人はハードルが高い。

その理由は、ヘルパーが吸引や経管栄養等の医療的ケアを行えることを認めた制度が、そのための研修制度や、連携を取っていくべき訪問看護体制が不十分なまま、2012年4月から始まってしまったからである。

医療的ケアが必要な人のほとんどは、もちろん24時間介助者が必要である。そこを認めるかどうかは各市区町村による訳だが、24時間介助が認められたとしてもさらにその上に、「医療的ケアを行う指定を取っている事業所があるか」「その事業所から十分な人数の医療的ケアを行えるヘルパーを派遣してもらえるか」「医療的ケアを行うヘルパーに医療研修を行える研修機関があるか」「ヘルパーに医療的ケアを指導してくれる訪問看護師がいるか」などなど、乗り越えなければならない障壁が幾重にも重なっているのである。しかも、これらの医療関連の仕組みは、障害者総合支援法で決められているものではなく、医師法や、社会福祉士及び介護福祉士法等、さまざまな他の法律が絡んでいる。総合支援法で、「どんなに重度の障害を持っている人でも、地域で当たり前に生きる権利がある」と謳(うた)っても、他の法律でそれを阻むような条件があれば、実現は所詮、絵に描いた餅に終わってしまうのだ。

総合支援法の附帯決議において、「常時介護を要する障害者等に対する支援その他の障害福祉サービスの在り方等の検討に当たっては、国と地方公共団体との役割分担も考慮しつつ、重度訪問介護等、長時間サービスを必要とするものに対して適切な支給決定がなされるよう、市町村に対する支援等の在り方についても、十分に検討を行い、その結果に基づいて、所要の措置を講ずること。」とある。しかし、これはあくまでも「長時間サービス」について十分に検討するように、という意味であって、本当に「総合的」に支援が必要な重度障害者の生活をどう検討していくか、ということについては、全く不十分である。

長時間サービスの保障はもちろん根本的な問題であるが、一人の人間が地域の中で、その人らしい生き方を確立するには、「住居の確保」「時間数の確保」「支援者の確保」「生活力の獲得」「社会活動の場の開拓」「医療の保障」などなど、他にも複数の条件を満たしていく必要がある。「この部分についてはこっちの法律で」「あの部分についてはあっちの法律で」という縦割り政策では、到底人の生活は支えきれない。

そもそも、私たちが障害者福祉の根本改革を求めた背景には、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」の批准に足る国内法の体制の再構築がある。この権利条約批准の達成目標を踏まえ、本当の意味での「総合支援」を目指すためには、総合支援法以外の障害者に関わるすべての法律や制度も「権利条約批准」を意識できていなければならない。法律と法律の狭間(はざま)にいる障害者を支援するためにも、すべての法律や制度の方向性を「権利条約批准に向けたもの」という方向性で統一し、法律と法律間の調整ができる仕組みづくりが求められると言えるだろう。本気で検討していく気があるのであれば、どの部分で調整が必要なのか、当事者の声にもっと耳を傾け、私たちの想いを吸い上げてもらいたい。

(えびはらひろみ NPO法人自立生活センター・東大和理事長)