音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

障害者の意思決定支援のあり方について

柴田洋弥

はじめに

知的障害・発達障害者等の「意思決定支援」は社会生活・日常生活のあらゆる分野で必要だが、ここでは障害者総合支援法を中心に、そのあり方を考える。最初に、次の点を確認したい。

(1)「自己決定の尊重」は重要だが、知的障害者等は「自己決定すること」自体に支援が必要であり、それが「意思決定支援」である。「自己決定」も「意思決定」も英語ではDecision-makingであり同じ意味。「意思決定支援」とは、支援者が「代行決定すること」ではなく、その人が心から納得して決定するよう支援をすることである。

(2)総合支援法は、新たな専門職の創設ではなく、サービス提供過程での「意思決定支援」を求めている。

(3)虐待はしてはならない、意思決定支援はしなくてはならない。

(4)意思決定支援は、知的障害者等にとっての合理的配慮である。

意思決定支援の要素

意思決定支援は、次の3要素を含む。

1.意思疎通支援と情報提供…重い知的障害のある人にも、その人なりの意思はある。かすかに表現された意思を支援者がくみ取り、それに応えることによって、ますます明確に意思を表現するようになる。また、文字が分かる人、カード・絵・写真の方が理解しやすい人、実物を見て理解する人など、その人の理解力や理解の仕方に応じて情報提供することも重要である。本人活動支援では、情報提供しながら当事者同士が共同して決定できるよう支援する。各種会議参加支援では、資料の理解や本人意見の整理など事前準備、会議中の相談、事後のまとめなどを支援。司法における意思疎通支援も必要。

2.意思実現支援…表現された本人の意思を実現する支援である。入所施設からの地域移行も、情報提供等により「地域で暮らしたい」と願うようになった本人の意思を実現する支援であって、「地域移行させる」のではない。

3.意思形成支援…本人自身に不利益を及ぼす決定を「本人が決めたこと」と放置するのは虐待である。本人にとってよりよい意思決定を本人が納得してできるよう支援することが重要。「説得」ではなく「納得」を!このとき「失敗を通じて学ぶ」経験も大切だが、重度自閉症者の場合は成功体験を重ねるよう配慮を要する。「意思形成支援」は、発達期からの障害者に必要な「ハビリテーション」でもある(発達障害者支援法では「発達支援」という)。

意思決定支援の原則…不可欠な共感・安心感・信頼感

前記の意思形成支援は中心的概念であり、それを欠いて意思疎通支援や意思実現支援は成立しない。自分や他人を傷つけるような激しい行動障害は、本人の本当の願いの形を変えた表現である。共感と安心感・信頼感を基に本当の願いを実現するように支援することにより、行動障害は徐々に軽減される。

反社会的行為に関して石川恒(ひさし)氏(栃木県「かりいほ」)は「どれだけその人に関わることができるか、関わりの中で本人がどれだけ安心し自信を持って生活できるようになるかが重要。我々がどんなに『こうした方がいいよ』と彼らに言っても彼らが自分から『そうしよう』と納得しないと解決しない」と語る。

意思決定支援の検討課題

グループホームや入所施設では、日常生活全般について、一人ひとりが自分の希望に添って生活できるようさまざまな見直しが必要である。そのために建物や職員配置の改善も必要。

日中活動では、本人がしたいと思い、その人に合った活動内容を提供することが重要である。活動の選択、個別的活動、訪問系事業併用などの工夫。

生活介護や就労継続支援B型での生産活動は、生きがいや社会参加・自己実現が目的である。労働契約ではないので、企業や就労継続支援A型のように事業所の「労働指揮命令権」はない。工賃を高くする工夫も大切だが、意思決定支援はもっと大切である。

サービス利用契約や個別支援計画作成の際は、絵や見学、実体験等できる限り本人が理解できるように情報提供を行なって意思決定を支援し、表現された意思を尊重して計画を見直し、本人が納得した上で可能な限り本人がサイン(丸線や棒線でも)する。家族や成年後見人の同意だけでなく、最も重要なのは本人の同意である。

個別支援計画はサービス管理責任者が、支援職員、家族や後見人、できる限り本人を交えた会議をもって作成する。独断を避けるためにグループでの討議が不可欠である。相談支援専門員によるサービス利用計画作成時も同様である(相応の単価設定が必要)。

障害者への子ども扱いは本人の自尊心を傷つけ、職員との信頼関係を損なう。支援現場では家族や後見人の同意を得て職員による代行決定や、時には拘束が行われているが、意思決定支援を尽くすための抜本的な見直しが必要。「意思決定支援を尽くしても本人が決定できない」とは具体的にどのようなことか、共通の認識が必要である。代行決定では「本人の最善の利益」が原則である。「積極的に反対や拒否をしない」という消極的合意も検討課題。

現在、成年被後見人に選挙権を付与するよう公職選挙法改正が検討中だが、候補者を選択するための意思決定支援のあり方が問われる。成年後見制度も意思決定支援の観点から根本的な改正が必要である。また異性との交際や結婚、家庭形成への意思決定支援も重要である。

知的障害者等が「生まれてきてよかった」と思えるような支援こそ、「意思決定支援」の最終目的である。

(しばたひろや 日本自閉症協会政策委員)


【参考文献】

・柴田洋弥「知的障害者等の意思決定支援について」「発達障害研究」第34巻3号(詳細はhttp://shibata.hiroya.info/

・鯨岡峻「エピソード記述入門」東京大学出版会、2005年

・新井誠監訳「イギリス2005年意思能力法・行動指針」民事法研究会、2009年