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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

自書できない障害者と患者の投票
~「郵便等による不在者投票における代理記載制度」を利用して

青木良浩

病気とは縁がなかった父が定年退職から約2年後、神経難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)という思いがけない診断が告げられた。確定診断から約1年後、自発呼吸が困難になり、3か月の入院で胃ろう造設、気管切開・人工呼吸器装着。在宅療養生活12年目を迎えた。父の場合、人工呼吸器装着後も自書ができたため、「郵便等による不在者投票」によって投票することができた。発病前から政治・経済に関心がある父は、この制度を利用して投票することに積極的であった。数年後には病状が進行して自書できなくなったが、タイミングよく公職選挙法の一部を改正する法律が改正され、新たに創設、施行された「郵便等による不在者投票における代理記載制度」を利用して現在も投票を続けている。

「選挙権裁判」により自書できない障害者や患者の投票権獲得

2000年(平成12年)、ALS患者が原告となり、投票所に行くことも投票用紙に自書することもできない人の投票権行使を求めて国家賠償請求訴訟を提起(選挙権裁判)。2002年(平成14年)11月、裁判所は国会の不作為はいまだ違法とはいえないとして賠償請求自体は棄却、選挙権を行使できるような投票制度が設けられていなかったことは違憲の状態であったと認定する判決を言い渡した。この判決により、公職選挙法の一部を改正する法律が2003年(平成15年)に改正。2004年(平成16年)3月1日から「郵便等による不在者投票における代理記載制度」が施行された。

「郵便等による不在者投票における代理記載制度」の対象者

(1)「郵便等による不在者投票」をすることができる選挙人であること。

a介護保険の被保険者証の要介護状態区分が「要介護5」の方、b身体障害者手帳をお持ちの方、c戦傷病者手帳をお持ちの方、このいずれかの条件(bcは障害の程度等の条件に該当する方のみ)に該当した方。

(2)自ら投票の記載をすることができない者として定められた、a身体障害者手帳に上肢または視覚の障害の程度が1級である者として記載されている者、b戦傷病者手帳に上肢または視覚の障害の程度が特別項症から第2項症までである者として記載されている者、このaまたはbに該当する方。

この(1)、(2)両方に該当する方は、あらかじめ市区町村の選挙管理委員会の委員長に届け出た者(選挙権を有する者に限る)に投票に関する記載をさせることができる。

手帳の記載が該当するかどうかは分かりにくいので、市区町村の選挙管理委員会に問い合わせることが必要である。

「郵便等による不在者投票における代理記載制度」に必要な手続き

手続きは、選挙をする人の名簿登録地(市区町村)の選挙管理委員会で、以下の順で行う。

(1)「郵便等投票証明書」の交付申請

(2)代理記載の方法による投票を行うことができる者であることの証明手続き。

(3)代理記載人となるべき者の届出の手続き。

(4)代理記載の方法による投票手続き(投票用紙・投票用封筒の請求)。

*(1)~(4)は、選挙人でなくても代理記載人が行うことができる。

この制度の対象者と手続きの詳細は、次の総務省ウェブページをご参照ください。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/yuubin/yuubin01.html

制度についての詳細パンフレット(PDF)
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/yuubin/pdf/yubin_huzai.pdf

代理記載制度で投票する意味

現在の父は体を動かすことができないが、耳は聞こえ、脳(意識)は変わらない。選挙は、1.代理記載の方法による投票用紙・投票用封筒を請求、2.私が候補者名と政党名を読み上げ、眼の動きで意思を確認、3.代理記載して郵送、という手順で投票している。代理記載人の私も父の社会参加をサポートしているという義務感がある。病状が進んでも自宅で安心して投票できることに、父も家族も喜びと代理記載制度の有り難さを感じる。

現状と課題

選挙が近づき、テレビのCMで「投票に行こう」といったCMが流れても「郵便等による不在者投票における代理記載制度」をPRする内容を見たり聞いたりした記憶はない。私が住む街の区役所発行の広報誌を見ても、選挙案内の中に「代理・点字投票」「不在者投票」の見出しや説明はあるが、「郵便等による不在者投票における代理記載制度」については書かれていない。選挙前、名簿登録地(市区町村)の選挙管理委員会から郵送される「選挙のお知らせ」の記載内容もほぼ同様である。身体障害者手帳や介護保険の申請手続きの際に親切な役所の職員、保健師さんが教えてくれる場合は良いが、そういう機会がないと気が付きにくい情報かもしれない。これでは広報不足ではないかと思う。私は患者会発行の会報誌で「選挙権裁判」に関する記事を見て知ることができた。

選挙が近づくと私は、区役所内の選挙管理委員会に行って、投票用紙および投票用封筒請求の手続きをしているが、「郵便等投票証明書」の交付申請が済んでいたら選挙管理委員会に行かなくても良い方法にできないか?区選挙管理委員会にお願いしているが改善されていない。

今回、患者会の患者家族の情報で、選挙が近づくと普通の投票で届く「選挙のお知らせ」と同様に、選挙管理委員会から「郵便等による不在者投票の投票用紙等の請求についてのご案内」「投票用紙及び投票用封筒請求書」が届く親切な区があることが分かった。投票用紙・投票用封筒の請求に関しては区市町村によって違うようである。

利用する上での注意点

郵便を利用する性質上、時間に余裕をもって事前に手続きすることが必要である。私は、選挙日間際に「投票用紙・投票用封筒の請求」をして断られた。選挙日前日に、休日受付の郵便局に行って速達で郵送しようとしたら断られた、といった経験がある。

以下3点は、私の経験による利用上のポイントである。

1.「郵便等投票証明書の交付申請」は選挙公示以前に余裕を持って手続きする。

2.「投票用紙・投票用封筒の請求」は選挙が行われることが分かったら早めに請求する。

3.「投票用紙・投票用封筒」が届いたら、速やかに投票(郵送)する。

課題解決のための提案

この制度を利用するには、基本的に、対象者に該当するかを確認後“自主的に申請すること”が必要である。より多くの障害者や患者が自主的にこの制度を利用するためには、もっとテレビのCMや行政の広報誌で広報する必要があると思う。また、手続きの方法もすべての地域で、障害者、患者、介護者、家族に負担がかからない方法にしてほしいものである。

将来的にネットを利用した投票方法が検討されるなら、操作がやさしいアプリやタブレットの利用、障害者や患者が使用する意思伝達装置の利用、といった“障害者や患者の使用を考えたユニバーサルな環境”を採用することを考えてほしいと思う。

(あおきよしひろ ALS患者家族)


【参考資料】

日本ALS協会刊「JALSA特別号~設立20周年記念号」(2006年11月)