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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

私の大学生活

森敦史

私は先天性盲ろう者です。現在、ルーテル学院大学で社会福祉を勉強しています。今回は、大学入学までの経緯を交えながら、私の学生生活についてご紹介したいと思います。

私は岐阜で生まれ、小学4年生まで岐阜県の難聴児通園施設やろう学校に通っていました。

そこでは、主に触手話でコミュニケーションができるように学習をしました。といっても、自分自身苦労して手話や言葉を覚えたり、会話の練習をした覚えがありません。先生や家族が「声」の代わりに手話や指文字で話しかけてくれたおかげで、ろう学校の小学部に入る以前から自然にコミュニケーションができるようになっていました。ですから、学校では、コミュニケーションの学習とともに、自分のペースに応じて国語や算数といった一般的な内容も勉強しました。

そして、点字の学習を積み重ねていくなどの理由により、小学校5年の時に、東京にある筑波大学附属盲学校(現視覚特別支援学校)に転校しました。盲学校では、点字の読み書きや言葉を中心に、さまざまなことを学び、経験しました。盲学校では手話ができない人がほとんどでしたが、点字を学んだおかげで日本語を本格的に学ぶことができたといえるかもしれません。中学部の入試に合格し、中学部、高等部と進み、大学進学を考えるようになりました。

私は将来、自分と同じ障害をもつ人の役に立てるような仕事をしたいと考えていました。それは、次のような現状があるからです。盲ろう者のための施設がほとんどなく、また重度の盲ろう者の場合、施設の入所を希望しても、希望者が多く入りきれないといったこと、通訳・介助者の派遣利用に関しては利用できる時間や人材が限られていること、こういった状況の改善をしたいと考え始めていました。

そのためには、ある程度、社会福祉の知識を身に付ける必要があると考えたので、社会福祉の勉強ができる大学の進学を考えました。まずは、授業での触手話通訳などのサポートが必要ですから、受け入れてくれる大学を探しました。先生と一緒に、いくつもの大学を訪問し、交渉を重ねました。しかし、通訳経費もかなりの出費が見込まれるためか、「入学しても通訳等をつけることは難しい」と突き返されることがほとんどでした。最終的には、通訳体制等についてご理解いただいたM大学とルーテル学院大学を受験することにしました。

私の場合、一般入試はレベルが高く、教科によっては自分の力が届かないだろうと考えたので、いずれも推薦入試(小論文もしくは作文プラス面接)で受験しました。しかし、M大学は初回ということもあり、不合格でした。M大学については今回は練習だと考え直し、次にルーテル学院大学の公募制推薦入試(1回目)に臨みましたが、落ちてしまいました。第1希望の大学でしたから、すごくショックでした。でも、どうしても行きたい大学でしたから、自己推薦入試(2回目)に再挑戦することにしました。2回目の入試ではもう一度、志望理由や学びたい内容を整理したり、面接での受け答えの練習をしたり、私をずっとサポートしてくださっている方々が、通訳支援や資金面についての要望書を提出してくださったりしました。当日の面接では、前回の反省も踏まえ、自分のことを強くアピールしました。そして2010年12月24日、ようやく合格を果たすことができ、現在に至っています。合格した時の感激は今でも鮮明に覚えています。

現在は、すべての授業において、触手話が可能な通訳者が2~3人付いてくださっています。通訳に関わる経費も、大学に負担していただいています。また、資料や教科書などは点訳もしくはテキストデータをいただき、点字表示端末(パソコン)で読み書きをしています。しかし、情報保障が整っても自宅から大学まで一人で通学することが難しいのです。

そこで、授業とは別にボランティア組織として「あっ君クラブ」を発足し、毎朝の通学支援(一緒に歩く)や授業以外の生活上必要なサポート(点訳・データ化の支援、外出支援、通訳支援など)をしてくれるボランティアを集め、活動しています。現在は、主に学内や近隣の大学の手話サークルの学生が交代で協力してくれています。このクラブは、単に介助をするだけでなく、会員同士の交流も深めていますので、興味があればどなたでも入会していただくことが可能です。支援内容や役割分担に関しても、歩くのが得意、パソコンが得意、手話通訳が得意など希望等に応じた内容となっています。

今では、あっ君クラブや手話サークルの仲間と手話で話したり、一緒に外出したり、ろう学生の交流会(全日本ろう学生懇談会など)に参加したりもするようになり、楽しい学生生活を送っています。さらに、手話や盲ろう者を知っていただくために、手話交流会を独自に開催したりもしています。

これからも、社会福祉を勉強しながら、今しかできない学生生活を楽しんでいきたいと思います。


プロフィール(もりあつし)

私は、視覚は光と色が分かる程度、聴覚は補聴器装着で大きな声や音は聞こえますが、声の聞き取りや発声が難しいという状態です。そのため、コミュニケーション方法として、主に「触手話」を使用しています。現在は、ルーテル学院大学総合人間学部社会福祉学科に在学しています。

※触手話とは話し相手が通常の手話を表し、盲ろう者がその手に触れて伝える方法です。

※盲ろう者や盲ろう者のコミュニケーション方法については、東京盲ろう者友の会などのホームページに掲載されています。