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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

難病当事者勉強会を中心とした取り組みについて

白井誠一朗

難病者の生活支援に関する施策動向

昨今、難病をもつ人たちの問題に対し、にわかに関心が集まっている。その要因として、これまで国が疾病対策の中で進めてきた「難病対策」が大きな転換点を迎え、その改革について大きな議論がなされていることに加え、2009年の民主党政権下で進められた障がい者制度改革において「制度の谷間」をなくす観点から、これまで生活上の困難を抱えていても障害福祉サービスを主とする障害者施策の対象外とされていた存在として難病がクローズアップされたことなどが挙げられる。

「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」が2011年8月にまとめた骨格提言をほとんど反故(ほご)にする形で2013年4月に施行した障害者総合支援法では、障害の範囲に「難病等」として130疾患が対象に加えられた。しかし、一つ一つの疾患ごとに対象を規定していく方法では「制度の谷間」はなくならず、どんなに生活をする上での困難があっても必要な支援を受けられない人が依然として取り残されたままとなってしまう大きな課題がある。

このことに異議申し立てをすべく、筆者や大野更紗氏など若手の難病当事者が中心の勉強会を立ち上げ、昨年10月には参議院会館でシンポジウムを開催した。このシンポジウムの経緯については、本誌2012年12月号に詳しい。今号では、そのシンポジウム後の取り組みを中心に若手難病当事者の活動とその先について述べたい。

難病当事者勉強会の取り組みの現在地

2012年10月に開催した「制度の谷間を超えて~当事者のための難病政策を考えるシンポジウム~」での訴えもむなしく、2013年4月から難病者については「当面措置」として130疾患の難病等が法の対象とされ、「制度の谷間」を残したまま、すでに制度は動き出している。

筆者らはシンポジウム後も継続して勉強会を開いて難病に係る政策動向のチェック、共有をしながら、この「当面の措置」である難病等の範囲の見直しに向け「制度の谷間」をなくすためにどのような取り組みが必要なのか、現在もその模索をしている。

この間、新しい取り組みとして行なっていることは大きく分けて二つある。一つは、他の障害、難病をもつ人・団体との情報交換やネットワークづくりである。たとえば高次脳機能障害の問題について、勉強会の際にゲストを招いてお話を伺い、継続的に情報交換や今後の取り組みについて助言等をいただいている。ほかにも、「子どもの難病」などと表現されることもある小児慢性特定疾患の当事者や家族、支援者などからもお話を伺い、小児期に難病にかかった子どもの教育や成人後の課題についても勉強会の場で共有しているところである。このように「制度の谷間」をキーワードとして、その当事者を中心としたネットワークが徐々に広がりつつある。

そして、もう一つの取り組みは、障害者総合支援法の対象から外れた130疾患に該当しない難治性疾患をもつ人たちの生活実態調査である。今現在も「制度の谷間」に取り残されている人たちが、その日常生活や社会生活においてどのような生活困難を抱えているのかを明らかにするとともに、その生活困難の解消に向けた課題の整理や、今後の政策提言を含めた当事者活動の取り組みに活かすことを主な目的としている。

遠い将来の目標

勉強会を通じた新たなネットワークづくりや生活実態調査の試みはまだ道半ばであるが、その中で最近あらためて気付かされているのは、同じように困っている人がたくさんいると同時に、とても多様であるということだ。その多くの多様な人たちと出会うたびに、問題の深刻さ、根深さを思い知らされ途方に暮れそうになることもあるが、それ以上に出会えたことをうれしく思う自分がいる。

難病やそれに限らず、社会制度の谷間に陥っている人はとかく孤立しがちだからだ。みんながみんな患者会等に参加して、当事者として活動ができる状況にあるわけではないし、かといって普通に就労という形での社会参加が困難な人も少なくない。

そういう意味で、当事者同士の出会いはとても貴重なことだと思うし、将来的には困っているいろいろな当事者が気楽に立ち寄れて、社会とつながれるような場所も作りたいと思っている。それが果たしてどのような場所になるのか、雑談程度に「難病カフェなんていいね」などと仲間内で話すこともあるが、それはきっと今、地道に取り組んでいる活動の先に見えてくるのではないか、そんな気がしている。


プロフィール(しらいせいいちろう)

社会福祉士。大学で社会福祉を学び、卒業後、難病当事者として活動をはじめる。その後、大学院に進学し、「制度の谷間」をテーマにした研究論文をまとめ、2012年3月修士号(社会福祉学)を取得。現在、「制度の谷間」の解消に向けたさまざまな取り組みを行なっている。