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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

変化なくして発展なし
―幅広い眼点で活動を担う

嶋本恭規

全日本ろうあ連盟は、発足してから今年で66年。2017年に70年を迎えます。先輩方から聞いた話では、発足の昭和30年代は、戦後の貧しさが残り、他人を気遣う余裕もなく、福祉に対する理解が得られない時代。障害をもって生まれたことは個人の責任、自分のことは自分で何とかしろ、援助を受けるには頭を下げ続けなければならない過酷な状況でした。

世代の変化

保護者、当事者による長年の活動のおかげで、今では福祉への理解が随分と広がりました。世の中が“誰もが暮らしやすい社会づくり”にシフトしているに違いはないと確信しています。その恩恵を受ける一方で、戦争の悲惨さを知らない、差別や迫害の中で、自分たちが声を上げて世の中を変えなければいけないと活動された偉人を知らない若者が増えつつあります。

運転免許について

今では、聴覚障害者も当たり前のように運転免許を取れるようになりました。実は、昭和48年まで、聴覚障害者は免許を取ることができず、このことが仕事の幅を狭め、収入を下げ、差別を受ける原因にもなっていました。人として当たり前の権利を受けるために当事者が立ち上がり、裁判を起こし、この権利を勝ち取った第一歩の出来事です。附帯条件付きの免許ですが、後に、音のない世界で生きる聴覚障害者でも免許を取れるようになりました。

ろう教育・アイデンティティーについて

聴覚障害児は、療育を受けた後、地域の学校へ通う者、小・中・高と特別支援学校へ通う者、地域の学校では適応できず特別支援学校へ転校する者、個々にさまざまな道を歩んでおります。どの道がいいのか。悩みながら歩んでいるのが現状だと思います。地域の学校に行けば、情報保障もなく、分からないことは聞いてと言われても、何が話されているのか分からない状況では質問しようがない、自分の言いたいことも伝わらない。手話も学ぶ機会も使う機会もなく、意味を理解し考える機会が得られない環境に置かれています。

一方、ずっと特別支援学校で過ごしてきた者は井戸の中の蛙となり、健聴者との付き合い方が分からず、社会に出ても人間関係で転職を繰り返す者、他の社員の給与体系を知らず、低賃金のまま働かされている者など、課題も多く聞かれます。

本来、学生時代に、己を知り、自分の主義主張を持てるようになるための社会勉強を人間関係の中で学びます。自分のことも上手く説明ができず、相手の意見も受け止められず、社会でやっていける人材育成を、果たして今の教育現場が担えているのでしょうか。

WFD理事長のお話

WFD(世界ろう連盟)には、世界各国のろう者団体128団体(2006年までに)が加盟しています。4年ごとに会場持ち回りで会議が開催されます。

フィンランドのマック・ヨキネン氏が、WFD理事長だった時に印象深い話をされていたので、ご紹介します。

「先進国と発展途上国、それぞれの国に住むろう者たち。10年後は、どのように変化するのでしょう?」という問いかけです。これから10年先、先進国はさらに福祉も進み、テクノロジーも向上するでしょう。手話や聴覚障害に対する理解、人工内耳も広がります。反面、発展途上国では福祉もテクノロジーもなかなか進まないのが現実でしょう。

では、人工内耳の装着率が高くなればろう者同士、出会う機会が失われるのでしょうか。手話で会話する機会が減るのでしょうか。逆に、発展途上国はろう者の団結力が強くなるのでしょうか。こういった発想に柔軟性を持ち、常に考えて仲間と共に行動することを忘れないように、また、この推移による結果を見るのは未来を担う若者たちである。世の風潮を人任せにするのではなく、若者たちが作り上げなければいけないのだというメッセージでした。

復興と新生について

日本政府は2011年3月11日の東日本大震災を受けて以来、復興に向けて取り組んでいます。全日本ろうあ連盟は“復興”ではなく“新生”を目指すべく活動に取り組みます。“新生”とは以前と同じ状態に戻すのでなく、より良いものを目指し、新たなものを作り上げていく意味が込められています。すなわち、障害者自身も過ごしやすい社会を創造していく意味を指しています。

街並みや住まいについては、以前と同じ方が居心地がよいかもしれませんが、変化なくして発展はありません。これらの活動を担うのは紛れもなく若者であり、幅広い眼点を持って進めて行かなければならないと思っております。


プロフィール(しまもとやすのり)

1976年生まれ。社団法人兵庫県聴覚障害者協会事務局長。一般財団法人全日本ろうあ連盟理事。

趣味は、ドライブ、スターバックス巡り、鑑賞魚、旅行、PCいじり。若い聴覚障害のある人たちに伝えたいことは、「ろうあ者として誇り、手話の誇りを持とう!未来は青年のもの!」