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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

一人ひとりの得意分野を生かした自営業者集団
~電気仕掛けの仕事人的働き方

前田栄作

私たちは一般に言う組織とは少し違い、いわば自営業者の集まりです。障がいをもつ人ももたない人も、一緒になって仕事に取り組んでいます。

パソコンがあれば障がいの有無に関係なく仕事を融通しあえる

今ではスマホやiPadといった電子機器を、多くの人が当たり前のように使いこなしています。しかし、今から20年近く前はインターネットも普及しておらず、パソコン通信の時代でした。独立してフリーで仕事を行うデザイナーにとって、大切なことの一つが納期を守ることです。体調を崩したとしても、組織のように代わりをしてくれる人はおりません。納期が守れなければお客様に迷惑をかけてしまい、その後の仕事が発注されなくなります。そのため、繁忙期は徹夜で仕事をこなすこともしばしばです。

明日の午前中までに作品を完成して納品しなければならないと、深夜に仕事をしている時、子どもが熱を出して病院へ走らなければならなくなりました。しかし、病院へ子どもだけ置いてそのまま帰宅する訳にはいきません。仕事も完成しなければなりません。その時、パソコン通信の仲間に「誰か仕事の手助けをしてもらえないか」と呼びかけたところ、運良く了承してくれる人が現れて、危機を乗り越えることができました。後に、その方は身体に障がいをもっていることを知ったのですが。

パソコンを使うことで、どれだけ距離が離れていても一緒に仕事ができるし、障がいの有無も関係はありません。一緒に仕事をしていくには、お互いの信頼関係を築いていくことが大切です。そこで「顔の見える在宅就労」を目指そうと、愛知県在住のメンバーを中心として1999年に、任意団体の「電気仕掛けの仕事人」を立ち上げました。

任意団体からNPO、そして在宅就業支援団体へ

任意団体として設立してから、愛知県を基盤に視覚障害者向けのIT講習会やパソコン教室の開催、しゃべるパソコン講座(FMおかざき放送)制作に関わるなどの活動を行いました。そして、今後の事業を続けていくには法人格が必要だろうと、2003年4月7日にNPO法人として登記をしました。

仕事をしていくために何が必要なのかを考えた時、「障がいのあることが必ずしも障がいになる」とは限りません。人はそれぞれにさまざまな能力を備えています。その能力を発揮できる場があれば、その人の能力に応じた仕事ができるはずです。

私どものように在宅で仕事をするためには、まず必要なのがパソコンの操作です。パソコンが使えれば在宅でもできる仕事はあります。パソコンの操作が分からなければ、自分で調べて覚えればいいのです。

電気仕掛けの仕事人は、障がいの有無にかかわらず、在宅就労で自営業をしている方たちのネットワークです。ですから、私たちに雇用関係はありません。新たに参加する方たちも自営業者を目指しています。メンバーには筋ジストロフィー、脊髄損傷、視覚障害、聴覚障害、進行性の難病の方などがいます。いわゆる健常者もいます。それぞれの能力や体力などに合わせ、お互いが補完し合い仕事をしています。

具体的にはテープ起こし、ライティング、印刷物のデザインや編集、ホームページ制作、データベースプログラミングなどの仕事をしています。

お互いの能力を上手に組み合わせる

私たちは、2003年から2年半、愛知県障害者テレワーク支援事業を受託しました。2006年には在宅就業支援団体として厚生労働省に登録しました。在宅就労とは、いうまでもなく通勤などの外出が困難なために家の中で仕事をするということです。

出版物などの製作で現地取材が必要な時は、動けるものが取材に出かけて写真の撮影もします。そしてそれぞれが手分けして、地図の描き起こし、写真の選定や画像処理、割付などの編集に携わります。

視覚障害の方は印刷物に書かれている文字や絵柄を見ることはできません。しかし、テープ起こしや文章の作成などは行えます。デザインは得意だが、文章は苦手という人と一緒に仕事を行うことで、印刷物のデザインや編集、ホームページの制作をすることができます。

あるいは、通院などで体力的余裕がなかったり、体力的に一人では納期までに完成できそうにない場合は、あらかじめチームを組んで分担するなどして仕事を進めていきます。

大切なことはこつこつ続けていく努力

ただ、いくつかの課題もあります。もともと、その道のプロであった人がメンバーに加わった場合は問題はないのですが、新たにメンバーに加わって在宅就労に進もうという人は、仕事そのものを一から覚えていかなければなりません。当然、すぐに仕事ができる訳ではありませんが、その道のプロとして自立を目指す人には広く門戸を開放しています。もっともプロとして自立するには障がいの有無にかかわらず、それだけの時間がかかります。

仕事を覚えてもらうといっても、会社組織のように、四六時中、誰かが横にいる訳ではありません。メールやskype(インターネット電話サービス)などを利用して覚えてもらうには、どうしても時間がかかります。自分で調べた方が早い場合が多いですし、それでも分からなかった場合に、定期的に行なっているskypeミーティングを活用して教えあったりしています。

在宅就労にとって大切なことは、やはり自己管理です。仕事を覚えたからといって、すぐに十分に稼ぐこともできません。その上、一人暮らしの場合は、どうしても鬱(うつ)っぽくなりがちです。そこで年に何回か、お互いが顔を合わせて近況報告のできる機会を設けたいのですが、もともと外出が困難な方が多いため、なかなかみんなが集まることはできません。そこでskypeなどを利用してコミュニケーションを図るようにしています。

また、立ち上げた当時20代であったメンバーも親の介護、自分自身の体力の低下、病気の進行などで従来と同じような働き方ができにくくなっています。状況に応じた働き方を考え直さなければならなくなりつつあります。

なかには就職をする人もいます。グループで仕事をしてきた場合のリーダーが就職された時、他のメンバーにとっていい刺激にもなり、喜ばしいことですが、その反面、スキルのある人がそれまでの仕事を離れることは痛手となることもあります。逆に会社員であった人が電気仕掛けの仕事人のメンバーに加わり、さらに自営業として独立をされたケースもあります。

私たちにできることは、こつこつと地道に仕事を続けていくことです。とはいっても、続けることほど難しいことはありません。それでも日々進化していくコンピュータソフトや社会の変化に合わせ、努力を積み重ね、自らのスキルアップに励むことが大切です。

パソコンはその人の能力を引き出す道具

人は本当にさまざまな能力をもっています。しかもコンピュータの発達によって、かつては難しいと思われていたことでも、簡単に行えるようになっています。

昔は手が不自由であれば文字を書くことはできませんでした。しかし、手は使えない人でも、たとえば、口に棒をくわえることでキーボードを操作して文章をつくることができます。口に棒をくわえる力がなくなった人でも、コンピュータが口元や目の動きを読みとって入力してくれます。視覚障害の方も、コンピュータ上の文字を音声に変換することで文章を読み取ることができます。だから、テープ起こしもできるのです。

こうした便利な道具はまだまだ進化、発展していくことでしょう。これからも障がいのあるなしに関係なく、その人の持っている能力や可能性をもっと引き出してくれるようになると思います。

(まえだえいさく フリーライター)