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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

療育の役割とこれからを考える学習交流集会の開催

安藤史郎

2013年5月19日(日)に、京都市で、障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会(以下、「持ち込ませない会」)が主催する『療育の役割とこれからを考える学習交流集会』が開かれました。

めまぐるしく変わる障害児制度

障害児を取り巻く制度が大きく変わりました。2012年4月からの「障害者自立支援法・児童福祉法一部改正法」により、旧児童デイサービスは児童発達支援事業と名称を変え、障害者自立支援法から児童福祉法に移行しました。「子どものことは子どもの法律で」という粘り強い運動の成果の一つと言えます。しかし、応益負担・利用契約制度・日額報酬制という障害者自立支援法の問題の本質は残されたままです。

この改正のねらいである、「身近な地域で療育」の名目のもと、旧通園施設は児童発達支援センターとして福祉型と医療型に再編成されましたが、量的な整備がなされていないので、施設の地域偏在や、障害種によっては療育のために他府県まで行かなければいけないという問題はそのままです。一方で、NPO法人や株式会社が運営する事業も増え、全国各地で「療育」と銘打って、一定時間狭い部屋で預かるだけのところもあり、中身が問われる状況もあります。

「持ち込ませない会」は、子どもに障害があるからといってなぜ利用料としてお金を余計に払わないといけないのか、障害が確定しない時期に利用契約制度はそぐわないこと、そして、日額報酬制では事業所が安定して運営ができない、ひいては療育の質も維持できないことを訴え続けてきました。学習交流集会は、療育の意味、大切にしたい療育とは何かをあらためて見つめ直すための機会となりました。

発達を支える土台を学ぶ

午前中は二本立ての学習会。一つ目は、「子どもの発達と療育の果たす役割」と題して池添素氏(NPO法人福祉広場、同会事務局長)が、子どもの苦手なことを練習させるのではなく、得意なこと、楽しいことを遊びにしていくこと、子どもの要求を育てることなど、療育で大事にしたいことについて語られました。二つ目は中村尚子氏(立正大学、同会副代表)が、この間の障害児施策を振り返り、歴史的な経緯の中で今の制度の問題に触れられ、「子ども子育て支援法と障害児支援システムの歴史と現在」について学びました。

午後からは、近藤直子氏(日本福祉大学、同会副代表)から、障害福祉サービスの利用開始と全く同じ仕組みである相談支援事業が、障害児通所支援に持ち込まれたことの問題点が指摘されました。

療育に出合って

全国各地から参加した8人の保護者が登壇。子どもに障害があると分かった時の複雑な気持ち、療育に通ってみての気持ちや子どもの変化、親子にとっての療育の意義が自身の言葉で語られました。

「療育に通ってみて、私一人だけじゃなく、みんながんばっているんだな、と元気が出てきました。発達の道筋を知ると、他の子と比べずに、子どもを信じて待つ姿勢をもてるようになりました。わが子の成長に勇気づけられ、他の子のためにも行動できるようになり、みんなで子育てをしているという輪ができていきました」と話したのは鹿児島の保護者。

子どもの成長とともに、親の子どもへの関わり方が変わり、保護者同士のつながりが地域にも広がっていったことが話されました。

また、「息子の障害を受け入れられなかったので、療育センターの外来教室をわざと休んだこともありました。療育に通い、徐々に他のお母さんと話すようになりました。みんな笑いあっていても、ふっとした時に出てくる心の不安がある。でも逃げずに立ち向かっているお母さんたちの強さがうらやましかった。私は、ずっと他の子どもと自分の子どもを比べていましたが、親子療育でのお母さんたちの愛情の深さを感じ、私も他のお子さんにも目を向けていけるようになりました。身体が不自由でも楽しいことがやりたい、みんなと遊びたい、かっこいいところを見てほしい、というすてきな心がいっぱいの子どもばかり。うれしそうな表情やしぐさが、自分の心をゆっくり溶かしてくれ、障害をもつ息子と立ち向かう姿勢をつくっていってくれました」と、自身の胸の内意を言葉にしました。

わが子に障害があると、他の子と比べたり、できないことに目が向きがちです。子どもの「困った」姿も成長の過程として受け止め、療育を肯定的に捉えるには時間がかかります。気持ちが揺れ動く時期に、一緒に悩んだり、考えたりしてくれる仲間がいること。子どもが思いっきり楽しみ、その姿を一緒に喜べる人がいることが大切だということを考えさせられました。

「保護者支援」にはメニュー化された内容はありません。一人ひとりが背負っている歴史や生活、子ども観を含めて向き合っていく必要があるからです。「支援者―被支援者」という関係ではなく、「一緒に」と共感できる関係作りを大切にしていく場こそ、保護者や子どもが求めていることなのだと思います。

「療育に通えたのは、運がよかった、自分たちだけのものにして終わらせたくない。生まれてきた子どもたち全員が幸せに生きること。それが療育に通う私たちの責任」「毎回来る子が違う、親の会もない、これでは関係が築けない。これを療育と呼んでいいのか」という発言もあり、「受けてよかった」と思える療育と現状の大きな流れとの違いへの危惧、声を上げていく大切さについても話されました。

各地の現状とこれからの課題

フロアからは、各地の障害児支援の状況について発言がありました。大阪府寝屋川市では、市立の療育センターであるあかつき・ひばり園に指定管理者制度が導入されようとしています。寝屋川市は、1970年代から親の会と行政が共同して療育システムを作りあげています。

地域で療育を必要としている子どもは何人いるのか、一人の子どもの育ちを継続的に把握するなど、子育てや療育に対する公的責任を守ろうと運動している親と職員の発言に、共感の発言が続きました。

集会のまとめには、白石正久氏(龍谷大学、同会副代表)から、厳しい情勢に対して、胸を張れる療育の中身をつくらなければいけないということが語られました。そのためには、個々の園が閉じてしまうのではなく、学びの場に出て、レポート報告や学習を通じて高め合う必要性があり、同時に保護者の声をいろんな所に届け、日々の積み上げの成果である療育をお金儲けの対象にさせないことが確認されました。

この学習交流集会の内容は、11月にブックレットとして出版される予定です。(『8人のママからのメッセージ~わが子と私と療育と』(仮)、全障研出版部)

障害児の分野に限らず、要求に応えていくためには、資源が数値目標としてあるだけでなく、一人ひとりの揺れる思いに寄り添えるような実践と地域が求められます。私たちは、これからも、保護者の思い、「子どもたちのもっと大きくなりたい」という発達の要求を声にして、一人でも多くの方に伝えていきたいと思います。

(あんどうしろう 障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会)