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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

ジョブコーチカンファレンスの報告

酒井京子

1 職場適応援助者養成研修機関連絡会の立ち上げ

「障害者の雇用の促進等に関する法律」が平成25年4月に改正され、障害者雇用率が民間企業においては2.0%に引き上げられました。また、ハローワークにおける障害者の職業紹介は、平成24年度は前年度に比べ15%増となるなど、障害のある人たちの一般就労は確実に社会の中で進展してきているといえます。それとともに、働くことを支えるための制度が多岐にわたり用意され、そのひとつとして職場適応援助者(ジョブコーチ)の制度があり、障害のある人たちが安定して働き続けるために重要な役割を果たしています。

職場適応援助者を養成する機関としては、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構以外に、平成18年からはノウハウを有する民間機関においても職場適応援助者養成研修を実施できるようになり、現在、6団体が厚生労働大臣の認可を受け研修を実施しています。その中でも早くから研修の認可を受けた4団体(NPO法人ジョブコーチ・ネットワーク、NPO法人大阪障害者雇用支援ネットワーク、NPO法人くらしえん・しごとえん、NPO法人全国就業支援ネットワーク)が集まり、昨年の4月に職場適応援助者養成研修機関連絡会(以下、連絡会という)を立ち上げました。それまでは各々の団体が、ジョブコーチをはじめ就労支援に関わる固有のノウハウをもち、それぞれのポジションから地域における就労支援を牽引してきましたが、大きな節目を迎えた今、各機関の独自性は尊重しながらも同じ目標のもとに連絡会を結成し、制度や養成研修の在り方について情報交換を行う場を重ねてきました。4つの機関がつながった意義はとても大きいといえます。

2 「ジョブコーチカンファレンス~新たなステージに向かうジョブコーチ~」の開催

4機関合同での初めての試みとして、5月18日(土)に兵庫県民会館において「ジョブコーチカンファレンス」を開催しました。開会にあたり連絡会を代表して、NPO法人ジョブコーチ・ネットワーク理事長の小川浩氏より冒頭の挨拶があり、同じ会場で今から十数年前(日本にジョブコーチ制度が導入される少し前)に、ジョブコーチ発祥の地であるアメリカからジョブコーチの第一人者を招いてカンファレンスが開催されたことが紹介されました。時代の流れを感じるとともに、この十数年の間に日本でも着実にジョブコーチ支援が根付いたことを、会場に集まった250人を超える参加者の熱気から改めて実感することができました。参加者は、企業、就労支援機関、行政、学校関係者など多岐にわたり、北海道から沖縄まで広域からの参加がありました。

挨拶の後、まず一つ目のプログラムである「実践報告」がありました。NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワークの茂木省太氏から、精神障害のある人のジョブコーチ支援の実践報告を、続いて、社会福祉法人南風荘セルプ岡の辻の伊藤卓芳氏からは発達障害のある人の支援の実践報告がありました。報告の中では、現行制度の限界や課題も浮かび上がってきました。

受講者からは「全国のジョブコーチ一人ひとりの積み重ねで障がい者雇用が推進されていることを強く感じました。同じような気持ちのある方々が、たくさん集まっていて、心強さを感じました」「自分たちのやっているやり方と同じだと改めて振り返ることができた」等々の感想が寄せられました。ジョブコーチは日頃は実践現場で孤軍奮闘していることが多く、このような場でお互いの存在を確認し、日々の支援や技術を確認し直す意義は大きく、実践を共有することが参加者の有用な財産になっていくことを感じました。

昼休憩をはさみ、続いてシンポジウム1では「地域の就労支援の在り方とジョブコーチ制度について」と題して(写真1)、労働、福祉のそれぞれの最新の制度の動向についての説明がありました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

まず、労働サイドからは、厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課課長の山田雅彦氏より、権利条約の批准に向けた対応や精神障害者の雇用義務化などの説明があり、国の雇用施策全体から見た障害者雇用政策の在り方という視点をもつことの重要性についての話がありました。福祉サイドからは、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課課長の辺見聡氏から、総合支援法における就労支援策や障害者就業・生活支援センター事業に関する施策の説明があり、共に働くという気持ちをどのようにつくっていくのか、という障害者雇用の土壌づくりに対する問いかけがありました。

その後、連絡会からNPO法人くらしえん・しごとえん代表理事の鈴木修氏と小川浩氏が登壇し、鈴木氏からは、連絡会が共同で実施した職場適応援助者養成研修修了者に対する実態調査についての報告がありました。実態調査から第1号ジョブコーチ、第2号ジョブコーチが抱える課題や活動の実態がつぶさに浮かび上がってきました。最後に、小川氏が3人のシンポジストの報告をまとめ、現行制度の中でジョブコーチが抱えている課題を再整理しました。

続くシンポジウム2では、小川浩氏が進行を担当し、就労支援の立場から連絡会を代表して鈴木修氏、NPO法人全国就業支援ネットワーク代表理事の高井敏子氏、社会福祉法人加島友愛会かしま障害者センター館長の酒井大介氏、また、障害者雇用の立場から、株式会社かんでんエルハート代表取締役の前川光三氏がシンポジストとして登壇しました(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

鈴木氏と酒井氏からは、第1号ジョブコーチは、支援計画の立案、支援全体のコーディネート、他の第1号ジョブコーチのスーパービジョンなど広範囲の役割を担っており、地域のジョブコーチ支援の調整を担えるようになっているが、第1号助成金はそれに見合う報酬ではないこと、事業管理者の位置づけと報酬が実態に即していないことなどが指摘されました。

高井氏からは、ジョブコーチは非常に重要な就労支援の方策で、障害者就業・生活支援センターの6割が第1号ジョブコーチを配置するに至ってはいますが、すべてに十分な専門性が備わっているとは言えず、より高い専門性を目指した職場適応援助者養成研修やその後の継続研修の在り方、認定法人が正規職員を安定配置できるような助成金の見直しが必要であることが指摘されました。

また、前川氏は、かんでんエルハートの例を通して、第2号ジョブコーチの役割として、業務遂行の指導、マッチングの支援、業務運営に対する提言能力の3点が重要であることを示し、また企業としては、企業内の組織的かつ継続的支援を支えられるような助成金制度を求めていることを述べられました。

全体として、ジョブコーチの活用に積極的で、現行制度を最大限に活動している組織・機関からの提言であり、高い専門性、広い責任範囲に見合う助成金の見直しを求める方向での議論でしたが、一方で、第1号ジョブコーチの大半は兼務で活動時間も短いという調査結果も発表されており、今後の職場適応援助者のあり方としては、裾野の広さを目指す方向と、頂きの高さを目指す方向の双方を兼ね備えることが必要であることが示唆されました。

カンファレンス終了後には懇親会があり、セミナーの開催にあたりご協力をいただいた公益財団法人キリン福祉財団様にご挨拶をいただき、キリンビールで乾杯をした後、養成機関の垣根を越えた熱い交流がなされました(写真3)。一日を通して感じたことは、4つの機関が協同で取り組むことにより、1つの機関だけでは発揮し得ない新しい力や効果が生み出されたように思いました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

3 おわりに

昨年度の厚生労働省の「地域の就労支援の在り方に関する研究会」でも、ジョブコーチについては制度の見直す時期に来ているという結論が出されました。今回のセミナーのサブタイトルである「新たなステージに向かうジョブコーチ」にあるように、より良いジョブコーチの在り方を考えるためのセミナーであり、今回のカンファレンスでジョブコーチの新しい扉を叩き、次のステップが始まろうとしている一日であったと思います。今後のジョブコーチについて期待が高まるところです。

(さかいきょうこ (社福)大阪市障害者福祉・スポーツ協会 サテライト・オフィス平野)