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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

サイドイベントの報告

「貧困と社会的排除から障害者の自立に向けた進捗」報告

田丸敬一朗

障害と開発に関する国連ハイレベル会合に合わせて、スウェーデン障害問題省、ヨーロッパ自立生活センターネットワーク(ENIL)、ストックホルム自立生活協会(STIL)の主催で、前記をテーマとしてサイドイベントが開催された。ここでは、障害者権利条約第19条に即して、障害者が施設に隔離されることなく、どんな場所・どんな住居に住むかを自分で決めることのできる社会をつくるための各国の取り組みが紹介された。

まず、スウェーデンの大臣が、開会の言葉の中で、制度を整備することにより、障害者が地域で生活することが実現できたと述べた。かつては、障害者は施設に入所しており、差別や偏見にさらされていたこと、障害者が地域生活できるよう戦略的に計画を立ててきたことを述べた。貧困削減と自立生活には、政府の適切な政策が必要と説いた。

また、米国国務省特別顧問のジュディ・ヒューマン氏は、アメリカの脱施設・地域生活の流れは、当事者や家族からの反対運動に始まり、ADAの制定と当事者運動の影響が、この流れを加速したこと。ADAがきっかけとなり、社会が差別とは何かということを考えるようになり、施設入所が人権侵害だということに気づいた。当事者の運動では、障害種別を超えた運動により、自立生活の動きが進んでいると述べた。

ENILのナバネゼム・ピレイ氏は、自立生活は人権に関わる問題であると指摘し、EUにおける自立生活の取り組みに関する報告を行なった。

「EUとしても加盟国としても条約批准は進んでいるにもかかわらず、加盟国の半数以上で施設への予算が増えており、特に知的障害者の施設が増え、入所者も増えている」

さらに、「コミュニティによるサービス、介助者派遣の方がコストもかからず、虐待の危険も少ない」と指摘した。現在は好事例の収集・ネットワークの強化、ピアサポートの提供を行なっており、特別なサービスではなく、個々のニーズに即した支援の必要性・地域での受け皿作りを訴える活動を紹介した。

その後、CILソフィアのルドミラ・ボリソバ氏から、ブルガリアの状況について、ご自身の体験の報告があった。1歳から障害児施設に入り、18歳で施設を出なければならないことから、自立生活を目指したが、政府からの支援が不十分であり、また施設に戻ることになってしまったご自身の体験を交え、住居の支援や所得保障の不備を指摘した。

後半は、カッレ・キョンキョラ(フィンランド・アビリス財団議長)、マイケル・シュタイン(障害に関するハーバードロースクールプロジェクト代表)、カプカ・パナヨトバ(CILソフィア)、ジャミー・ボリング(ENIL)が参加し、ポスト2015における自立生活の推進に関するパネルディスカッションが行われた。

この中では、開発援助を行う上で、政策決定から草の根レベルのプロジェクト実施段階まで、当事者参加の重要性が確認された。

また、知的障害者への支援の重要性、途上国での自立生活運動の事例共有の必要性も指摘された。

フロアからは、障害者の自立を達成するために、韓国で所得保障を求める運動が活発であることが報告された。まだまだ家族が面倒をみるものという考えが残っていることも合わせて述べられた。

これらの議論を受け、スウェーデンの国連大使が、パーソナルアシスタント制度にはお金がかからないこと、障害者の雇用につながる補助金が用意されていることを述べた。

障害者権利条約の批准は世界的に進んでいるにもかかわらず、権利条約の第19条に明記されている地域で生活を送る権利に対する取り組みが十分なされているとはいえない。世界的には、施設建設の動きは止まっておらず、予算が増額されている国も多いことが分かった。脱施設を実現し、障害者が地域で自立生活を送るためには、今回のように、各国の状況を共有する機会の必要性を感じた。そして、国際協力の枠組みの中に、権利条約に即した地域での生活の推進を盛り込むことも重要である。また、各国では地域生活の必要性を訴え、その実現のための制度や支援体制の整備を求めていかなければならない。

障害者の地域生活を実現するために、改めて制度の策定過程への当事者参加を求めていかなければならないと強く感じた。

(たまるけいいちろう DPI日本会議)