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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年1月号

障害者権利条約「言葉」考

「締約国」―変わることと変わらないこと

長瀬修

2013年12月の国会での承認を受けて、日本も締約国の仲間入りをする。締約国とは、条約を守る、条約に拘束されるという同意を与えた国を意味している。

締約国となることで、日本にとって何が変わるのだろうか。何が変わらないのだろうか。

まず、変わらないことを挙げよう。条約の実施に向けての努力の必要性は変わらない。

日本は2007年に署名を行なってからは、署名国という立場で、批准に向けて、障害者権利条約の実施に取り組んできた。その成果として、2011年の障害者基本法の改正や、2013年の障害者差別解消法の成立が達成されてきた。そうした努力を引き続ける必要性は不変である。変わらないどころか、一層の努力が求められる。

変わるのは、そうした実施のための努力を促進する国際的な条約実施の枠組に正式に加わり、利用することができるようになることである。

そうした枠組みの一つが締約国会議である。これは、毎年、国連本部で3日間、開催され、主に締約国が自国でどのように条約実施に関して取り組んでいるのか報告を行う機会である。

もう一つは、障害者の権利委員会への実施状況に関する報告を提出することができることである。もちろん、この報告の政府による提出は、条約によって義務づけられている。批准後2年以内に最初の報告をしなければならない。

しかし、報告提出は単に義務であるのみならず、国際的なスタンダードである条約という視点から日本の障害者政策を診断する好機である。

締約国会議において選出されている18人の専門家(うち、17人は障害者)から構成されている障害者の権利委員会は、政府から提出された報告を検討する際に、パラレルレポートやカウンターレポートと呼ばれる、障害者組織をはじめとする市民社会からの声を重視する。

委員会は政府による報告に対して、こうした障害者を含む市民社会の生の声に耳を傾けて、質問事項を準備し、委員会の場で「建設的対話」を行い、「総括所見」と呼ばれる勧告を行う。

締約国となることで、1.政府報告の提出、2.市民社会からの報告の提出、3.委員会からの質問、4.質問への政府からの回答、5.締約国と委員会との建設的対話、6.総括所見、7.総括所見を受けての実施、というサイクルが利用できる。

条約に加わるということは、障害者政策に関して、たとえれば「人間ドックを受ける資格が持てる」ことである。受診の結果である勧告を生かすも殺すも、活用する意思にかかっている。

締約国になって変わるのは、国際的な実施を進めるために、委員会に日本の障害者委員を送ることが可能になることに加えて、民主主義国家として、障害者を含む市民社会の声に一層、耳を傾け、突きつけられる厳しい勧告を受けとめ、それを生かすことが可能になることである。

(ながせおさむ 立命館大学客員教授)