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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

フォーラム2014

こう変わる 障害者総合支援法
その1:障害支援区分、地域移行、重度訪問介護

小澤温

1 はじめに

障害者自立支援法に代わる新法は、2012年に、「障害者総合支援法」として成立し、2013年度より施行された。障害者総合支援法の概要は、障害者自立支援法の名称の変更、対象の拡大(難病を対象にする)、介護給付・訓練等給付に分かれていたケアホームとグループホームの一元化、重度訪問介護の利用拡大、障害福祉計画の定期的な見直しによるサービス基盤の整備などの諸点が示されている。これに加えて、法施行後3年を目途とする検討事項として、常時介護を必要とする者の支援のあり方、障害程度区分(2014年度に障害支援区分に名称変更)を含めた支給決定方法のあり方、意思疎通に支障のある者の支援のあり方などの事項が示されている。

基本理念では、障害者基本法にある「共生社会」実現の理念を掲げて、可能な限りその身近な場所において必要な支援を受けられるとしている。「可能な限り」という表現に関しては批判も多くみられたが、少なくとも、身近な場所において必要な支援を受けるという(入所施設ではない)地域生活に基盤の置いた理念を示したという点では、これまでの法にはない特徴であり、今後の施策の中でも重視しなければならない理念である。

障害の範囲では、制度の谷間のない支援を提供することから、難病を対象にすることになった。これにより、障害者総合支援法の対象は、障害者自立支援法成立時の身体障害、知的障害、精神障害に加えて、障害者自立支援法の改正時の発達障害、高次脳機能障害、今回の難病の計6領域の障害になった。この対象拡大の過程は、障害者手帳制度のある3障害から障害者手帳制度の適用をしにくい領域への拡大であり、別の見方をすれば、障害者手帳制度そのものの見直しにつながっていくことになると思われる。特に、発達障害、難病に関しては、機能障害に焦点をあてても、社会生活の中で生じるさまざまな生活のしづらさは把握しにくいため、「医学モデル」ではなく、「社会モデル」を重視して支援の必要性をとらえないといけない。

ここでは、障害者総合支援法の大きな改正事項のうち、障害支援区分への変更、地域移行の対象拡大、重度訪問介護の対象拡大の3点について触れる。

2 障害支援区分への変更

障害者自立支援法は、施行当初より障害福祉サービスの必要性を客観的に明らかにする目的のために障害程度区分を導入した。障害程度区分は、障害者の心身の状態を総合的に勘案し、それに基づいて、要介護状態と福祉サービスの必要性を示す区分として厚生労働省令で定めることにした。障害程度区分は、障害者および障害児のサービスの必要性に関して全国共通の客観的なスケールを用いて明らかにすることを目的として、主に介護の必要時間をもとに開発された。

障害程度区分を判定するために、共通の調査項目として、心身の状況、医療、麻痺の状態、移動、動作、身辺、行動、コミュニケーション、生活の状況、など、106項目が定められた。この106項目は要介護認定に用いられている79項目に、知的障害、精神障害などの行動的な特徴に関わる項目を追加して作成された。106項目で1次判定を行い、市町村審査会で医師の意見書、認定調査票の特記事項などを勘案して2次判定を行なって障害程度区分の認定がなされた。ただし、国のデータでは、知的障害者と精神障害者では1次判定の審査会(2次判定)の変更率が高く、これらの項目でサービスの必要性を判断することは現実的に困難なことが示されており、障害程度区分の見直しの必要性が求められてきた。そのため、障害者総合支援法では、障害程度区分は2014年度から障害支援区分に名称と項目を変更し、3年かけて支給決定方法の見直しが明記された。

2014年度の障害支援区分による障害認定調査の実施に向けて、2013年7月から全国100程度の市町村を対象にした試行事業が行われた。その目的は、1次判定の結果を審査会による2次判定の結果により近づけるために障害程度区分の項目を修正・変更し、その妥当性を検証することである。試行事業に用いられている項目は、「移動や動作等に関連する項目」(12項目)、「身の回りの世話や日常生活等に関連する項目」(16項目)、「意思疎通等に関連する項目」(6項目)、「行動障害に関連する項目」(34項目)、「特別な医療に関する項目」(12項目)、の合計80項目と特記事項から構成されている。

この試行事業では、認定調査に慣れている調査員と慣れていない調査員との間で評定に差がみられたこと、自宅・単身生活での支援の必要性に着目しているので、障害者の生活状況を知っている調査員の評定が重要なこと、反社会的な行動の評定に関してとらえることが困難なこと、といった課題が関係者から指摘された。このことを踏まえて、国は修正を行い、調査員マニュアルの改善と研修の充実の上で、障害支援区分は試行事業で用いられた項目で2014年度から施行されることになった。

3 地域移行の対象拡大

障害者自立支援法において策定義務が課された都道府県・市町村障害福祉計画の特徴は、サービスの必要量と見込み量の推計の中に、入所施設あるいは精神科病院からの地域移行者の推計を入れた点であった。この点で、障害者自立支援法は、わが国で初めての地域移行に関連した法律といえる。その後、第2期障害福祉計画(2009~2011年度)、第3期障害福祉計画(2012~2014年度)を経て、障害者総合支援法における初めての障害福祉計画(第4期)の策定時期にあたっている。

現在、国では障害者総合支援法の下での障害福祉計画策定指針の検討を行なっているが、入所施設と精神科病院からの地域移行の方向性をより強化していくことになると思われる。ただし、地域移行に関しては、市町村単位の計画策定だけでなく都道府県による広域的な調整の必要性、数値目標の自治体の実態に即した設定方法、さらに、数値目標の達成だけでなく、相談支援、地域移行に向けてのシステムづくりがあわせて重要である。

このことに加えて、地域移行の対象拡大が2014年度から予定されている。新たに加わる対象者は、低所得者を対象にした保護施設(救護施設、更生施設など)に入所している者、矯正施設(刑事施設、少年院など)に入所している者である。ただし、矯正施設に入所している障害者に関しては、矯正施設の長が施設外で処遇を行うことを認め、福祉サービスの体験利用や体験宿泊の実施が可能な者に限定することとしている。このような対象拡大自体は、時代と社会の要請に基づいた取り組みとして考えられるが、地域移行を現実に担当する地域相談事業所がマンパワーと専門性で十分対応可能なのかといった課題もあり、今後の取り組みを注視する必要がある。

4 重度訪問介護の対象拡大

重度訪問介護に関しては、2014年度より、すでに対象にしている肢体不自由者に加えて、重度の知的障害者、精神障害者に対しても拡大することになった。新たに対象となる障害者は、知的障害または精神障害により行動上著しい困難を有する者であり、常時介護を必要とする者とされた。

具体的には、障害程度区分(障害支援区分)で、肢体不自由者の基準に合わせて、区分4以上(区分4より重度)とした。なお、障害程度区分以外の常時介護を有する者の要件として、行動障害を有し、認定調査項目における行動関連項目の点数8点以上(現在の基準であり、障害支援区分への変更に伴う見直しがなされる)とした。この内容では、従来の行動援護の対象者とほとんど変わらないという批判もあり、行動障害を伴わない者に対しても適用できるサービスにする必要性が検討されたが、その場合の支援の内容が明確でないため次年度以降の検討に先送りされた。

重度訪問介護事業者の指定に関しては、制度の上では障害種別の区別は行わないが、肢体不自由者に対する介護と知的障害者、精神障害者に対する介護とでは対応がかなり異なるため、「主として肢体不自由者に対応する重度訪問介護」、「主として知的障害者、精神障害者に対応する重度訪問介護」ということを対外的に示すことができる。なお、知的障害者、精神障害者に対応する重度訪問介護を実施するにあたって専門性のある人材の不足が想定されるので、従来の肢体不自由に対応した重度訪問介護の研修とは別に、知的障害、精神障害の特性を踏まえた研修を新たに設定することにした。

(おざわあつし 筑波大学)