「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年5月号
報告
ソチ2014パラリンピック冬季競技大会日本選手の活躍
中森邦男
はじめに
ソチ2014パラリンピック冬季競技大会は、2014年3月7日(金)の開会式から16日(日)の閉会式までの10日間、ロシア南部、黒海沿岸に位置するソチで開催されました。過去最多の45か国547人のアスリートが、5競技72個の金メダルを競い合いました。日本代表選手団は、3競技(アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン)に20人の選手が出場し、メダル獲得を目標に熱戦を繰り広げました。
日本代表選手団結団式において団長から、「2020東京オリンピック・パラリンピックに向かう(新しい挑戦)をテーマとし、スポーツを愛する人々に感動して貰えるように、障がいのある人たちに夢を持って貰えるように頑張る」の言葉をいただき、選手団一人ひとりが気持ち新たに大会に臨みました。
日本代表選手団は、現在、世界で最強のアルペンスキーシット男子チームが金メダル3個を含む5個のメダルを獲得したほか、バイアスロンで銅メダル1個にとどまり、金メダルランキング7位、総メダルランキングは9位でした。選手団の目標から金メダルの目標値(3個)は達成しましたが、総メダル10個(結果6個)以上という目標は達成できませんでした。アルペンスキーシット男子以外は、ロシア勢の大活躍に大きく後れを取った感でした。
表1 日本選手団の競技別成績〔前大会比較〕
競技 | ソチ2014 | バンクーバー2010 | ||||||||||||||
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選手数 | 成績 | 選手数 | 成績 | |||||||||||||
メダル | 入賞 | メダル | 入賞 | |||||||||||||
金 | 銀 | 銅 | 計 | 人数 | 人数 | 種目 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | 人数 | 人数 | 種目 | |||
アルペンスキー | 12 | 3 | 1 | 1 | 5 | 3 | 5 | 11 | 13 | 1 | 1 | 5 | 7 | 4 | 2 | 9 |
クロスカントリースキー | 8 | 5 | 6 | 8 | 2 | 1 | 3 | 2 | 4 | 5 | ||||||
バイアスロン | 1 | 1 | 1 | 5 | 4 | |||||||||||
アイススレッジホッケー | 0 | 15 | 1 | 1 | 15 | |||||||||||
車いすカーリング | 0 | 5 | 0 | 0 | ||||||||||||
計 | 20 | 3 | 1 | 2 | 6 | 4 | 10 | 20 | 41 | 3 | 3 | 5 | 11 | 21 | 6 | 18 |
※ソチ大会 金メダル獲得数ランキング 7位 総メダルランキング 9位
※バンクーバー大会 金メダル獲得数ランキング 8位 総メダルランキング 6位
ロシア選手団の圧倒的な強さ
ソチパラリンピックは、ロシア選手の圧倒的な強さが目立ち、金銀銅のメダル独占の種目も複数あり、また、団体競技ではアイススレッジホッケーと車いすカーリングとも決勝で敗れはしましたが、ロシアチームは過去の成績から格段に競技力が向上し、会場の大勢の観衆の賞賛を浴びていました。ロシアチームの金メダル獲得は、前回の12個から30個と、72個の金メダル種目のうち42%を占める圧勝でした。
日本アルペンスキー男子シットチームの活躍
シットスキーチームは、トリノパラリンピック以降、選手団主将の森井選手を中心にシットスキーの研究を重ね、世界の中で最も優秀な性能のシットスキーを作り上げ、このシットスキーでスキルを向上させ、森井選手と鈴木選手は、ここ最近の3シーズンの世界の総合チャンピオンとなりました。
アルペンスキーは、オリンピックと同じコースで行われ、山岳地帯のスキー場でしたが、3月の暖かい気候でバーン(レースコース)が緩み、柔らかく湿った中での戦いとなりました。シットスキーは、選手の体重とシットスキー(用具)の重量が1本スキーにかかり、スピードにのったターンで、コースに大きな力がかかります。このため、すぐにコースが荒れ(コースに溝ができ、でこぼこになる)、さらに1本スキーのためバランスが崩れやすく、レースの完走率は50%以下で、最悪の条件となりました。アルペンチームは、10個以上のメダル獲得と金銀銅メダル独占を胸に秘めレースに挑みましだが、緩んで荒れたコースにてこずり、有力選手のリタイアが続き、5種目のうち3種目優勝と計5個のメダル獲得にとどまりました。
狩野選手は、時速100キロメートルを超えるスピードのダウンヒルとスーパーGの2種目で金メダルを獲得し、スーパーGの2連覇とあわせ、日本のパラリンピック史上に輝かしい記録を残しました。回転のスペシャリストで、金メダルの最有力候補であった鈴木選手は、大きなプレッシャーを乗り切り、歓喜の金メダル獲得となりました。この2人の師匠でリーダーの森井選手は滑降での転倒が尾を引き、その後のレースで金メダルが取れない無念さとプレッシャーの中、見事、銀メダルと銅メダルの2個のメダルを獲得しました。
今大会では、これまで日本選手が使用しているシットスキーが市販されたことで、海外の有力選手がこの優秀な性能のシットスキーを使用するようになりました。これまでのような日本選手の優位性が縮まることが予想されます。
シットスキーはまだまだ課題が残されており、韓国2018ピョンチャン大会に向け、新たな開発に取り組んで行く必要があります。
表2 上位10か国のメダル獲得状況〔前大会比較〕
Rank | Country | 2014 | 2010 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
G | S | B | T | Rank | G | S | B | T | ||
1 | Russian Fed. | 30 | 28 | 22 | 80 | 2 | 12 | 16 | 10 | 38 |
2 | Germany | 9 | 5 | 1 | 15 | 1 | 13 | 5 | 6 | 24 |
3 | Canada | 7 | 2 | 7 | 16 | 3 | 10 | 5 | 4 | 19 |
4 | Ukraine | 5 | 9 | 11 | 25 | 5 | 5 | 8 | 6 | 19 |
5 | France | 5 | 3 | 4 | 12 | 10 | 1 | 4 | 1 | 6 |
6 | Slovakia | 3 | 2 | 2 | 7 | 4 | 6 | 2 | 3 | 11 |
7 | Japan | 3 | 1 | 2 | 6 | 8 | 3 | 3 | 5 | 11 |
8 | United States | 2 | 7 | 9 | 18 | 6 | 4 | 5 | 4 | 13 |
9 | Austria | 2 | 5 | 4 | 11 | 7 | 3 | 4 | 4 | 11 |
10 | Great Britain | 1 | 3 | 2 | 6 |
まとめ
現在のパラリンピックにおける各国の競技力向上の取り組みは、オリンピック招致にパラリンピック開催が含まれた北京大会を契機に格段に向上し、オリンピック同様に国を挙げての強化が不可欠な状況になりました。
東京2020オリンピック・パラリンピック開催が決定し、障がい者スポーツの政府の所管が厚生労働省から文部科学省に移り、障がい者スポーツの振興について追い風が吹いています。日本障がい者スポーツ協会は、2013年にビジョンを公表(ホームページ)し、障がい者が身近な地域でスポーツに参加できる環境づくりと、日本代表選手がパラリンピックを代表とする国際大会で大活躍できる環境づくりを目標に取り組みを進めているところです。
この中で、競技力向上のための現状の課題として、統括団体「日本障がい者スポーツ協会・JSAD(JPC)」の組織運営(人材、資金)強化、競技団体の組織運営(事務所、職員、強化スタッフ、費用)強化、選手の強化環境(日常練習、地域拠点、中央拠点、社会生活、強化費用)改善、医科学情報支援体制(スタッフ、地域支援体制、中央支援体制)強化が挙げられます。
具体的な方法として、第一に、各核競技団体の強化策に対しJPCの支援策と連動できるようにする。
第二に、日本代表選手の競技力向上と新たなタレント(選手)の発掘、指導、強化のプログラムを実施する。
第三に、強化選手が強化活動に専念(施設、宿泊、食事など)できる強化拠点(中央、地域)の設置と整備することです。
第四に、選手が競技に専念できる社会環境(仕事、スポンサー)と強化環境(強化資金、強化練習場所)の充実です。
第五に、強化スタッフが選手のサポートに専念できる環境作りで、これには関係組織や機関の協力・支援も含め、雇用の課題があります。
第六に、シットスキーの開発でも触れましたが、障がい者スポーツの用具・器具の開発が挙げられますが、この開発にも関係組織や機関の協力・支援も含め、費用の課題があります。
最後に、医・科学・情報サポート体制についての再構築が必要で、1.継続的な医・科学・情報の基礎データの収集と分析(研究)、2.医・科学・情報に関する知識の伝達(教育)、3.現場での即時的なサポート(障害の予防・治療と、映像加工・栄養・心理)の必要性(競技会・合宿に帯同できるサポートスタッフの所属)となります。サポート体制の整理と運営マニュアルの作成が急務であり、1・2はJPC体制で可能ですが、3については、専門職であり身分・給与等の生活保障が必要となります。
終わりに、これら課題を解決するために関係組織・機関と連携を取ることと、本会が2013年にビジョンを公表(ホームページ)した障がい者が身近な地域でスポーツに参加できる環境づくりと日本代表選手がパラリンピックを代表とする国際大会で大活躍できる環境づくりを目標に取り組みを進めます。
(なかもりくにお 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会事務局長)」
【写真提供:エックスワン】