「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号
相談支援事業の現状と課題
福岡寿
はじめに~平成26年度末に向け計画相談に比重~
平成26年度末までの経過措置3年の間に、障害福祉サービスを利用するすべての方たちに「サービス等利用計画」(「障害児支援利用計画」)(およそ、対象者100万人)を作成することが現在、相談支援では喫緊の業務となっています。
そのため、本来の相談支援とは何だったか? どのような相談支援体制を地域に構築していくべきか? こうした議論を踏まえた相談支援の体制整備に取り組む余裕なく、「サービス等利用計画作成」に取り組んでいかざるをえない現状が地域によっては見られます。
相談支援の果たす役割~基本相談、計画相談そして、自立支援協議会~
相談支援には、
1.サービスを利用するしないにかかわらず、障害のあるすべての方たちの相談に幅広く対応していく相談(基本相談)
2.現在最も関心が寄せられている、サービス等利用計画作成業務(計画相談)
そして、
3.基本相談を通じて明らかになってきた地域の課題解決に向け、地域づくり(資源開発、関係機関の連携強化、啓発等)に取り組むソーシャルワーク(自立支援協議会)
があります。
本来、1の基本相談、2の計画相談という日々の地道な相談支援活動から明らかになった地域課題を地域づくりに反映させていく3の自立支援協議会活動、こうしたそれぞれの相談支援活動が相互に密接に関係し合うことによって、地域の相談支援の土壌は豊かになっていきます(図1・図2)。
図1 相談支援 構造的イメージ図
(拡大図・テキスト)
(日本相談支援専門員協会作成)
図2 基幹相談支援センターの役割
(拡大図・テキスト)
(日本相談支援専門員協会作成)
筆者の地域(北信圏域)では、1の基本相談において、たとえば、乳幼児期から大人まで、さまざまな生活のしづらさに発達障害の特性をお持ちの方の課題が横たわっていること、あるいは、家族全体がさまざまな困難(発達障害、虐待、権利侵害、精神疾患、要介護等)に直面している地域状況が、年を追って顕在化していることなどに大きな地域課題を感じています。
そして、そうした課題は、2の計画相談における日常的な「サービス等調整会議」の場でも具体的に、今日、明日に向けて解決していかなくてはいけない課題として、支援者間で共有化されています。
そうした地域課題を解決していくために、たとえば、乳幼児期からの一貫した療育支援システムづくりや「権利擁護センター」の設置、「地域の安心多機能型拠点」の実現等々、さまざまな課題を3の自立支援協議会を足場に検討を進めています。
地域の関係機関が日常的に集まって検討や具体的取り組みを行う自立支援協議会の部会活動、プロジェクト活動、ワーキンググループ活動など、昨年度は年間で160回を超えています(図4)。
図4 北信地域障害福祉自立支援協議会(筆者作成)
(拡大図・テキスト)
計画相談に終始せざるを得ない地域の相談支援の実情
本来、1.基本相談2.計画相談3.自立支援協議会がバランスよく取り組まれていくことが、地域の望ましい相談支援体制ですが、相談支援専門員の本意ではないにしても、平成26年度末のタイムリミットに向け、勢い、計画相談に相談のエネルギーが費やされている地域が多いのが全国の実態です。
後1年を残すところで、計画相談の進捗率が、本来であれば6割ほどの達成率に達していなくてはいけない段階にきていますが、本年3月末の全国の平均でようやく3割を超えたところに留(とど)まっています。
計画相談に携わる「指定特定相談支援事業所」が思うように地域に増えていかないなかで、これまで基本相談を業務としてきた委託相談支援事業所が計画相談に業務をシフトせざるを得なくなり、結果として、基本相談や自立支援協議会に手が回らなくなっている実情が見られます。
さらには、計画作成にシフトしていく委託相談支援事業所すらも地域に存在せず、やむを得ず、本来の趣旨に沿わない「セルププラン」で達成率を上げざるを得ない実情を抱えた市町村もあります。
「日本相談支援専門員協会」が主催した『全国相談支援ネットワーク研修』の場でも、たとえば、「障害児の計画は全部セルフプランでいくしかないと言っている市町村がある。また、とにかく計画を作成することに忙殺され、日常の相談については対応せず、モニタリングの時期にしか関われない事業所もある」等々の実情が全国から報告されています。
相談支援の体制を保障するための財政的課題~交付金と補助金を財源の背景として~
相談支援体制を整備するにあたり、1の基本相談は市町村が自ら実施するか、国の統合補助金、交付金を財源に、地域の相談支援事業所に委託することで体制整備を行うことができます。
また、3の自立支援協議会の運営にあたっては、市町村が自ら事務局となり実施にあたるか、国の統合補助金等を活用して、地域の相談支援事業所に「基幹相談支援センター」として委託することで、事務局機能が整い、日常的な協議会運営が実現していきます。
しかし、限られた補助金や交付金を財源に財政事情の厳しい市町村が基本相談を担う委託相談支援事業所を確保したり、基幹相談支援センターの実現に向け、強い意志を持っていただくことは容易ではありません。
相談支援がどのような役割を果たし、どのように必要とされているのか、また、それが地域で暮らす住民にとってどのような効果をもたらすのかを市町村はもちろんのこと、地域の関係機関が広く共有化し、理解されていなくては実現が困難です。
こうした相談支援の基盤を支える体制整備の部分が脆弱な財源基盤に依っていることは、今後、全国すべての地域で相談支援体制を整備するにあたり根本的な懸念材料です。
そして、計画相談の対象拡大と相談支援体制整備
相談支援の体制整備にあたり、こうした危い財源事情のなか、それでも計画相談における「サービス等利用計画作成費」(1件16,000円、モニタリング1件13,000円)は、国の義務的経費として確実に確保できる財源として、「障害者自立支援法」(平成18年度)そして、改正法としての「障害者総合支援法」(平成25年度)で位置づいています。
昨年度、「日本相談支援専門員協会」が実施した相談支援業務実態調査では、一件の計画作成に対して、平均30時間ほどの時間(面談・移動・作成時間等々)を要している現状が明らかになりました(図3)。
図3 計画相談・障害児相談支援
(拡大図・テキスト)
この労力が作成費1件16,000円に見合うのかという課題は大きく、そのため、計画相談に携わる「指定特定相談支援事業所」の事業所が増えていかない一因となっています。
そのため、本年度実施される経営実態調査等を踏まえ、労力に見合う報酬の在り方を検討していただく必要性は痛切に感じていますが、しかし一方で、国の障害福祉サービス等を利用されている100万人の方たちに「サービス等利用計画」が届くなか、確実に義務的経費の財源が拡大し、地域の相談支援体制が構築されていく可能性も実感しています。
サービス利用にかかわらず、すべての方に相談が届く体制に向けて
障害のある方がどのような生活の困難を抱えているのか、その状況をしっかりと聴き取り(アセスメント)、通常の生活が保障されるために解決すべき課題を明らかにし、国の障害福祉サービスを利用するしないにかかわらず、支えるための具体的手立てや方策を一緒に考える。そして、本人を支える関係機関が同じ思いで一貫した支援にあたる。行なった支援が本人の本意に本当に沿っているのか、その都度、定期的に確認しあい(モニタリング)、また支援に当たっていく、こうしたケアマネジメントのサイクルで相談支援活動が営まれていきます。
こうした観点から見ると、今回義務的経費の中で保障される相談支援は、障害福祉サービスを利用する一部の方に限定された制度であることは否めません(図5)。
図5 相談支援における、自治体ガイドラインと本人中心支援計画/サービス等利用計画/個別支援計画
(拡大図・テキスト)
(日本相談支援専門員協会作成)
国は、サービス等利用計画作成における経過期間(平成24年度~26年度)の中で、相談支援体制(基本相談、計画相談、自立支援協議会、基幹相談等々)を構築していくことを市町村に求めていますが、地域で計画相談のみが独り歩きしていく懸念も強く感じています。
本人中心計画を実現するための地域づくりのために
長い間入所施設で暮らし続けた方の「サービス等利用計画」が、たとえば、
- 「今の暮らしを続けたい」(本人の願い)
- 「今の暮らしを継続できるように支援する」(支援目標)
- 「施設入所支援、生活介護」(提供サービス)
では、あまりにもむなしさが残ります。長い間施設で暮していた方であっても、改めて、本当はどう思っているんだろうかと、客観的視点に立ってアセスメントしてみる。そして、
- 「長い間施設に暮らし続けたが…もっと別の暮らしがないか体験してみたい」
- 「日中だけでも別の事業所に行ってみたい」
- 「施設に関係する方たちとはもちろんのこと、もっと、いろいろな地域の方たちと関わりを持ちたい」
- 「守ってくれる親族が先に逝ってしまった後でも自分のことを護ってくれる仕組みを考えてほしい」…
こうした思いが反映できる計画であってほしいと思います。
そのためには、本人の支援に関わる関係機関、また、支援機関が法人や事業所の事情や背景を越えて、本人中心に集ってくれる地域づくりをしなくてはなりません。
A法人の施設で暮らしている方の「体験したい」という思いに応えて、B法人のグループホームが体験型の空き部屋を提供できる。または、C法人の日中活動事業所に体験に出向くことができる。こうした本人中心の地域づくりが必要です。
今後、多様な相談支援事業主体が誕生していくなか、何よりも、すべての相談支援専門員が「事業所ありき」「サービスありき」ではなく、本人の思いに応えるには…をその中心に据えていく資質が求められています。
同時に、地域の支援機関が、本人中心にサービスが提供できる事業主体として地域に位置づくことも求められています。
筆者は、地域の関係機関が、「この地域の課題を皆でどう解決していくか」「そのために、自分の所属する機関は何ができるか」と日常的にやり取りできるステージとしての「自立支援協議会」に大きな可能性と期待を感じています。
そして、そうした豊かな土壌に計画相談という花が咲くことが今求められていると思います。
(ふくおかひさし 日本相談支援専門員協会副代表)