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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

障害者総合相談支援センターにしのみやの取り組みについて

玉木幸則

西宮市が構築してきた相談支援体制

西宮市では、12年前、支援費制度を迎えるにあたり、全国に先駆けて「障害新制度準備室」を設置し、新しい時代の入り口となる利用契約制度を実現化していく取り組みを始めた。その過程で、地域に根ざしたきめ細やかな相談支援体制づくりと障害種別を超えた横断的な相談機能の連携を進めていくため、当時の市町村障害者生活支援事業所と障害児者地域療育等支援事業所を活用した「障害者あんしん相談窓口」を6か所開設した。さらに保健所(精神障害者)、旧基幹型在宅介護支援センター(高齢者)との連携強化を図り、障害者福祉に関連する相談・案内を総合的に提供する環境づくりを進めていく“障害者あんしん相談窓口連絡会”を設置し、アセスメント表、ケアプラン等の書式の標準化や具体的な連携方策等の検討を進めてきた。それがきっかけとなり、障害があっても地域で暮らすことを応援してきたと今でも自負している。それは、限られたサービスしかなかった措置時代から比べると、サービスの種類や支給決定量もはるかに増えてきた分、障害のある人が主体的に生きていくためには、どこでどんなふうに暮らしていきたいかということを明らかにしていく必要があった。そのことを踏まえた上で、委託相談支援事業者と行政が集まり、本人中心の相談支援を進めて行くべく知恵と力を重ねてきたことは、間違いないと思う。

2012年度、自立支援法下で、福祉サービス等利用計画作成の利用拡大等、相談支援が強化されたことも追い風となり、西宮市においても、相談支援体制の再編と強化を図るべく、窓口連絡会を中心に論議検討を進めてきた。

基幹相談支援センターとして目指すもの

論議検討の中で、見えてきた相談支援の課題は、以下のとおりである。

1.法人は1~2人の人員で相談数も多く内容も多岐にわたるため、丁寧に基本相談を受けるのには限界があった。

2.障害別の法人の違いもあり、いわゆる三障害に対応できる人材が育っていなかった。

3.1~2人の相談員が対応しているためスーパーバイズの機会もなかなか得られず、相談員の抱え込みや燃え尽き等が生まれやすい状況でもあった。

4.2012年度から相談支援事業強化という名の下、サービス等利用計画作成の利用拡大が始まり、2015年3月までに障害福祉サービス利用者全員にサービス等利用計画作成を行うことになり、本人中心の相談支援を強化していく必要があった。

このような状況に立ち向かっていくためにも基幹相談支援センターの設置は不可欠であり、本人中心の相談支援が展開できる相談支援専門員の力を重ねていく必要があると、窓口連絡会では結論づけた。

センター機能と事業内容

2013年4月より、障害者総合相談支援センターにしのみや(以下、センター)は、いわゆる基幹相談支援センターとしてスタートした。西宮市社会福祉協議会を受託法人として、これまで委託事業所で活躍してきた人や新たに採用された人が集まった。さらに西宮市は、六甲山系をはさみ南北に長いため、別法人にも受託をさせ、北部センター窓口として開設している。職員体制は、社協がセンター窓口として11人。北部センター窓口には2人の合わせて13人体制となっている。いずれも、社会福祉士や精神保健福祉士で相談支援専門員を配置している。

事業内容は、これまでの西宮市における相談支援の取り組みを評価しながら、相談支援体制の再構築を行なっていくために、A.個別相談支援、B.地域人材育成、C.地域関係支援、の3つの柱で事業を進めていく「障害者総合相談支援センターにしのみや」が生まれたのである(図1)。

図1 職員配置構成イメージ
図1 職員配置構成イメージ拡大図・テキスト

センターは、これまでの委託形態を一本化して、相談支援事業を行うという単純なものではない。むしろ、これまで委託相談支援ではできなかったことに重点を置いて、設置・展開していく必要がある。

A.個別相談支援(基本支援)は、基本相談の強化(アウトリーチ含む)を進めて、ワンストップの相談支援を確立していく。さらに、指定特定相談支援事業者が進める本人中心支援計画(福祉サービス等利用計画)が本人中心で進んでいくよう事業所支援を行なっていく。また、当事者のエンパワメントを高めていくための本人活動支援事業などがあげられる。

B.地域人材育成について、当面は相談支援専門員をはじめ、地域生活支援を担っていける人材を育成していく。具体的には、西宮市地域自立支援協議会相談支援部会を中心に、本人中心支援計画(福祉サービス等利用計画)の書式づくりを行なったり、計画相談の事例検討を行う中で、ピアグループスーパーバイズの機能を付加しようとしている。さらに、障害福祉サービス事業所に対して、相談支援の機能と役割や、個別支援計画の重要性などを考えていくセミナー等を開催している。

C.地域人材育成(CSW)については、幸いにして、受託法人が社会福祉協議会であるため、毎月開催されている地区民生・児童委員協議会に地区担当職員が参加している。そこで、センターの紹介などを地道に行うことで、民生・児童委員さんたちに、まず障害のある人のことを知ってもらい、いろいろな課題を地域の中で解決していけるような下地を作っていくことも行なっている。下地作りが進んでいく中で、民生・児童委員さんからの具体的な相談もつながってきている。また、地域自立支援協議会の論議からも障害関係以外の地域組織や住民にアプローチを進めていく必要もある。

以上のように、センターは、3つの機能が融合することにより、障害がある人もない人も共に暮らせる西宮になっていくはずである。

1年間の取り組みの現状と課題

基本相談や計画相談支援については、原則2人体制で進めてきた。これは、抱え込みの防止という意味もあるが、それぞれの職員がこれまで行なってきた仕事の進め方(ケースワーク力)を共有していきながら、複雑なケースにも対応していく目的もある。しかし一方で、職員の経験の違いや障害種別、それらを取り巻く環境の違いによって得手不得手もあったり、2人体制にすることで、ケース担当者としての責任性が薄くなってきている。また、相談員同士の日程調整や地区担当間での情報共有など、初動対応にも時間がかかったりと、課題も見えてきた。

下半期からは、基本相談は1人体制で進めながら、障害種別やケースの内容によって2人体制をとるなど柔軟に対応しながら、ケース担当の責任制をしっかり維持していくために、主担当・副担当の役割分担も行なった。

いずれにせよ、複数で関わるということは、ライブスーパービジョンやピアグループスーパービジョンを行なっていることであり、このことが職員間で意識づけられてきたかを確認していきたい。それは、職員同士が補完し合う、支え合う仕組みであり、職員のリフレームにもつながっていく。

計画相談支援の取り組みについては、西宮市の進捗率は、とても低迷な状況にある。指定特定相談支援事業所だけで進める計画相談ではなく、センターも必ず本人中心支援計画会議に関わるという丁寧すぎる形式(西宮方式)をとっているため、特に新規ケースについては、時間がかかりすぎたこともある。しかし、センターの職員も指定特定相談支援事業所の相談支援専門員もこの方式に慣れてきたこともあり、少しずつではあるが計画作成のスピードが上がりつつある。ただ、指定特定相談支援事業所が現在11か所という少なさもあるため、今後、西宮市と協力していきながら、増やしていく取り組みも求められている。

今後の取り組み

基幹相談支援センターとして明確なものがはっきりしないまま、1年間走ってきたが、基本相談の大切さや計画相談推進の難しさを実感してきた。また、センター職員の役割をさらに明確にしていく中で、相談支援専門員として、ソーシャルワーカーとしての力量も高めていく必要もある。それがなされなければ、人材育成を進めていくにも、その術を知ることすらできない。

また、虐待防止や権利擁護支援をセンターの大きな役割と位置づけながら、個別支援からまちづくり支援へと展開していくことが求められている。障害者権利条約が批准され、本当の意味でソーシャルインクルージョンを目指していくためには、基幹相談支援センターとして何ができるのか、ということも考えていく必要がある。基幹相談支援センターは走り始めたばかりだが、職員だけではなく、障害のある人も含めて、「どんな暮らしがしたいか」「どんなまちにしていきたいか」を想像し、実現していけるような役割を果たしていきたい(図2)。

図2 障害者総合相談支援センターにしのみや職員体制イメージ
図2 障害者総合相談支援センターにしのみや職員体制イメージ拡大図・テキスト

(たまきゆきのり 障害者総合相談支援センターにしのみやセンター長)