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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

佐賀県難病相談・支援センターの現状と課題

三原睦子

1 難病相談・支援センターについて

難病相談・支援センターは、地域で生活する難病患者・家族等の日常生活上における悩みや不安などの解消を図るとともに、患者等の持つさまざまなニーズに対応したきめ細かい相談や支援を通して、地域における患者等の支援対策を一層強化推進する。その拠点として、各都道府県に平成15年度より設置された。活動内容は電話や面談による相談、患者会活動、医療相談、就労支援などであり、難病相談・支援センターによってさまざまな取り組みが行われるようになった1)

佐賀県難病相談・支援センター(以下センター)は、平成16年9月に九州で初めて設置され、行政でも医療でもない第三者機関として、NPO法人佐賀県難病支援ネットワーク(以下法人)が県の指定管理を受けた。

センターは、休日に家族と来所できること、また仕事が終了した後も対応できるように、午前10時から午後7時まで土日祭日も開館している(月曜休館)。現在3人の相談員、1人の就労支援員、1人の事務局員の計5人が交代で勤務している。

2 法人の概要について

法人は、「多職種」で構成されており「難病患者が地域で尊厳を持って生きることができる社会の構築」に尽力し、「地域でどこに相談しようもなく孤立されている患者・家族等を助けたい」というミッションを掲げ、平成12年度より、患者中心の相談支援体制の重要性を尊重し「ピアサポート」を相談業務の柱とする相談事業、難病に関する原因の究明を推進する事業、知識の普及啓発事業、社会的支援事業、就労支援事業等、関係機関の連携構築体制の確立等の活動を行なっている。

また、支援する方の対象を難治性疾患130疾患だけに絞るのではなく、疾患や障害をもつことにより、さまざまな困難に陥っていらっしゃる方すべてを対象とし、法人だけでは解決できない課題については、関係機関との連携協力体制の中で、課題を共有しながら政策提案、協働提案型事業を展開し、患者・家族および障害者の生活の質の向上を目指している。

3 ピアサポートが中心となった相談支援のあり方

センターの相談支援員は、すべて研修を受けた患者家族で構成されている。突然治らない疾患と診断を受け、今後の不安や絶望感を抱えた患者にとって、同じ苦しみを味わい悩んできた仲間である当事者が相談を受けることは、相談する方にとっても大きな励ましにもつながる。ピアサポートを主眼とした相談体制は、当センターの大きな強みでもある。

相談支援員は、自立(自律)した疾患の当事者であり、相談員としての心構えが必要である。また、傾聴を通して相談者の自立を側面から支援し、各種制度に精通しておくことが必要である。しかし、同じ疾患で苦しんだ経験等はフラッシュバックすることもあるので、自分を客観的に観ることも必要である。患者さんが来所され、はじめは辛い気持ちを訴えておられたが、回を重ねることにより少しずつ気持ちを整理され、最終的には病気は治ることはないが、上手に付き合いながら人生を前向きに捉えていく方が増えている。

また、前向きに生きる当事者の姿を見た他の患者がこれまでの方向性を変える事例が多く見受けられ、そのことは相談員にとってとてもうれしい出来事でもある。さらに、相談員のスーパービジョンとして、月1回の臨床心理士による研修を開催している。

4 組織体制と法人の特色について

センターは、相談ニーズを分析し地域の課題を明確にする。

法人は、課題の解決のための施策提言、協働型提案事業等を行政や企業や他のNPO等と連携して施策に反映する。そのことにより、地域の難病患者等の生活の質の向上に関与でき法人が管理運営をする点で効果的であると考える(図)。

図 NPO法人佐賀県難病支援ネットワークおよび相談支援センターの活動内容
図 NPO法人佐賀県難病支援ネットワークおよび相談支援センターの活動内容拡大図・テキスト

5 相談件数および相談の内容等について

初年度の相談件数300件に対し、平成25年度は7,332件と大幅に増加している状況である(1人/日)。

相談内容は、設立当初から治ることのない疾患への不安等心理的な問題であったが、最近は、就労支援に関する相談が全体の約3割を占めるようになった。その背景には、就労支援関係機関等の連携体制が整っていることがあげられる。

佐賀県では、県単独事業である「レッツチャレンジ雇用事業」(*1)や、県民協働課が行うNPO法人への支援策で一般企業に働く人が立ち上げた「難病サポーターズクラブ事業」(*2)が展開され、就労支援の成功事例等の積み上げができている。

6 難病新法に伴う諸問題について

(1)障害者総合支援法に関する課題

障害者総合支援法における難病患者等への障害福祉サービスの適用状況は、2013年8月実績で398人に留(とど)まっている。使用例があまりなかった「難病患者等居宅生活支援事業」を横にスライドして、障害者総合支援法として2013年4月から施行されたが、認定するのは市町の窓口である。

そこで、県や市町の窓口で、もっと広報活動を行うべきであると考える。

(2)難病の定義について

新しく難病の定義とされているものは、発病の機構が明らかでなく、治療法が確立していない希少な疾病であって長期の療養を必要とするものであり、患者数等による限定は行わず、他の施策体系が樹立されていない疾患を幅広く対象とし調査研究・患者支援を推進する。

難病のうち患者数が本邦において一定の人数に達しないこと(人口の0.1%程度以下)、かつ客観的な診断基準が確立していることの要件を満たすものを患者の置かれている状況から見て、良質かつ適切な医療の確保を図る必要が高いものとして、厚生科学審議会(第三者的な委員会)の意見を聞いて厚生労働大臣が指定したものを指定難病として医療費助成の対象とする法案が4月22日の衆議院本会議に提出され全会一致で可決され、参議院では5月13日から審議入りをする予定である。

公費負担となる指定難病は、現在の56疾患から約300疾患に広がる予定である。しかし、この300疾患から洩れた方への支援策や、小児慢性特定疾患の20歳以上の方に対する支援策がないところに大きな課題を残していると考える。

(3)センターの周知と人の配置および予算の確保について

難病はいつだれが発症してもおかしくない。突然に疾患を発症したときに、相談できる場所があることを知らない方々が圧倒的に多い。実際に、佐賀県においても「今までそのようなセンターがあることさえ知らなかった」とか「もっと早く知っておけば制度等を使うことができたのに」といった声が聴かれる。

国の難病相談・支援センターの予算は前年度(平成24年度)の倍になっているが、裁量的経費となっているため県ごとで格差が生じている。そこで、難病相談・支援センターの予算については、裁量的経費ではなく義務的経費として十分に予算措置を講じていただきたい。相談員の人数や質により、現場で最も困るのは患者自身であるからだ。

国が示した「希少・難治性疾患は遺伝子レベルの変異が一因であることが少なくなく、人類の多様性の中で、一定の割合発生することが必然」であり、「希少・難治性疾患の患者・家族を我が国の社会が包含し、支援していくことが、これからの成熟した我が国の社会にとってふさわしい」2)ことを基本的な認識とし、人間として尊厳を持って生きていくことのできる社会を望まずにはいられない。

(みはらむつこ 佐賀県難病相談・支援センター所長)


【注釈】

(*1)佐賀県で就労の意欲があってもさまざまな要因により就労に至っていない障害者、難病患者、DV被害者等について、就労先の開拓とあわせて、雇用されながら研修を受けられる制度を活用することにより社会的弱者の就労の促進を図る。その際に事業に要する経費を負担する。

(*2)難病のある人にもやさしい職場と地域づくりを目指して、難病患者が地域で配慮を受けながら就労ができる地域づくりのために、難病の普及啓発と難病患者を雇用している企業のイメージアップのために活動するグループで、フェイスブックやホームページにて情報発信する。ワールドカフェを開催しながら企業と患者を結びつける活動を行なっている。現在加入企業59社、個人会員223人。

【参考文献】

1)難病情報センターHP掲載(http://www.nanbyou.or.jp)(難病相談・支援センター事業)

2)厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会(平成23年12月1日)