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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

いきいきとはじけて、変・身・心!!
表現することはおもしろい!♪

西口敏江

1 社会福祉法人育夢(はぐくむ)

大阪府豊中市にある社会福祉法人育夢が運営する障害福祉サービス事業生活介護「糸をかし」では、利用者が主体となり結成された人形芝居「ぬくぬく座」や、ちんどん「てんてこまい座」そして、アフリカン楽器による即興音楽団など、表現活動を中心に日中活動を展開しています。

法人の運営理念は、一人ひとりの夢や欲求から出発するニーズにきめ細かく対応し、表現活動をプログラムの中心とし、内外問わず広く人材を求め、地域社会と交流ができる開かれた法人であることを掲げています。

平成7年に無認可で設立した「糸をかし」は、社会福祉法人格を取得し、平成27年に「ぬくぬく座」と共に20周年を迎えます。

2 「ぬくぬく座」設立の経緯

平成10年に奈良「たんぽぽの家」で人形劇セラピーの勉強会が開催され、関西のプロ劇人や施設、学校関係者が集い、人形劇の持つ可能性と障害者の人形劇活動への可能性を探る機会がありました。たんぽぽの家では人形劇団「ばばい」が結成され、身体障害者の演者による語りと、テーブルに置かれた人形を車いすに座りながら移動して芝居を展開する障害特質に寄り添った人形劇が上演されました。

また、すでに人形劇団を結成して公演活動を実践していた精神障害者による「やなぎ」の取り組みは、服薬による体調不良などを抱えた障害当事者にとって表現することが「自信の回復」につながり、日常生活の意欲向上や「健康の回復」につながったという成果発表もありました。

この会に参加していた、北摂に活動拠点を置くプロ劇人「せっぽく座」(現在の育夢理事長)と「ねぎぼうずSAYO」と共にセラピー(治療や療法)ではなく、障害者自らが活動の主体者となって地域社会に積極的に関わっていくことを目指し「ぬくぬく座」の活動を本格的に開始しました。

3 人形芝居「ぬくぬく座」の活動

「糸をかし」は、利用者23人(男子8人・女子15人)が、職員や外部講師(人形劇・即興音楽・リズム体操・書道・アロマ)と共に日々にぎやかに活動を展開しています。

「糸をかし」の由来は、一人ひとりが味わい深い個性を発揮し、さまざまな出会いを紡いでいきたい。そして、施設に閉じこもることなく、自らが切り開き、結ぶ活動を目指したいとの思いを込めて名付けました。

「ぬくぬく座」は、座員一人ひとりが表現することを楽しみながら人形を操り、公演料をいただき、仕事として取り組んでいます。保育園や幼稚園、小学校、そして卒園した福祉施設や特別支援学校からの公演依頼は、日々の練習の頑張りにもなり、その他の活動にも意欲的に取り組む原動力になっています。

当初は、生活全体が受動的になりがちな知的障害者にとって、多くの観客の前で演じることは緊張と不安の連続で「楽しみ」どころではなく、逃げ出してしまいたい経験だったと思います。施設職員だけでは、活動を進めていくには限界があり、プロの人形劇人だけでは、さまざまな障害特質をもつ人たちへの指導は行き詰まっていたと思います。両者がそれぞれの立場で演者と向き合い、個性を生かした脚本作りや演じやすい人形作りの工夫が、負担なく持ち味を生かす表現手段の確立となりました。

演目は、ひょっとしてシリーズ「白雪姫!?」「桃太郎!?」「花咲かじいさん!?」等など。馴染みの昔話をアレンジして脚本を作ります。自閉症の人が狭い舞台の中でも演技ができるように、大好きなうさぎを桃太郎の家来として登場させ、花咲かじいさんでは、消防署からの防火劇の依頼があり、元気の良い火消し組が登場します。白雪姫の結末は、毒りんごを食べた妃がカエルになります。

一人ひとりが主役であり、楽しく演じる工夫に時間が費やされます。人形は、ペットボトルを胴体にして軽くし、自分の両手が使え、自然な動きができるように独自の形を生み出しました。台本を読める座員は少なく、配役を決めて立ち稽古の中から生まれる台詞や動きを大事にし、公演会場の後ろまで声が届くように、毎日身体トレーニングや発声練習を重ねています。

小学校での交流学習では、観劇後、生徒から感想文をいただきますが「大きな声に驚いた。練習をいっぱいしたことが伝わり、自分も発表会に向けて頑張る」「突然大きな声を出したり、走り出したりする友達を怖いと思っていたけど理由があることが解り、もう少し関心を持とうと思った」など、障害理解の架け橋になっていると実感しています。座員にとっても舞台を真剣に取り組むことの大切さを学ぶ良い機会となっています。

4 「楽しいが輝く」理由

人形劇をとおして表現活動が大好きという気持ちと、仲間と一緒に活動している安心感と、一人ひとりの障害に寄り添った指導者との出会いがあるからこそ楽しく、意欲をもって取り組めるのです。今まで障害があるがゆえに失われた経験は自信の喪失となり、受動的にならざるを得なった座員たちは、いきいきと自らが表現者となって多くの人たちに感動を与える人間に成長していきます。

ちんどん「てんてこまい座」の活動は、道行く人を笑顔にし、表現者である自分と友好的な関係を直接、受発信できる手段となっています。

書道は、これまで書きなぐりの点や線が「文字」となる楽しさを身体いっぱいで経験することで制作意欲が高まります。

アフリカン楽器による即興音楽は、「音」に対する個々の思いが、動きや声、自身のリズムになって表出されます。心が自然と解放されエネルギーが爆発します。騒音が、ひとつの音楽を作り出し、小さな合図で一瞬に静寂となり達成感に満ち溢れます。

5 発表と評価が活動を深化させる

発表の機会が増え、独自の芸術・文化活動として評価されることで、活動そのものの質が深まっていくことを実感しています。

これまでに、ぬくぬく座はアマチュア人形劇団による「吹田人形劇コンクール」に出場して3回の敢闘賞を受賞しました。やらされている表現から、主体的に演者が楽しんで演じていることが評価され、人形劇に取り組む姿勢が大きく成長しました。

また、ビッグ・アイ(国際障害者交流センター)アートプロジェクトに作品を応募し、デザイン部門に入賞。平成25年度は書道部門で2作品が入賞。柿沼康二審査員賞受賞の利用者は、文字を転記し書き続けるこだわりの行為は、意味を持って書く楽しみに変わり家族の評価も変化しました。

平成12年から運営に積極的に関わっている「素のままフェスタ」は、市内外の障害者パフォーマーとプロのゴスペルやダンス、楽団とのコラボステージとして約800人が来場し、観客でいた障害者が出演者として舞台に立ち、社会参加の機会拡大となっています。今年も、ちんどん「てんこまい座」はオープニングを飾り、表現する楽しさを身体いっぱいに満喫します。

いきいきとはじけて、変・身・心!!

(にしぐちとしえ 社会福祉法人 育夢 障害福祉サービス事業所 生活介護「糸をかし」代表)