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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

ワールドナウ

障害者権利条約第7回締約国会議
日本は初めて締約国として参加

長瀬修

1 はじめに

「グローバルなパーティ」と障害者権利条約締約国会議を呼んだのは、WHOから学究の世界に戻ったトム・シェークスピア(英国イーストアングリア大学)である。言いえて妙である。国際的な障害分野の政策課題の共有のために、ネットワーキング・情報交換の場として締約国会議が果たしている役割は非常に大きいからである。

その締約国会議の第7会期が2014年6月10日から12日までニューヨークの国連本部において開催された。本年1月の批准を受けて、日本政府が締約国としては初めての参加を行なったほか、日本の障害者組織も積極的な参加を行い、大きな節目となった。

本条約の国際的実施に大きな役割を果たしている締約国会議の実質的議題は、障害者権利委員会委員の選挙(偶数年に実施)と、条約の実施に関する事項に分けられる。後者は、さらに「一般討論」と呼ばれる締約国を中心とする条約の実施状況報告と、重要なテーマに関するラウンドテーブル等に分けられる。

またサイドイベントと呼ばれる市民社会組織や障害者組織、国際機関が開催する関連行事が41も開催され、締約国会議の前後のほか、会議期間中も一部は同時進行で進められた。締約国会議の前日9日(月)と翌日の13日(金)もサイドイベントが開かれ、丸々1週間の一大イベントである。私にとっては5年連続の参加となった。

2 本年の中心的テーマ

(1)障害と開発

昨年に引き続いて、このテーマは大きく取り上げられた。正式な議題は「障害者権利条約の規定の2016年以降の開発アジェンダへの盛り込み」である。

このテーマについては昨年9月に「障害と開発に関するハイレベル会合」が国連総会の一部として開催され、同会合の成果文書は、2015年までの現在のミレニアム開発目標(MDGs)に代わる、2016年以降の開発課題(post 2015 development agenda)において、障害者に「十分に考慮することの重要性を強く主張」した(注)

国際社会は、2016年以降に向けて、環境と開発を統合する「持続可能な開発目標」(SDGs)策定を、オープンワーキンググループ(OWG)を通じて行なっている。同OWGが6月2日に公表したゼロドラフトでは、貧困の撲滅をはじめとする17の開発目標が示され、障害への言及も多くなされていた。締約国会議後の6月30日に示されていたゼロドラフト第1次修正案では、障害への言及は減ったが、教育や雇用、居住、データ等重要な目標において障害と障害者への具体的な言及が含まれている。これは、ハイレベル会合と今回の締約国会議ではっきりと示された障害分野からの声を受けた動きである。

なお、国際社会でのこうした障害の明確な位置づけに対応する国内の動きとして、政府開発援助大綱(ODA大綱)の見直しがある。同大綱に「障害者」が復活することは、改正障害者基本法の基本原則として国際的協調が盛り込まれ、国際協力条項が新設された日本において、障害者権利条約の国際的な実施に向けて不可欠である。

(2)国内的実施・監視、障害青少年

「国内における実施と監視」も障害と開発同様、重要なテーマとしてラウンドテーブルと呼ばれるテーマセッションの議題として取り上げられた。

このテーマに直接関連して、条約の第33条1項は「中央連絡先を政府内に指定する」とし、2項は「この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する」としている。しかし、この「中央連絡先」と「枠組み」の関係は締約国にとって分かりづらさがあることも、このテーマが取り上げられた一因である。

もう一つの重要テーマである障害青少年は非公式パネルとして取り上げられ、その政策決定過程への参加が求められた。国内的実施・監視機関の独立性とともに、障害青少年の参加について、現状のままでは、将来の審査で障害者権利委員会から日本へ懸念を示されることは確実と言える。

3 障害者権利委員会委員選挙

締約国の報告の審査等、国際的モニタリングの中心的機関である障害者権利委員会は、4年の任期を持つ、18人の個人の資格で職務を遂行する専門家から構成されている。2008年に第1回締約国会議が開催され、そこで第1回の選挙が行われたため、偶数年が選挙の年となっている。今年もそうだが、選挙の年は、どうしてもまず選挙に大きな関心が寄せられる。

年末で任期切れの9人の選挙が実施され、第1回投票でドイツ(以下*は再選)、韓国*、デンマーク*、中国、セルビア*、リトアニア、コロンビア、モーリシャス(得票順)、第2回投票でナイジェリアの専門家が当選した。

落選したのは、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタール、モーリタニア、ブルキナファソ、ケニア、ザンビア、エルサルバドル、ニジェール、アルバニア、エチオピア、ポーランドの12人の候補者である。

今回選出された9人のうち女性は1人だった。残りの9人では、幸いなことに5人が女性だが、それでも来年1月から男女比は2対1である。

4 日本関連の動き

日本は、締約国としては初めてのステートメント(発言)を国連大使吉川元偉が行なった。冒頭で日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長である藤井克徳と内閣府障害者政策委員会の前委員長である石川准の二人の市民社会の代表の政府代表団参加に触れ、その後、1.市民社会の役割、2.国際協力の重要性、3.障害と災害の3点について述べた。締めくくりで、障害者権利委員会に候補者を擁立する意志を表明したことは心強い。来年の締約国会議には、日本の候補者に参加してほしい。

全体として、批准国として最初の発言にふさわしいシャープな内容だった。なお、藤井は障害と開発のラウンドテーブルで東日本大震災について、石川は国内的実施・監視のラウンドテーブルにおいて発言を行なった。

JDFは、10日の昼というベストの時間帯に、障害者権利条約の批准と実施における市民社会の参画をテーマとして、日本政府とポーランド政府の共催を得て、サイドイベントを開催した。140人以上の多くの出席者を得て、非常に充実した議論が行われた。

5 終わりに

個人的なことで恐縮だが、今年の締約国会議には出席する予定はなかった。理事を務めているインクルージョンインターナショナル(国際育成会連盟)の世界会議が同日程でケニアにおいて開催予定だったためである。しかし、会議はアルカイダ系組織のテロによって、5月下旬に中止に追い込まれてしまった。20代に3年間、青年海外協力隊員として過ごした国を再訪する機会を失い、代わりに締約国会議に出席できることになり、複雑な思いがあった。

そのケニアの国連大使であるマチャリア・カマウが、条約事務局チーフの伊東亜紀子に支えられ、締約国会議の議長を務めた。カマウは、条約交渉で議長を務めたニュージーランドのドン・マッケイを彷彿とさせる、対話型の議長であり、議事を進める手腕はさすがだった。カマウが、前述のOWGの共同議長を務めていることは、開発分野との連携という意味でありがたい。

締約国会議に2011年から署名国として参加してきた日本が今回から正式に参加した。「締約国」の英語は「ステート・パーティ」(State Party)である。「パーティ」には仲間という意味もある。批准し、締約国となった日本は、他の締約国と共に障害者権利条約の実施という頂上を目指すパーティのメンバーとなったのである。(敬称略)

(ながせおさむ 立命館大学客員教授)


*本研究はJSPS科研費25380717、24223002の助成を受けたものである。

(注)英語の「post 2015」は日本語では「2016年より後」を意味し、日本の開発分野の市民社会組織が「2016年以降の開発目標」という言い方をしているため「2016年以降」という言葉を本稿では使用している。