音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

障害者権利条約「言葉」考

「障害者の能力及び貢献」

森壮也

今回、取り上げるのは「障害者の能力及び貢献」である。はて、そんな言葉あったかと思う向きもおられるかもしれない。しかし、確かに条文の第8条にこうある。

第8条 意識の向上

1 締約国は、次のことのための即時の、効果的なかつ適当な措置をとることを約束する。

(中略)

(c) 障害者の能力及び貢献に関する意識を向上させること。

(中略)

iii 障害者の技能、長所及び能力並びに職場及び労働市場に対する障害者の貢献についての認識を促進すること。(以上,政府公定訳)

この第8条は、障害者のポジティブなイメージを広める政府の責任について述べている。社会調査による障害者イメージの把握と調査結果に基づいた適切な政策を政府が取ることが例として考えられる。

権利条約の国連専門家会議の一連の議論をレビューしてみると、障害者の持つ能力や社会的貢献についての一般市民へのメディアを通じた啓蒙が想定されている。

ここで課題となるのは、障害者に対するネガティブなステレオ・タイプ、偏見、有害な行為である。障害者について、社会の重荷でしかないという見方がネガティブの対極にあるとしたら、その反対の、彼らの能力を引き出して社会に貢献してもらうことこそ、社会が果たすべき責務であるという考え方である。

たとえば、すでに日本に先立って権利条約に基づいた取り組みを行なっていることで知られるニュージーランドでは、政府が果たすべき教育・啓蒙について、同国の実践をウェブで紹介している1)。こうした政府の責務は、障害者権利条約のみでなく他の子どもの権利条約(CRC)や女子差別撤廃条約(CEDAW)でも「適切な措置」として政府の責務に位置づけられている。

実は、この第8条は、権利条約の元となったアメリカ障害者法(ADA)よりも先んじている2)。ADAには、啓蒙について国家の責務とする条項はない。「能力及び貢献」という文言もない。米国の障害者法が権利の付与を基盤に民間レベルの努力に多くを期待する内容となっているのに対して、政府の責務をも規定する国連の権利条約の面目躍如たる部分ともいえる。

(もりそうや JETROアジア経済研究所主任調査研究員)


1)http://www.odi.govt.nz/documents/convention/first-report-on-implementation/article-8.html

2)Doyle, Elisabeth Doyle, 2008, The UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities and U.S. Law: An Overview of Differences, Powers Pyles Sutter & Verville PC (http://www.c-c-d.org/fichiers/CRPD-and-US-Law(Revised9-26-2008).pdf)