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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

ほんの森

JDブックレット1
私たち抜きに私たちのことを決めないで
―障害者権利条約の軌跡と本質

藤井克徳著 日本障害者協議会編

評者 半田一登

やどかり出版
〒337-0026
さいたま市見沼区染谷1177-4
本体価格926円+税
TEL 048-680-1891
FAX 048-680-1894

WHOでは、1981年にリハビリテーションを定義づけしており、その中で「障害者の社会的統合を促す全体として、環境や社会に手を加えることを目的とする。」と記されています。日本のリハビリテーションの草創期には、第3の医療としての理念を前面に押し出す形で、このWHOの定義を具現化することに邁進しました。ところが、本邦の急激な高齢社会の到来によって、高齢者問題が大きく浮上し、リハビリテーション関係者の中にも障害者問題がやや意識の外になってきたように感じており、環境や社会に手を加えるという本来意識の欠如が個人にも組織にもみられます。

2020年には、東京でオリンピックとパラリンピックが開催されますが、パラリンピック関係者から「選手がいない」という悲痛な叫びが聞こえてきます。日本の社会環境の整備で障害者が減っていることは事実ですが、一方では、障害者の方々の社会参加の困難性が高まった結果ではと思っています。リハビリテーション専門職の一人として、選手がいないというこの事態には深く反省すべき点があります。

この書の冒頭に、「2014年1月に日本は141番目の障害者権利条約締約国となりました」ということが書かれています。「なんで」「ようやく」「それでもよかった」等々が浮かんできます。そして筆者藤井氏は、「今を生きる障害のある者にとって、過去と近未来を見渡してみて、障害者権利条約の誕生と日本国としての批准ほど大きな出来事はない」と記しています。

さらに、この書では批准までの経過等を克明に説明しており、障害者問題の過酷さを知ることができます。そして、これまでの経過や考え方を今一度振り返ることによって、障害者権利条約が実効性のあるものになっていくと信じています。

障害者の近くに位置すべきリハビリテーション関係者は、この書によって、活動の歴史と苦労を知ること、その上で、一人ひとりの障害者や高齢者の自立した生活のために、身近な所の手を加えるべき環境や社会の現状を知り、一つ一つ解決することが重要です。その意味では、後段部分の用語解説や資料を含めて、リハビリテーション関連職種として必読に値すると思います。特に、教育段階でのこの書の活用は、学生たちの方向性を決定的にするはずです。

この書が日本における障害者や、その周辺関係者の新たなスタートの記念誌として活用されることを期待しております。

(はんだかずと (公社)日本理学療法士協会会長)