「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号
フォーラム2014
第1回 ISPO GEM(世界教育者会議)開催報告
佐々木伸
去る6月25・26・27日の3日間に渡り、神戸ポートアイランドにあるニチイ学館、および神戸医療福祉専門学校三田校において、ISPO(International Society for Prosthetics and Orthotics・国際義肢装具学会)主催によるGEM(General Educators Meeting)が開催された。会議の詳細報告の前に、ISPOについて簡単に説明したい。
ISPOとは、義肢装具、補助器具等により利益を得る人々のADL向上を目的として設立された、医療専門業種間(義肢装具士、整形外科医、リハ医師、理学療法士、作業療法士、整形外科製作者、看護師、リハ工学士等)の集まりである。設立から40年を過ぎた2014年現在、世界60か国を超える国に支部を持ち、3,300人以上の会員数を要するグローバルな団体として認知されている。その活動は多岐に渡り、2年に1回の世界大会開催のほかに、各国支部運営による会議・セミナー等のサポート、WHO(World Health Organization)との共同による補助器具等への啓蒙活動、カテゴリー制による各国の義肢装具教育の標準化等が挙げられる。
GEMの構想自体は、ISPOの中で長い間議論になってはいたが、諸々の事情により実現することはなかった。しかし、さまざまな経緯を経て、今年第1回の記念すべき大会が日本・神戸で開催されたことは、非常に喜ばしいことである。
開催前の準備段階では予算、会場等の関係で、参加者は各国の大学、専門学校等に勤務する義肢装具教育関係者100人までに限定していた(相当数の教育関係者以外の参加希望をお断りした)。にもかかわらず、蓋を開けてみれば、世界32か国から130人あまりの参加者を数え、会場収容人数ぎりぎりのところまでの盛況になった。このGEMに対する義肢装具業界からの関心の高さが伺える。ちなみに3日間の会議はすべて日本語通訳なしの英語で行われ、日本の大学・専門学校から18人の教員が参加した。
3日間の会議の流れとしては、その日の分科会(Break out session)に関連する内容についての各プレゼンターからの講義(1人約30分から45分程度)、6~8つのグループに分かれての分科会(約45分)、そして、分科会代表者による各グループの協議事項の発表(1グループにつき約15分程度)が繰り返し行われた。
6月25日(水)
内容 | 形式 | 演者 |
---|---|---|
教育の枠組みについて | 講義 | ダローサ博士(アメリカ) |
人はどのように学ぶのか 1/2 | 講義 | ダローサ博士(アメリカ) |
適切な能力に達するためのカリキュラムアプローチ | 講義 | ソフィー女史(ノルウェー) ジェイソン氏(カナダ)他 |
適切な能力に達するためのカリキュラムアプローチ | 分科会発表 | |
WHOの標準化・ガイドラインについて | 講義 | チャパール氏(スイス) |
6月26日(木)
内容 | 形式 | 演者 |
---|---|---|
義肢装具についての標準化・ガイドラインについて | 講義 | カーソン氏(アイルランド) ヘレン女史(カナダ) |
学生の評価―ニーズ、ゴールと目的について | 講義 | アンソニー氏(オーストラリア) ゴードン氏(カナダ)他 |
学生の評価―ニーズ、ゴールと目的について | 分科会発表 |
6月27日(金)
内容 | 形式 | 演者 |
---|---|---|
指導方法―指導方法の種類、適切な指導教材の選び方・作成方法について | 講義 | ネロリン女史(スウェーデン) ウォン博士(香港)他 |
教授方法について | 講義 | ダローサ博士(アメリカ) |
運動技能の教授方法 | 講義 | シサリー女史(カンボジア) |
教授方法について | 分科会発表 | |
義肢装具士養成校間の協調 | 講義 | クワン氏(香港) |
同時セッション―将来的な学校間の協調、地域間におけるコーディネート | 分科会発表 |
表に示すとおり、3日間を通して(義肢装具に限らない)教育とは何かについて、各国のその道における経験豊富な講師陣たちによって講義が行われた。特に、初日から数えて最多の3回の講義をしてくださったアメリカのダローサ博士は、外科医でありながら教育学の博士も保有し、ノースウェスタン大学で30年以上も教鞭を執っている世界的にも有名な女性である。著者は彼女の講義を拝聴するのは初めてであったが、英語での講義内容もさることながら、教育者としての話し方や立ち振る舞い等すべてに圧倒され、同じ教育者のはしくれとしてますます自己研鑽しなければ、と思わされるほど衝撃的な講義であった。
参加者のほとんどが教育機関に勤務する教師ということもあり、分科会による協議では与えられた議題に関して活発な議論、発表がなされた。前述のように、分科会の前に議題に関して、経験豊富な各国のプレゼンターからの予備知識としての講義を受けられたことにより、参加者たちに議論の的を明確に示したということも白熱した議論の一因であったと考えられる。
3日間のGEM期間中、参加者たちには、会議だけではなく歓迎レセプション、神戸医療福祉専門学校三田校義肢装具士科の学生たちによる日本文化の紹介、澤村誠志校長による夕食会等、日本の独特のおもてなしにも触れていただくことができた。
会議終了後には、Post survey(事後調査)ということで、参加者すべてを対象として今回のGEMに対するアンケートが実施され、合計59人より回答を得た。参加者の満足度を測る設問では、59人中57人の参加者が今回のGEMは非常に有益で価値があると回答した(96.6%)。以下に、自由回答で得たいくつかのコメントを記す。
・どのようにプレゼンテーションを準備したらよいのか、論文を書いたらよいのかに関して、たくさんの知識を得ることができた。今後も他の教育者の方々と連絡を取り合いたい。
・全体的に見て、私が期待していたよりも有益で価値がある会議であった。ただ、分科会に関しては(話し合いではなく)より実践的なものを期待していた。
・参加者のGEMに対する意気込みがすごかった。
・とても有意義な会議で、教育に関してより深いレベルで学ぶことができた。
・できれば各校のカリキュラムについて共有したい。
・分科会に関して、各会の中で進行・書記等をあらかじめ決めておけばよりスムーズに進行できたと思う。
・分科会では、言葉の壁(英語のレベル)によって議論に参加できない参加者たちがいた。同レベルの人々による分科会の方がよいのではないか。
いくつかの改善点は指摘されたものの、今回のGEMに関してはほぼ満足したと考えられ、成功裏に終わったと言っても差し支えないであろう。
以上、第1回ISPO GEM(世界教育者会議)の開催報告をした。今回のGEM成功は、ひとえにISPO日本支部(陳隆明会長)、日本義肢装具連絡者協議会(中川三吉会長)はじめ関係各位の多大なるご尽力の賜物である。この場をお借りして、深くお礼を申し上げたい。
また、末筆になるが、今回の第1回GEMの日本招致に向けて数年前から準備を重ねて来られながら、この場にいることが叶わなかった亡き内田充彦先生に今回のGEMが無事開催されたことを報告し、このレポートを締めくくりたい。
(ささきしん 神戸医療福祉専門学校三田校義肢装具士科専任教員)