音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

障害者権利条約「言葉」考

「法的能力の行使」

池原毅和

「法的能力の行使」という言葉は、障害者権利条約第12条3項の「法的能力の行使に当たって必要とする支援」というところと、4項の「法的能力の行使に関連する全ての措置」というところで使われている用語である。法的能力(legal capacity)が権利能力(権利や義務の主体となることができる資格)と行為能力(自分だけの判断で行なった契約などが有効なものと認められる資格)のいずれを意味するのかについては議論がある。

ところで、先行する国際人権条約である女子差別撤廃条約第15条2項は「締約国は、女子に対し、民事に関して男子と同一の法的能力を与えるものとし、また、この能力を行使する同一の機会を与える。特に、締約国は、契約を締結し及び財産を管理することにつき女子に対して男子と平等の権利を与えるものとし、裁判所における手続のすべての段階において女子を男子と平等に取り扱う。」と定めている。

日本でも戦前の民法では女性は結婚すると行為能力が制限され、妻は自分だけの判断で有効な契約をすることができず、準禁治産者(現在の被保佐に相当)に対するのと同じように妻が「勝手にした」契約を夫は取り消すことができるものとされていた。女子差別撤廃条約15条2項が、いまだに世界に存在する日本の戦前民法のような差別を撤廃させるために定められていることは明らかであり、15条2項が「特に、締約国は、契約を締結し及び財産を管理することにつき女子に対して男子と平等の権利を与える」と強調していることからも「男子と同一の法的能力」というのは、権利能力の平等と同時に行為能力の平等性に力点を置いた規定であることがわかる。国際人権条約の同じ用語は同じ意味に解釈すべきであるから、障害者権利条約の定める法的能力も少なくとも行為能力を含むと解釈しなければならない。

障害者権利条約が法的能力の平等性を定める前提には能力についての社会モデルがある。人の判断は社会のネットワークに支えられているが、障害のある人はさまざまな社会的障壁によって社会参加を阻まれてきた。そのために、障害のある人は判断を支える社会的ネットワークから疎外されており、結果として、その判断がバランスを失ったり、熟慮する機会がないまま即断してしまうことが起こることがある。障害者権利条約が法的能力行使の支援策を求めるのは、社会的に排除されてこなければ持てていたはずの判断を支える社会的ネットワークを再構築することを求めるものである。しかし、支援は関わり方やその程度によっては本人の意向を踏みにじってしまう危険もある。

障害者権利条約第12条4項は、それに備えて本人の意思・選好の尊重、利益相反の禁止、必要度に比例した支援の原則、必要最小限の期間に限定した介入の原則、独立公平な機関の定期審査などの濫用防止原則を定めている。

(いけはらよしかず 東京アドヴォカシー法律事務所所長)