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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

3.11復興に向かって私たちは、今

支援者として思うこと

田脇博子

私は聴覚障害者である。補聴器を使って音をとらえられるものの、言葉として聞き取ることができない。失聴は1歳の誕生日を挟(はさ)んでの3日間の高熱が原因と言われている。発音は、母親と二人三脚の毎日の訓練でできるようになるも、慣れている人でないと言葉として聞き取っていただくことは難しい。成人後に身に付けた手話が主たるコミュニケーション手段となっている。

東日本大震災が起こった時、私は聴覚障害者相談員として働いていた。仙南保健福祉事務所の部屋を借りて開催していた巡回相談会を終えようとしている時に大震災に見舞われた。大津波が沿岸地域にきているとは知らずに、ようやくたどり着いた自宅で見上げた夜空が今までになくとても綺麗(きれい)で、不安に駆られていた私は涙した。

使っていたPHSやあらゆる通信手段が断たれ、1週間、職場に行けずにいた。1週間後ようやく戻ってきた子どもの顔を見て、意を決し、翌日職場に行くも、自分の居場所がなかった。そんな心情を言える状況ではないことは百も承知である。

まず、職場で起きていることを視覚的に必死に捉えようとした。当事者団体の社団法人宮城県ろうあ協会(現在:(一社)宮城県聴覚障害者協会)と全国手話通訳問題研究会宮城県支部(現在:宮城県手話通訳問題研究会)が中心となって東日本大震災聴覚障害者救援宮城本部を立ち上げ、安否の確認等に追われていた。私は相談員としてどう動けばいいのか分からずにいた。本部と連携しながら支援活動に携わっていくことになった。

交通事情から、毎晩本部の会議に参加できず、やるせなさがあった私の気持ちを和らげたのは、全日本ろうあ連盟などが中心となって立ち上げた、東日本大震災救援中央本部の医療・メンタル班の来県だった。

手話ができ、聴覚障害の特性を知る社会福祉士、精神保健福祉士、看護師等と共に、沿岸地域を中心にアセスメント調査を実施した。結果、多くの人がケアを必要としていることが分かった。平時のコミュニケーション保障が不十分だったことが浮き彫りにされた感があった。調査結果を基に2011年7月、被災聴覚障害者相談支援事業「聴覚サポートなかま」が始動した。現地コーディネーターには1年間仙台に常駐していただき、相談支援のために県外からソーシャルワーカーが派遣された。

震災前から相談支援について模索していた私にとっては大きな学びの機会となり、現地コーディネーターには折れそうになる私を叱咤していただいた。私たち支援者も被災者だったのである。本部に詰めていた聴者は、他県からの応援の手話通訳者に助けられたと聞く。

現地コーディネーターや派遣ソーシャルワーカーの多数は聴覚障害者であることを特筆しておく。

被災された聴覚障害者への手厚い支援のために、2011年12月に宮城県がみやぎ被災聴覚障害者情報支援センターを開設した。その4か月後、筆者も相談員として入職し、現在は、全国で49番目の聴覚障害者情報提供施設として2015年1月30日に開所した「宮城県聴覚障害者情報センター」で働いている。愛称の「みみサポみやぎ」は前身のセンターから変わっていない。

聴覚障害と言っても、手話を主たるコミュニケーションとする人たちだけではない。手話を知らない聴覚障害者が多い。発音は聴者と何ら変わりがないために気づかれにくいうえに、自ら聴覚障害であることを伝えても信じてもらえないために、情報を得にくい。コミュニケーションが成り立たず、交流を避けてしまう人たちがいる。

大震災後は口コミが効いたともいう。いわゆる井戸端会議であるが、私たちにはなかなか入り難いものがある。ましてあの未曾有の大震災、大変混乱しているところに、「(音声の内容を)教えてください」「助けてください」とお願いができただろうか。「悪いから遠慮した。我慢した」という多くの声を聴いた。お互いほんの少しの勇気や気持ちがあればまた違っていただろうか。声をなかなかあげられずにいる人たちがではなく、できる人に行動していただければと私は思う。そのように声掛けをしてきている。

「みみサポみやぎ」では、情報発信やサロンや出前講座等を実施している。情報発信では、ホームページに毎週手話動画を貼り、文字情報を入れている。また、「みみサポ通信」を毎月発行している。

サロンは「学習」「相談」「交流」を目的に、各市町村の役所で開催している。講師のお願い等で市町村とつながりを持つきっかけにもなっている。行政職員や地域の住民にも参加していただくようにしている。

出前講座では「聴覚障害と震災」「聴覚障害について」「聴覚障害者とコミュニケーション」等を市民向けに実施し、コミュニケーションのこつをお伝えしている。

現在、仮設住宅や民間借上住宅に住んでいる聴覚障害者たちがいる。説明会に情報保障がされていないといら立つ人がいれば、家族に任せているからとひっそりと過ごしている人と多様である。情報を得られないことが聴覚障害者の日々の大きな不安の要因にもなっている。

平時にできていることは災害時にもできると言われている。笑顔や簡単なあいさつからでよいので、関わりを持っていただければと思う。聴覚障害者のコミュニケーション手段やニーズは多様である。それぞれに合った相互のコミュニケーションの保障がなされるよう、相談支援をしながら周囲に私は働きかけていきたい。

(たわきひろこ 社会福祉士)