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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

全国精神保健福祉会連合会からの意見

本條義和

国が障害者権利委員会に政府報告をまとめるときには、障害がある方々とその関係者の意見を十分に聴いて取り入れる必要があると考えます。この数年間で障害がある方々の権利尊重の面で改善が進みつつあると当会が感じている事柄、及び早急に改善が求められていると感じている事柄は、次のとおりです。

進んだと感じられる事柄

当会が関係する精神保健福祉施策で一番大きいものとしては、平成25年の精神保健福祉法改正によって、明治33年(1900年)に制定された精神病者監護法以来110年以上続いてきた保護者制度が廃止になったことがあります。また、同時期に障害者雇用促進法も改正されましたが、改正法に精神障害者の雇用義務が謳(うた)われたことも大きな変化でした。

三障害共通の変化としては、障害者自立支援法そしてその改正法である障害者総合支援法において手続き等に限定されたものとはいえ、三障害が一元化されたこと、法制度の谷間にあるとされてきた発達障害、高次脳機能障害等が障害施策の対象となることがより明確になったこと。さらに、精神障害と同様、疾病と障害を併せ持つ難病等も障害者となったことなどもあります。加えて障害者差別解消法の制定、障害者虐待防止法の制定等々、障害者関連の国内法の整備もある程度進んできたといえます。

さらに成年被後見人になれば選挙権がなくなっていたものが、選挙法改正により、選挙権が回復したことも当然とはいえ大きな変化でした。発達障害児や難病患者に対するインクルーシブ教育に目が向き始めたこともあります。

早急に改善が必要とされている事柄

(1)医療保護入院の「家族同意」

精神保健福祉法の改正によって、保護者制度は廃止になったものの、医療保護入院における家族の同意要件が残ったことは大きな問題です。本人の意思決定の尊重という観点からすると、改正前と比べ何も前進していないとも言えます。

厚生労働省の説明によると、一般医療においてもインフォームドコンセントとして家族の同意を求めるが、これと同様だとのことですが、インフォームドコンセントとは明らかに異なります。国連原則11治療の同意2によりますと、インフォームドコンセントとは「威嚇または不適当な誘導なしに、患者が理解できる方法及び言語により、適切で理解できる治療の情報を適正に説明した後に得られた承諾」を言い、あくまで本人に対するものであり、家族に対する説明は必ずしも必要でなければ家族の承諾だけでは十分でないことは言うまでもありません。医療保護入院の場合は、非自発的入院ということですから本人の明示の意思を無視し、家族とはいえ、本人とは反対の意思を表明することですから決して許されるものではないと考えます。やはり第三者の代弁者を設ける必要があります。

(2)意思決定支援

民法における後見の3類型のうち成年後見人についてはもう少し、検討が必要です。もちろん本人の意思をくみ取ることができ、それを表明するときには(いわゆる意思表明支援には)有用な手法だと思います。しかし、先に述べた医療保護入院の場合のように代諾は、本人の意思に反することを意思表示してしまう危険性を除去できないものです。

また、民法第770条の規定が見直されなかったことも大問題です。民法第770条には裁判離婚の要件として、強度の精神病になり回復の見込みがないときも配偶者の一方が、裁判離婚を請求できるとの規定ですが、権利条約第23条の両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし…に明らかに抵触していると思います。

(3)啓発教育

障害は、本人の機能障害という個人因子だけでなく障壁という環境因子もまた、社会生活に制約を加えているものであり、それを取り除く教育も大切です。その取り組みが不十分にもかかわらず、その点の言及がないことは極めて遺憾です。

権利条約第24条の教育には、障害児に対する教育のみ記載されていますが、障害児教育が障害のない児童生徒と差別なく行われなければならないとするなら、障害のない児童生徒に対しても障害児同様障害について教育すべきですし、権利条約第8条「意識の向上」に、「教育制度の全ての段階(幼年期からの全ての児童に対する教育制度を含む。)において、障害者の権利を尊重する態度を育成すること。」と明記されている以上、あらゆる教育段階において障害のあるなしにかかわらず、すべての児童生徒に教育すべきだと考えます。

児童生徒に対する、障害とこころの健康教育を充実させるためには、教員に対する研修も欠かせません。その体制が極めて不備と言えます。

(4)病棟転換型居住施設における居住地の選択権の制約

日本の人口が全世界の1.7%にすぎないのに全世界の精神科病床の19%が存在すること自体おかしいのですが、精神科病棟を居住施設に転換する構想は、権利条約第19条の「障害者が、…どこで誰と生活するかを選択する機会」を奪っている点、同条約に抵触しているものと思います。

以上の課題を政府報告に反映させるために、当会では公的会議の場等でこれらの課題について発言を続けてきましたし、これからも訴え続けます。JDF構成団体とも、連携しながら活動を進めていく所存です。

(ほんじょうよしかず 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長)