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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

政府報告及びパラレル報告作成に向けて

松井亮輔

1 政府報告に期待すること

(1)障害者団体と密接に協議すること

権利条約第35条【締約国による報告】4で「第4条3の規定(『締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者…を代表する団体を通じ、障害者と密接に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。』)に十分な考慮を払うよう要請される。」とあるように、政府報告について障害者団体を代表するJDFなどの市民社会と密接に協議することが求められる。

(2)他の者との平等の実現を目標とした報告であること

権利条約が目指す、他の者と平等な、自立した地域生活、医療ケア、教育・訓練、労働及び雇用、生活水準及び社会的保護、政治的及び公的活動への参加がどの程度実現し得ているのかについて、障害のある者とない者について比較可能なデータを収集し、この報告で公表すること。そして、両者に格差があるとするとその原因がどこにあるのか、その原因を取り除き、平等を実現するための数値目標や工程表のある行動計画等を明らかにすることなどが期待される。また、その行動計画の監視の過程にも、「市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体(JDF等))が参加」(権利条約第33条3)できるようにすべきである。

2 パラレル報告をどうとりまとめるか

(1)パラレル報告作成チームの立ち上げ

パラレル報告で検討すべき条文を、主として障害者の生活に直接関わるものに絞り込むにしても、それらの条文を分担するチームは、全体で10前後は必要と思われる。こうしたチーム(そのメンバーは、JDF構成団体関係者だけでなく、担当する条文について専門的知識や実務経験のある外部の専門家等も含め、少なくとも5人~10人程度で構成)を2015年中に立ち上げ、関連資料やデータの収集、関係団体や関係者等からのヒアリング等に向けての準備を進めること。

(2)権利委員会による審査対象となった締約国にかかる事前質問事項や総括所見、政府報告及びパラレル報告についての研究

日本政府報告を検討する参考に、すでに審査を終え、権利委員会から公表されている事前質問事項や総括所見(2015年5月現在26か国)で、各締約国に対して権利委員会がどのような質問、指摘及び勧告を行なっているのかについて研究すること。それは、日本政府報告の内容を検討し、その検討結果を踏まえてパラレル報告をとりまとめる上で、大いに参考となろう。

(3)日本政府報告の詳細検討

権利条約の条文ごとの日本政府報告の内容が、それぞれの条文で求められていることにどの程度的確に応え得ているのか、それらの達成度合い、問題点及び今後取り組むべき課題等について検討し、それらを明らかにすること。

(4)パラレル報告の作成

権利委員会から公表されている、審査済みの締約国にかかる事前質問事項、総括所見、政府報告及びパラレル報告等の研究から明らかになったこと等を踏まえ、パラレル報告作成チームが、それぞれが担当する権利条約の条文にかかる報告をとりまとめる。そのベースとなる資料やデータは、政府から公表されているものだけでなく、大学等の研究機関や民間団体による調査・研究報告書で明らかにされているもの、及び判例や事例等も幅広く集め、実証性のある報告とすること。

権利委員会による日本政府報告の審査が行われるのは、おそらく2020年ごろと予想されることから、パラレル報告(日本語版)は、2017年末ごろまでを目処(めど)にとりまとめ、その英語版を2018年前半までに完成し、権利委員会に提出するというスケジュールが考えられる。

(5)権利委員会による日本政府への事前質問事項と政府報告の審査

権利委員会によるに日本政府報告の審査が行われると予想される2020年ごろには、障害者差別禁止及び合理的配慮提供が義務化される、障害者差別解消法及び改正障害者雇用促進法施行後4年近くが経過していることから、それらの法律実施後の状況についてある程度の情報やデータが得られるものと思われる。日本政府報告の審査にあたって、そうした情報やデータを権利委員会に積極的に提供できるよう準備をすることも、パラレル報告作成チーム関係者に期待される役割であろう。

3 第2回政府報告及びパラレル報告作成に向けて

権利条約第35条2で、「(第1回政府報告提出後)締約国は、少なくとも4年ごとに、更に委員会が要請するときはいつでも、その後の報告を提出する。」とされる。それによれば、第2回の日本政府報告は2016年2月から4年後、つまり2020年2月ごろとなる。これはタイミング的には、第1回日本政府報告についての権利委員会での審査とほぼ同時期になろう。そして、第2回日本政府報告の審査が行われるのは、おそらく2024年以降となろうが、JDFとしては、第2回パラレル報告の作成について2021年ごろを想定し、その準備を進める必要があろう。

第2回パラレル報告作成に関わるチームメンバーは、第1回のそれとはごく一部を除き、かなりの交代が予想されることから、第1回パラレル報告作成に携わる関係者が、その作成過程で蓄積したノウハウが、第2回作成チームに確実に伝達されるよう、記録などの整備が求められよう。

(まついりょうすけ 日本障害者リハビリテーション協会副会長)