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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

障害者権利条約「言葉」考

「国内における監視」

石川准

「国内における監視」とは、障害者権利条約(以下、権利条約という)第33条2項に言う、条約の実施の監視のことである。権利条約は以下のように規定している。

第33条 国内における実施及び監視

2 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は2以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締約国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。

3 市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体)は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する。

国際連合はこれまで幾多の人権条約を策定してきたが、国内における監視の仕組みの維持、強化、指定あるいは設置を締約国に義務づける規定を持つ人権条約は権利条約が初めてである。

日本政府は2016年に、この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告の第1回報告を、権利条約体による監視の仕組み(国際的な監視)である「障害者権利委員会」に提出しなければならないが、国内における監視の実施も同報告の対象となることに留意が必要である。

この「国内における監視」の仕組みとして政府が指定したのは、内閣府障害者政策委員会(以下、政策委員会という)である。障害者基本法第32条第2項に、政策委員会の所掌事務について、1.障害者基本計画策定にあたって意見を述べること、2.障害者基本計画策定にあたって調査審議を行うこと、3.障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があれば内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること、が規定されている。

政府からは、第185国会参議院外交防衛委員会、2013年12月3日の政府答弁などにより、政策委員会は障害者基本法の規定を根拠として障害者基本計画の実施状況の監視を通じて権利条約の国内における監視を担当する、という解釈が示されている。

だが、障害者基本計画の実施は権利条約の実施全体を包含していない。たとえば権利条約の実施は政府、地方自治体、立法府、司法府といった国家機関全体が取り組むべきことであるのに対して、基本計画は政府の中期目標である。さらには、権利条約の国内における監視においては基本計画そのものも対象となるし、政策委員会自身もまた監視の対象である。政策委員会には、権利条約に基づく「国内における監視」を、運営における公平、中立、独立を確保しつつ進めていく責任がある。

(いしかわじゅん 障害者政策委員会委員長、静岡県立大学教授)