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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

魅力を生かして、とびだせ!ど・dot
~多夢多夢舎ものがたり~

坂部認

多夢多夢舎中山工房から夏のアート展のお知らせ

平素より大変お世話になっております。

NPO法人多夢多夢舎中山工房では、今夏、初めての美術展を開催する運びとなりました。

放課活動として「美術のじかん」を始めてから5年。まるで息をするように、自然に生まれた、数々の作品たち。その「いきづかい、いろづかい、ふでづかい」を存分に感じてもらえるような作品展です。

大変暑い季節の開催となりますが、ぜひ仙台まで、作家たちの「いきづかい」を観にいらしてください。

多夢多夢舎物語の「まくら」は、この、夏のアート展のお知らせから始まります。宮沢賢治の「どんぐりと山猫」みたいに、朝起きたら美しい絵付きのお手紙。素敵だと思いませんか?

それでは、多夢多夢舎の、愉快な仲間たちの物語。はじまりはじまり~。

始まりからの想い

13年前、仙台市青葉区中山にある住宅街の中の小さなプレハブから、多夢多夢舎は始まりました。設立当初からの、多夢多夢舎の想いは、「自分の魅力を生かせること」と「社会に参加すること」。この二つを大事にして、職員と仲間たち(多夢多夢舎では、メンバーのことをこう呼んでいます)、一緒に活動を続けてきました。

石けん作りから、陶芸、米袋のリサイクル製品、そしてアート。仕事の中身は変わっても、多夢多夢舎の大切にする想いは変わりません。職員も仲間たちも「自分の魅力を生かして」「社会につながる」ことを目指しています。

震災を経て

2011年3月11日に発生した東日本大震災。

「とにかく、のんびりしよう」。あの地震があって、幸い施設自体の被害は少なかったものの、仲間たちの精神状態は不安定で、余震にも悩まされ、いつもどおりに仕事なんかできない。「のんびりすること」が、震災直後の仕事になりました。

ゆっくりのんびり、絵を描いたり、踊ったり、お昼寝をしたりして、ひと安心。多方面からの援助があって、建物を直すことができて、もうひと安心。アートの力を借りながら、少しずつ安心をためていった日々。

そのうちに、震災バブルが福祉施設にも押し寄せました。「被災地を応援したい!」と、たくさんの注文をいただいて、作って、作って…。ふと気づいて、これでいいのかな?と。こんなに素敵で面白い仲間たちと、製品ばかり作っていてはもったいない!

震災を経て、多夢多夢舎は二つのことを学びました。「仲間たちが安心できることが、一番!」ということ。そして、「仲間たちがいきいき輝ける仕事を創りたい!」という、想い。

「うたう・おどる・あそぶ」tam tam dotの誕生

震災の後、愉快な仲間たちのアートワークを生かすためにさまざまなプロジェクトが進行しました。

震災後すぐ、障がい者のアートを仕事にするNPO法人エイブルアート・カンパニーの支援で生まれたブランド「tam tam dot」。作業中でも音楽が流れていて、思わず歌ったり踊ったりしながら作業をする仲間たち。その面白さ、魅力を、思い思いに描く「まる」の形にして届けるブランドです。このブランドに乗って、仲間たちの魅力は、どんどん展開していきます。

外とつながる・外に出る

「tam tam dot×てぬぐい」から

10メートルの高さから干されて、風にはためく色とりどりの布。仙台で創業400年の老舗「武田染工場」さんの作業場風景です。そして、風に揺られている布が、新製品の「tam tam dot×てぬぐい」。tam tam dotの楽しい雰囲気を、いつも身近に使ってほしい、という想いから生まれたこのプロジェクトは、たくさんの方の力をお借りして実現しました。

仙台市産業振興課の主催で、仙台のクリエイティブ産業の活性化を目的としている「仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアム(SC3)」。障がい者のアートを生かす活動をしている「エイブルアート・カンパニー」。創業400年、伝統的な手法でてぬぐいを染めていただいた「武田染工場」。

たくさんの人とつながることで、どんどん見出されていく仲間たちの魅力。職員も気づかなかったような「面白さ」が、みるみる形になります。そして迎えた、ギャラリーでのてぬぐいお披露目会当日。「このてぬぐいの絵は、僕が描きました」「似顔絵もできますよ!」と、仲間たちは笑顔でお客さんに応(こた)えました。仲間たちの魅力が輝いて、お客さんとの交流が生まれるとき。職員でいて、一番嬉(うれ)しい瞬間です。

愉快な仲間たちのご紹介

Aさん。バスが大好きで、時刻表はすべて暗記。毎朝バスの写真を撮ってから通所します。すれ違うバスの運転手さんには、必ず手を上げてご挨拶(これは職員に止められます)。大好きなバスを、カラフルに描いて、100台でも200台でも…。「ブスバスシリーズ」と名付けられたこのラインナップは、てぬぐいでもポーチでも大人気。製品を通して、バスへの情熱を届けています。

Bさん。時計や棚、リモコンにテレビ、何でも「ロボ」の絵にしてしまう「タムロボ」の作者です。高い描写力と独特の線が人気で、お菓子のパッケージやアパレルブランドとのコラボTシャツなど、イラストレーターとして次々仕事が舞い込んでいます。

Cさん。毎日「アイドルになりたい~」と話すCさんに、職員一同「さて、どうしよう」と辟易(へきえき)。ところが、仙台の文化の拠点、あの有名な「せんだいメディアテーク」でパフォーマンスをしませんか?という依頼が、多夢多夢舎に転がり込んだので大変!本番当日は、ステージからも飛び出して、会場全体を走り回り、素敵なダンスパフォーマンスを披露しました。今年一番の、輝く笑顔。アイドルへの階段を、登り始めていたりして…。

多夢多夢流「ノーマライゼーション」のススメ

「ノーマライゼーション」は、「障がいの有無や年齢にかかわらず、均等に、当たり前に生活できるような社会を」という考え方です。さて、今の世の中、障がいがなくても、仕事がなかったり、大変な条件で働いていたり…。

そこで、多夢多夢流ノーマライゼーションのススメ。それは、「すべての人が、それぞれの魅力を生かして生きること。そして、魅力を見出すこと」

tam tam dotの仲間たちは、ギャラリーで絵を飾り、メディアテークでパフォーマンスをして、アパレルブランドとコラボレーション、新聞にも載って、大活躍です。職員よりも、ずっとたくさん外に出て、社会に影響を与えています。

自分の魅力を生かして、社会に影響を与える。誰もがそんな働き方をするようになったら、いろんな人が生きやすい社会になるかも。仲間たちの生き方から、障がいのない人の方が学んで、「ノーマライゼーション」目指して頑張らねば!といつも思います。

最後に、もう一人ご紹介します。

Dさん。生まれつきの脳の障がいで、20歳までは生きられないと言われていました。1989年生まれ、今年で26歳になります。今まで、ほとんどできる作業はなく、健康の面からも、まずはなるべく毎日通所して、舎で一日過ごすのが目標、という方でした。

そのDさんが、最近になって、絵筆を取り始めたのです。週に一度、美術のじかんの1時間半だけ、Dさんは絵を描きます。キャンバスに絵の具を塗り重ねる、「おもみ」と「かさなり」を感じさせる絵。

実は、冒頭でお知らせした「夏のアート展」。ここに、Dさんの絵が飾られます。26年の重なりのような、大切な絵が、ようやく世の中に飛び出す、初めての機会です(残念なことにこの展示は、この原稿が皆様に届けられる時にはすでに終了しているのですが…)。

でも、多夢多夢舎物語はこれからも続いていきます。安心できる毎日があり、外に飛び出せる仕事があります。ご興味のある方は、ぜひぜひ、多夢多夢舎に遊びに来てください。愉快な仲間たちが、いつでもお出迎えします。

(さかべみとむ 多夢多夢舎中山工房)


http://tamutamu.jp