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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

障害当事者からの意見

「意味づけ介助」と「同期的マルチモーダルな情報保障」

綾屋紗月

発達障害のうち、自閉スペクトラム症の診断基準は主に「社会的コミュニケーションと社会的相互作用における持続的な欠損」と「行動、興味、活動の限局的かつ反復的なパターン」とされる(DSM―5)。しかし、そもそも社会的コミュニケーション・相互作用とは、複数の人と人との「間」に生じる現象であり、その欠損もまた両者の間に存在し、個人の側だけに押しつけることはできないはずである。

このような視点を踏まえて、自閉スペクトラム症の診断を持つ私は、対人関係以前に抱える私個人の身体的特徴について「多くの人よりも身体内外からの情報を細かく大量に、等しく受け取っているため、それらを絞り込み、意味や行動にまとめあげるのがゆっくりである」とする「まとめあげ困難説」を提唱してきた。この特徴の結果、私は「耳は聞こえるし目も見えるけれど、意味が取れない」という状況に陥りやすいのだと考えている(綾屋・熊谷、2008)。

ここで、あくまでも個人的な体験をもとにしたコミュニケーション支援を提案するならば、まず挙げたいのは「意味づけ介助」である。いま目の前で現実に生じている状況の意味や、他者の発言の背後にある目的・意図などの推測を、必要な時に同僚と共有する支援のおかげで、私は今の活動を継続できていると感じている(リアルタイムの解説が難しい時は事前・事後でもかまわない)。

さらに、ある社会的場面におけるメンバー構成や目的によって、個人に求められる役割やふるまいが次々と変化する中で、私自身の発言や行動が適切であったかどうかについてフィードバックを得ることも助けとなってきた。

もうひとつの提案は、「同期的マルチモーダルな情報保障」である。私の場合、音声情報も文字情報も、ひとつのモダリティだけでは確信が持てない曖昧(あいまい)な情報になりやすいが、2つのモダリティが同期することによって、意味が絞り込まれて明確な情報になることが多々ある。音声と文字のほかにも、音声と手話、音声と振動などの組み合わせで効果を得ている。ただし同期性のないマルチモーダルな情報は、あふれる情報の海となり逆効果である。複数感覚の緻密な同期的一致が何より肝心だと実感している。

(あややさつき 東京大学先端科学技術研究センター特任研究員)


【文献】

・綾屋紗月・熊谷晋一郎著『発達障害当事者研究』医学書院、2008年。