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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

障害当事者からの意見

生きていくために必要なコミュニケーション

岡部宏生

私は、呼吸器を装着して6年になります。普段のコミュニケーションは「口文字」と「文字盤」を介して、仕事やメールのやり取りは特殊なスイッチを用い、パソコンを利用しています。

私にとってコミュニケーションは呼吸器と同じくらい生きるために必要なことです。今回は、当事者として、現在のコミュニケーション支援体制の課題を二つあげさせていただきます。

一つは、「入院時コミュニケーション支援」です。現在、我々のようなコミュニケーションに特殊な方法が必要な患者は、入院の際にこの支援を利用し、普段のヘルパーさんがコミュニケーション支援者として入ることができます。しかし、この支援は自治体により時間数が異なり、平均すると1日に2時間程度の介入が限度です。

コミュニケーションは言葉だけではありません。ケアにとってコミュニケーションは手段です。ケアがあるかぎり手段は必要不可欠なものです。医師や看護師に思いを伝えるだけであれば1日2時間でも良いのでしょう。しかし、生きていくために必要なケアをするための手段としてのコミュニケーションと考えた時、時間数が短すぎます。「入院時コミュニケーション支援」が本当に利用者、家族にとって使いやすい制度になることは課題の一つです。

もう一つは、「コミュニケーション支援機器を使い続ける支援」です。一昔前に比べると、コミュニケーション支援機器の導入はスムーズになりました。しかし、使い続けるための支援は十分とはいえません。特にALSは進行性の疾患であるため、ある日突然スイッチが使えなくなることもあります。進行に応じて適切なスイッチを選び、使い続けられる支援がなくては、せっかくの機械も意味がありません。

現在、この部分の支援は機器を提供した業者がメンテナンスの一部として行うか、ボランティアレベルの報酬によってコミュニケーション支援の専門家にお願いしているのが現状です。コミュニケーション支援の専門家がもっと患者さんと関わりあえるような支援体制構築の必要性も課題の一つです。

私は現在、日本財団助成事業として「コミュニケーション支援構築事業」の実行委員長をさせていただいております。各地域で実態調査をし、講習会、シンポジウムを行いますが、毎回新しい課題が見えてきます。この活動を通して、少しでも多くの患者さんがコミュニケーションをとり続けていける一助になればと感じております。

(おかべひろき 日本ALS協会副会長)