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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

障害当事者からの意見

遠隔コミュニケーションの可能性

池崎悠

来年4月に障害者差別解消法が施行されるにあたり、障害をもつ人へのコミュニケーション支援について、今後より広く議論がなされるだろう。難病当事者として、あるべき支援の形について考える。

私は慢性炎症性脱髄性多発根神経炎という神経難病を患っているが、現在、日常生活動作はすべて自立しており、コミュニケーションを取る上で特別な支援は必要としていない。

そんな私が難病当事者として活動をする中で強く要求したいのは、遠隔コミュニケーションの充実である。多くの難病患者の体調は一定ではなく、翌日や当日の調子ですら確実に予測することは難しい。そんな中で、定例の会議や打ち合わせに実地で参加するのは患者に多くの負担を強いる。そこで、私たちのグループはインターネット電話サービス(Skype)による会議を実施している。また、集まれるメンバーは集まり、無理なメンバーはSkypeで参加、といった形態も取り入れている。

たしかに、顔を合わせるコミュニケーションでしか得られないものはある。表情の微かな変化、声のトーン、姿勢等々。これらの非言語的要素が担う部分は多分にあるが、最近はビデオ通話の質も向上しており、致命的な問題であるとは言えないだろう。加えて、難病当事者が就労や非営利活動といった社会的行為に継続的に参画していくためには、肉体的負担をいかに軽減するかが非常に重要である。毎回のコミュニケーションの質を高めるために当事者が命を削っては本末転倒である。

このような形のコミュニケーションは、私たちのような当事者の割合が多い非営利組織では、比較的容易に運用可能であると推察される。しかし、これは行政や民間の事業所でも保障されるべきものである。

行政の分野においては、多くの重要な会議が中央にて催される。遠隔コミュニケーションの実施体制が整えば、より多くの当事者、また僻地(へきち)の当事者の参加も可能になる。民間の事業所においては、難病患者の在宅就労の可能性を多いに広げることになるだろう。

問題が顕在化しにくく、自分でもどのような支援が適切なのか分かりにくい難病患者にも、障害の特性に合ったコミュニケーション支援が提供されるべきである。前述のような遠隔コミュニケーションは、そのような当事者のニーズを包括的に満たすものであると考えられる。3年後の法律の見直しを見据え、どのような形の配慮が自らにとって適切なのか、常に問い続けていきたい。

(いけざきはるか 難病NET.RDing福岡)