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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

第12回当事者研究全国交流集会・第23回べてるまつり in 浦河レポート

伊藤知之

2015年7月30日・31日。人口約1万3千人の北海道浦河町の総合文化会館は熱気に包まれていました。「第12回当事者研究全国交流集会」と「第23回べてるまつりin浦河」が行われたからです。今回も、2日間で延べ800人近くの方が浦河に来てくださいました。

当事者研究全国交流集会は、浦河発のセルフヘルププログラム「当事者研究」を通じて、全国で当事者研究をしている仲間の研究発表や、当事者研究に関する講演などを行い、参加者同士が分かち合い交流する会です。今年は、分科会形式で、ポスター発表も含めると30題近くの研究発表が集まりました。

今回の当事者研究交流集会は「見る当事者研究」がテーマでした。初めに、統合失調症をもつ実行委員長の浅野智彦さんが挨拶をしました。浅野さんのサポートは、今大会の事務局を務めた自助団体「NPO法人セルフサポートセンター浦河」の本田幹夫さんと池松靖博さんが務めてくれました。

基調講演は、福島県立医大教授の丹羽真一先生による「当事者研究に期待するものー当事者研究は日本発・世界先端の治療パラダイムー」と題したものでした。おかげさまで、全国で当事者研究をする仲間や支援者も増え、当事者研究を研究する方も増えてきましたが、丹羽先生のお話はその集大成として、当事者研究を世界に発信しようというものでした。

続いて、和光大学の伊藤武彦先生と聖隷クリストファー大学の小平朋江先生は「当事者研究の可視化・テキストマイニングによる探求」という、当事者研究に頻発する言葉についての研究発表を聞かせてくれました。

当事者研究は、今年度から東京大学で講座も開かれましたが、東大の熊谷晋一郎准教授が講演の最後にスカイプで参加してくれました。当事者研究を生かして、発達障がい当事者が見える世界を体感できる機器作りに生かすなど、当事者研究と科学を結びつける話をしてくださいました。

研究発表は、「見る当事者研究」のテーマに沿った研究がたくさん集まりました。たとえば、べてるのメンバースタッフの方は、分科会に参加している人と一緒に歌って踊る研究を発表していました。また、ポスター発表で展示するポスターをその場でお母さんと作成した小学生の男の子もいました。

とりわけ研究発表で印象が強かったのは、向谷地生良さんと石巻に講演に行った時に出会った及川陽子さんの「病識の研究」でした。及川さんは精神科病院から外出許可をもらい講演に参加し、その場で向谷地さんにスカウトされ、その場で研究を約束してくれました。その後、今回の発表にエントリーし、浦河で発表してくれました。分科会の最後に、2週間ほど前に退院したことを話してくれました。私もうれしかったです。

また、今年のべてるまつりは「世界の苦労と出会う」がテーマでした。アメリカ、韓国、スリランカ、バングラデシュからゲストを招いて、各国の精神保健の取り組みを紹介する国際的なトークを行いました。

韓国のキムさんからは、数年前から始まった当事者研究の紹介やいろいろな意味で日本の後追いをしている韓国の精神保健の現状が報告されました。

スリランカのプリヤンタさんからは、2009年まで内戦状態にあったスリランカの障がい者を支援する拠点・ネストの取り組みと、べてるの取り組みに触発されてできた織物の事業などの紹介がありました。べてるの「商売しよう!」という理念がスリランカでも通用すると聞いていて実感しました。

バングラデシュのタニヤさんからは、べてるのメンバーの亀井英俊さんやスタッフや向谷地さんが訪問した、自宅の檻(おり)に入ったままの統合失調症の少女の様子や、バングラデシュの社会状況、べてるの寄付プロジェクトの報告などをしてくれました。

以前、向谷地生良さんと亀井英俊さん、べてるのスタッフ、関係者がバングラデシュに行った際、施設への移動手段として電動の「リキシャ(この呼び方の由来は日本の「人力車」からだそうです)」を送ろうと思い、昨年のべてるまつりの会場や全国各地のべてるの講演会で1年以上かけて募金を行いました。その甲斐(かい)あって、現在総額32万円の寄付金が集まり、先日、無事にリキシャを送ることができました。

リキシャには、現地の福祉の拠点「ラルシュ」と日本の支援の窓口のべてるのマークが施されています。バングラデシュ訪問時に向谷地さんたちが会った、家の檻の中にいた少女も、当時は外出を拒むことが多かったのですが、リキシャが来たことでバングラデシュの施設に通うことができるようになったとの報告が最後にありました。

バングラデシュの人口は、日本よりも少し多い1億5千万人ですが、精神科医はわずか60人しかいません。バングラデシュの医療の現状は、日本では考えられないくらい貧しいものだそうです。そうしたバングラデシュに、通所や通院の手段としてリキシャを送ることができたことは大きな意味があると思います。今後も、べてるは世界の苦労の集積拠点としての役割を果たしていくのではないかと思いました。

アメリカ・エール大学の中村かれんさんは、アメリカから見たべてるや当事者研究の取り組みと、アメリカで出版したべてるを紹介した本『クレイジー・イン・ジャパン』の反響、スタンフォード大学の比較幻聴学の紹介など、たくさんの話題を提供してくれました。かれんさんの研究によると、先進国アメリカの幻聴さんは悪口を言うものが多く、途上国の幻聴さんは褒めてくるものが多いのだそうです。「ほめほめ幻聴さん」の研究をしている亀井さんには、ぜひエール大学で研究を紹介してきてほしいと思いました。

また、べてるまつりのクライマックスイベントとして、幻覚&妄想大会が毎年行われています。べてるでは、病気を否定せずに、幻聴や妄想もありのまま捉えています。この幻覚&妄想大会も豊かな「病気」を表彰するものです。毎年、これを見るために飛行機に乗って浦河まで来る方も多いです。

今年のグランプリは、幻覚&妄想大会史上初の、メンバー大貫めぐみさんの「幻聴さん」が受賞しました。これまで「人」が受賞することが多かったですが、「病気」が受賞するところに浦河の良さがあると思います。以下に、大貫さんの幻覚&妄想大会グランプリの賞状を転記します。

幻覚&妄想大会 グランプリ賞 
大貫めぐみさんの幻聴さんご一同様

大貫めぐみさんの幻聴さんご一同様、あなたは長年ヤンキーだっためぐみさんがやけくそ状態になり、人生が脇道(わきみち)にそれるたびに緊急出動をされ、脱線を防ぎ、川村先生や仲間のところに誘導されたばかりではなく、寂しいときには、こころの隙間をうめるために男性幻聴さんが肌を温め(ちょっとエッチです)、孤独な時には手を握り、身体の中にも常駐され、いつでも駆け付けられるように努められました。

特に今年の3月、ヤンキー状態になっためぐみさんを救出すべく、皆さんは「悪い組織」を使って追いかけまわし、めぐみさんは夜、降りしきる雨の中を裸足(はだし)でさまよい、ついに元祖べてるの家にたどり着き、潔さん達仲間に助けを求めることができました。お陰様でそれをきっかけに、めぐみさんはヤンキー状態を脱し、仲間を大切にし、当事者研究にも取り組まれ、6月にははじめて仲間たちと講演活動にも参加することができました。これも、ひとえにめぐみさんを見捨てずに、長年、応援してくださった幻聴さんご一同様のお陰です。

よってここに幻覚&妄想大会グランプリを差し上げます。副賞として、めぐみさんに「幻聴さん付抱き枕」と「幻聴さん付バスタオル」を差し上げます。

2015年7月31日

幻覚&妄想大会実行委員長 佐藤太一

(昨年のグランプリのメンバー。水を飲めと言ってくる幻聴のピカチュウに似た「ウラチュウ」さんに苦労しています。)

大貫さんに幻聴さんがいて助かっていることは、1.気持ちをわかってくれる、2.注意をしてくれる、3.くすりや食事のアドバイスをしてくれる、4.休めといってくれる、の4点だそうです。

表彰式では、私・伊藤が茶髪のかつらをかぶり、大貫さんの役となって、幻聴さんにサンドイッチにされてパチンコ屋や男性の所に行ってしまう現象をロールプレイで演じました。

病気を否定せずに楽しみ、商売にも結び付けるべてるの方法は、ここ数年でサポーターの間に広く受け入れられてきています。来年のべてるまつりにもたくさんの人が来てほしいです。

(いとうのりゆき 浦河べてるの家)